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しゅうまつに楽園を壊した話

茹だる様な暑さの中、私はそこに立っていた。

この季節からは考えられないほど明らかにおかしい気温。
歳を重ねるごとに更新を重ねる最高気温は、世界の海面を徐々に上昇させ
このままあと数百年もすれば国のいくつかは海に沈んでしまうだろうと言われている。
ある預言者の言うしゅうまつはこの事を指すと言われていたが、
そのしゅうまつはもう少し早く来るのかもしれない。

ある時どこかの国から生まれた未知のウィルスは、瞬く間に世界に広がり
犠牲者が数万を超えたあたりから世界の国々は次々と緊急事態宣言を発令していった。
物資が今までのように供給されることはなくなり、ある国では暴動が起き
またある国では仕事を失い街は路頭に迷う者であふれた。

私も仕事を失った一人だ。
だが私の場合すぐにあたらしい仕事はみつかった。
またあの仕事に戻るのは憂鬱だが、生きる為には仕方がない。
仕事をするのは明日。今日は早めに支度を済ませ少しキツめの酒をあおる。しゅうまつが近いのだ、酒を飲まなければやっていられない。


日が昇る前に目が覚めた。
昨日の酒は体に残ってはおらず、目醒ましに頭から水を浴びる。
今朝のニュースでいよいよ世界がしゅうまつになったことを知った。
仕事へ向かう道中で人と会うことはほとんどない。
しゅうまつとは案外静かなものなんだなと皮肉めいた事を考えていると、
いつの間にか目的の場所へと着いていた。

道具を下ろし、目標となる場所へ目を向け言葉を失う。
深い谷の合間、人の目からはほとんど映らない秘境ともとれる様な所に楽園が築かれていた。
深い緑に覆われた広大な地には数えきれない程多数の種族が共生し、生活を営んでいた。
言葉は通じるのであろうか、習性の違いから起きる争いはないのか、にわかには信じられない光景であったが確かにそこには人類が夢見た楽園が存在していた。
えてして楽園とは地図にも載らないような所に存在するのだと実感する。

実感すると共に辟易する。

何故なら今から、あの楽園を壊しに行くのだから。

何故ならそれが、私の仕事なのだから。


両手に道具を携えて仕事にかかる。
まずは彼らの住居を壊す。
切り倒し、薙ぎ倒し、踏み付け、蹂躙する。
突然の事に誰も彼も慌てふためき、大抵の者は逃げ出す。
時折槍を持った兵士が周りを囲み威嚇をしてくる。
でも私は止まらない。
こちらから何もしなければ、彼らが攻撃してくることはないと知っているからだ。
そんな彼らに目もくれず、ただひたすらに、目の前にあるものを壊していく。
丹念に、丁寧に、通った後は草木一本残さぬよう、入念に壊していく。

そんな彼らの目に、私はどう映っただろうか。
気付けば辺りには誰もいない。
先程まで平和に過ごしていた数百の種族と数千の住人は、今や散り散りとなり、長らく彼らの楽園だった場所はわずか一日で終わりを迎えた。

最後の住処を壊し終え、ふと空を見た。
その日の夕日はいつもより朱く、しゅうまつにふさわしい朱だった。

仕事を終え依頼人の家に顔を出す。
長らく占拠された楽園の崩壊に、依頼人は満足したように笑い報酬を手渡してきた。
こちらもそれに応え、証拠の写真を見せる。


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「あら~、とてもきれいにきってくださったのねぇ。」

長年虫に悩んでいたからあれだけ丁寧に切ってくれて助かったと、依頼者は感謝の言葉を述べ、冷たい麦茶をご馳走してくれた。

「また是非よろしくお願いします。」
そう言って私は、家を後にし近くの店へ向かった。


週末の夜はこれからだ、と。

                            終わり

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