『VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学』
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『VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学』

FUKUKOZY
◆心理学✕テクノロジー、仮想現実の最前線◆
・VR内での体験を、脳は現実の出来事として扱ってしまう
・VR内で第三の腕を生やしたり、動物の身体に〝移転〟しても、脳はすぐさまその変化に適応し、新たな身体を使いこなす
・イラク戦争後、〝バーチャル・イラク〟を体験するVR療法により、PTSDに苦しんでいた二〇〇〇人以上の元兵士が回復した
・VRで一人称視点の暴力ゲームをプレイすると、相手が仮想人間だとわかっていても生々しい罪悪感を覚える
・仮想世界で一日過ごすと現実と非現実の違いがわからなくなる
・VRユーザーの身体や視線の細かな動きは、正確にデータ化できる
・そこからその人の精神状態、感情、自己認識がダイレクトに読み取れる


結局,VRとは?

「VR元年」と言われて久しい今日この頃,「VR」という技術は私たちにとって聞き慣れない言葉ではなくなったのではないだろうか.

しかしながら,結局「VR」とは何か,「VR」はどんなことをもたらしてくれるのか,そのアウトラインを実のところ,私たちはぼんやりとしかつかめていない.

VR研究の第一人者として長年VRの研究に携わってきた著者は,本書の冒頭にて「VR」を

実際の経験とそっくり同じではないものの,これまで存在しこれまで存在したいかなるメディアよりもはるかに強い心理的影響力を持つため,我々の生活を劇的に変えることになりそうだ.
VRは過去に存在しなかったまったく新しいメディアであり,他のメディアにはない独自の特徴と心理的効果を持ち,我々が身の回りの現実世界や他人と関わる方法を完全に変えてしまうのである.

と評する.

FacebookがOculusを買収し,VRに力を注いでいる.そして,最近リリースされたOculus GoはVRというものの存在をより身近に感じさせることに成功した.
今,VRは確実に私たちの生活に入り込みつつある.そしてVRはこれまでのメディアとはまったく異なった「経験」を私たちに与えるものだという.

その時,私たちはVRが何をもたらし,何に影響を与えるのか,理解しておくべきだ.本書は著者の専門である心理学の視点からVRについて豊富な活用例を示しつつも,その影響力の危険性にも触れていく.


私たちは誰にでも共感できるわけではない

本書の中に収められたいくつかの事例から「共感」についての事例を取り出してみよう.

私たちは常日頃,「共感」という行為を十二分に働かせられるわけではない.スタンフォード大学の心理学者ジャミール・ザキが提供する共感モデルによれば,”成熟した共感”には感情と認知だけではなく「意志」が必要だという.「意志」とはつまり,そもそも「共感」によって自分も辛い気持ちを味わうことを選択する意志を持つかどうか,ということだ.
「共感」によって辛い感情を抱いてしまう,つまり自分の精神に負荷をかけてしまうことを避け,知らず知らずのうちに私たちは「共感」を鈍化させてしまっているらしい.

本書では,以上のことからジャミール・ザキによる人間の「共感しない動機」と「共感する動機」がそれぞれ三つずつ挙げられている.

共感しない動機
●精神的苦痛から逃れようとするため
●支援金など物的コストを負担したくないため
●職場や人目のある環境で軟弱な行為をする行為をすると競争上不利になるのではないかという懸念
共感する動機
●良い結果につながる善行をしたい
●友達や家族など仲間内の人びととの親密度を高めたい
●他人に善人と見られたい

つまるところ「共感」とはその人が置かれた環境によって先鋭化もされれば,鈍化もするということだ.
「共感」が鈍化してしまうと,私たちは他者への想像力をどんどん失ってしまう.そうした世界には希望はないのではないだろうか.

共感力を高める方法のひとつとして「視点交換」というものがあるらしい.簡単に言えば「他者の視点から世界を見る」というものだ.
ここでVRの出番.たとえば,老人の視点,色盲の方の視点を正確に再現し,体験してもらうことで,共感力が高まることが実験で証明されていると本書には記されている.
ステレオタイプな教訓話では下手すれば偏見を強めてしまう.実際にVRで「経験」してもらうことで共感力は強められる.本書では,そんな実験の成果が示されている.


強い影響力はプラスにもマイナスにも転じる

こうした華々しい実験の効果が本書では示されているが,一方では,その効果が悪影響に転じることにも触れられている.

上で触れたようにVRは「共感」に対して強い影響力を持つ.ということは,よい共感だけではなく,暴力的な事柄への「共感」も強めてしまう危険性もあるということだ.
VRはその強力な心理的影響力を持つからこそ,強力な洗脳装置にも転じてしまう.

新しいテクノロジーが浸透していくことは大いに歓迎すべきことだが,一方でそのテクノロジーの影響の表裏を見定めることも重要だ,ということを本書は教えてくれる.


「テクノロジーよくわからないけどなんか考えておじさん」

AIやら自動運転やら新しい技術がにわかに話題になっている今,メディアに度々露出する単語に触発されて周りに現れる「テクノロジーよくわからないけどなんか考えて」とのたまうおじさんにあなたも悩まされていないだろうか.

例に漏れず,VRもあらゆる事柄に活用可能な技術であり,世間の注目を浴びるようになってきた.だからこそ,著者はVR制作者が肝に命ずべき3つのルールを書き記す.ここにはテクノロジーよくわからないけどなんか考えておじさんこそが肝に命ずべきエッセンスが詰められている.

①「それはVRである必要性があるのか」と自問しよう
②ユーザーを酔わせてはならない
③安全を最優先する


もう一度言おう.
VRはまったく新しいメディアであり,可能性が大いにあり,私たちに大きな影響をもたらし得る技術だ.だからこそ,そのテクノロジーの影響の表裏を見定めることも重要だ.

新しいものに触れるために,そのものへの理解の姿勢を示さないで何ができようか.本書の包括的な姿勢はそんなことを改めて感じさせてくれる.



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建築専門誌の編集者→バーチャルへ. 91年生まれ.リアル / バーチャル空間について考える. xRと建築のコミュニティ「xRArchi」/VRAA運営/日本バーチャルリアリティ学会認定VR技術者