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東京は一体どこへ?─『建築の東京』

2013年9月、東京オリンピック開催が決まるや前年のコンペで選出されていた新国立競技場ザハ・ハディド案がメディアで騒がれるようになり、2015年7月には安倍首相が「白紙撤回」を表明、同年末のデザインビルド方式の再コンペで隈研吾+大成建設案が採用されるにいたった。
2016年8月、就任直後の小池都知事は目前に迫っていた中央卸売市場の移転延期を決定するも、その後は迷走を重ね、豊洲「安全宣言」を経て築地は五輪開催期間限定の輸送拠点と定められた。メインか副次的かの違いはあれ、いずれも来るべきものの具体的青写真が不明瞭なまま、はじめにスクラップ&ビルドありきで既存施設がさっさと解体されたという印象は拭えない。

平成から令和へ。オリンピックを前にして東京はいかに変貌したか? 一貫して都市の「メタボリズム」を重視し、「すぐれた建築が壊されるとしても、その後に志のある建築がつくられるなら必ずしも反対しない立場」をとる著者が近過去に登場した建築=景観、丹下健三・岡本太郎以後の建築家・アーティスト双方による東京計画・未来都市の系譜、各種メディアのなかの東京を検証する。

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本書は平成から令和にかけての東京の建築の状況に触れつつ,東京オリンピック大会を控え青写真を描かないままさまざまな再開発を行い,スクラップ&ビルドを行う東京に苦言を呈す.もはや東京はかつてのような最先端を発信する場所ではなく,ただただ保守的な場所になっていると(そういえば著者は「反東京としての地方建築を歩く」という連載を書いている).

たとえば,第2章の「保守化する東京の景観」では,2018年に発表された日本橋上空を通る首都高の地下化に触れる.
かつて世界でも最先端のプロジェクトであり,交通インフラが重層する世界的にも珍しい場所である日本橋をあえて巨額を投じて地下化を遂行する必要があるのかと問いかける.また,日本橋地域ルネッサンス100年計画委員会が提示する首都高撤去後の日本橋の将来像のイメージパースにも触れ,ヨーロッパ「風」の街並みとかつての木造の日本橋「風」の構造物が描かれていることに疑問の声を挙げる.

この地下化に関連して,kk線を緑道化する案も提出されていたが,NYのハイラインを思わせるこの提案がどこまでの現実性を持って提案されているかは分からない.
矢継ぎ早に計画を重ねるのではなく,パリのオルセー美術館が当初の駅としての利用がされなくなり数十年後に美術館として再起を果たしたように,「とりあえず放っておく」という方法もないのだろうかと勘ぐってしまう.

本書の調子はこうした苦言を呈すことであり,それが逆説的に東京の現在・未来を考えさせる1冊となっている.

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