棄てられた者の行方 16

 この頃のダビデの部隊は、非合法の野合集団のようなもので、サウルから逃れながら、近隣を外敵から守るという用心棒のような働きで収入を得ていた。土地によっては、そのことに感謝してダビデに味方をする場合も、反対にサウルに密告する場合もあった。そのような中、ペリシテ人がイスラエル南方(ユダ地方)のケイラを襲い、麦討ち場を略奪しているという知らせがあったので、ダビデはアビアタルを通して神に託宣を求めた。これは実際には、祭司がくじを引いて、肯定か否定かの二者択一で答えを得るものだった。祭司は祭服の胸当てであるエフォドの中にウリムとトンミムと呼ばれる二つの石を入れていて、その一方を取り出して答えとした。アヒメレクの子アビアタルはダビデのもとに逃げて来た時に、エフォドを彼の手に持って来ていた。ダビデは尋ねた「行って、このペリシテ人を討つべきでしょうか。彼らは麦討ち場を略奪しています」。神はダビデに言った「行け。あなたはペリシテ人たちを討ち、ケイラを救うだろう」。ダビデの部下たちは彼に言った「ご覧ください。私たちはユダのここにいてさえ恐れています。私たちがペリシテの軍隊に向かってケイラに行くことはそれ以上のものです」。そこで再びダビデは神に尋ねた。神は彼に答えて言った「立て。ケイラに下れ。なぜなら、この私があなたの手にペリシテ人たちを与えたからである」。そこでダビデと部下たちはケイラに行き、ペリシテ人たちと戦った。彼は家畜を持ち帰り、彼らを大いに虐殺した。こうして彼はケイラの住民を救った。ダビデがケイラに入ったことがサウルに告げられた。サウルは言った「神は私の手によって、彼を退けた。なぜなら彼は門と閂のある町に入って、自らを閉じ込めたからである」。そしてサウルは戦うために兵を招集し、ケイラに下って、ダビデと彼の部下たちを包囲した。ダビデはサウルが彼に対して計略を企んでいることを知った。そこで彼は祭司アビアタルに言った「エフォドを持って来なさい」。ダビデは言った「イスラエルの神よ。あなたのしもべは、サウルがケイラに来て、私の故に町を滅ぼそうとしていることを確かに聞きました。ケイラの人々は彼の手に私を引き渡すでしょうか。サウルはあなたのしもべが聞いたように、下って来るでしょうか。イスラエルの神よ。どうかあなたのしもべに告げてください」。神の回答は「彼は下って来る」だった。ダビデは言った「ケイラの人々は私と私の部下をサウルに引き渡すでしょうか」。神の回答は「彼らは引き渡すであろう」だった。そこでダビデと彼の部下およそ六百人は立って、ケイラから離れた。そして彼らが行けるところまで行った。ダビデがケイラから逃れたことがサウルに告げられたので、彼は出て行くことを諦めた。ダビデは砦がある荒野に留まった。そしてケイラからさらに南にあるジフの荒れ野の丘陵地にとどまった。生涯サウルはダビデを探したが、彼の手に渡されることはなかった。一方、ダビデはサウルが彼の命を狙って、いつでも出て来ると見ていた。サウルの息子のヨナタンがホレシャのダビデのもとにやって来て、ダビデを力づけた。彼は言った「恐れるな。私の父サウルがあなたを見つけることはないからだ。あなたはイスラエルを治めるようになるだろう。そしてこの私はあなたの次の者になる。私の父もそのことは知っている」。彼ら二人は神の前で契約を結んだ。そしてダビデはホレシャに留まり、ヨナタンは自分の家に帰った。

 ジフ人たちがギベアのサウルのもとに来て言った「ダビデは我々の所、イェシモンの南側にあるハキラの丘のホレシャの砦に隠れているではありませんか。そこで今、王よ。下って行くというのがあなたのみ心ならば、下って来てください。そして我々のために、王の手によって彼を降伏させてください」。サウルは言った「お前たちは神に祝福されるように。なぜなら私に対して同情してくれたからだ。どうかもう一度行って、確かめてくれ。そして彼の溜まり場となっているその場所を見、誰がそこで彼を見たかも探りなさい。彼は非常にずる賢いと、人が私に言っているからだ。彼が隠れて潜んでいる場所の全てにわたって、見て知りなさい。そして私のところに情報をもたらしなさい。私はお前たちとともに行って、もしその地に彼がいるならば、ユダの数千人の中からでも探し出そう」。彼らは出立し、サウルの前から出て行った。一方ダビデと彼の部下たちはジフから数キロ南方のマオンの荒野にいた。そして後から、サウルと彼の部下たちも探し出すために出かけた。人々がダビデに告げたので、彼は岩を下ったが、マオンの荒野に留まり続けた。サウルはそれを聞いて、マオンの荒野でダビデを追跡した。一方の山側をサウルが行き、もう一方の山側をダビデと彼の部下たちが行った。ダビデはサウルの前から逃げようと急いだ。しかしサウルと彼の部下たちは、ダビデたちを捕まえようと次第に近づいて行った。すると使者がサウルのところへ来て言った「急いで来てください。ペリシテ人たちが土地に侵入して来ました」。それでサウルはダビデを追うことをやめて戻り、ペリシテ人と会戦するために出かけた。それゆえに、ダビデはその場所を逃れの岩と呼んだ。

 ダビデはそこから北東に上って行って、死海のほとりのエンゲデの砦に住んだ。サウルがペリシテ人たちへの追跡から戻った時、人々が彼に告げて言った「ごらんなさい。ダビデはエンゲデの荒野にいます」。サウルは全イスラエルから選ばれた三千人を連れて、エンゲデにある野やぎの岩の前にいるダビデと彼の部下たちを探しに行った。彼は途中で羊の牧草地に来た。するとそこには洞穴があった。サウルは用便をするために洞窟の中に入った。しかしダビデと彼の部下たちがその洞穴の奥に座っていた。部下たちは彼に言った「ご覧なさい。神があなたに『見よ。私はあなたの手にあなたの敵を与える』と言われたのは今日のことなのです。あなたはあなたの目に良しとすることを彼に行うべきです」。そこでダビデは立ち上がり、サウルに対して密かに上着の裾を切った。後になって、彼はサウルが着ている裾を切ったことに対して心に痛みを覚えた。彼は部下たちに言った「このことをすることを神に禁じられている。それは神に油を注がれている私の主人に手を伸ばすことなのだ。彼は神が油を注いだ者なのだ」。ダビデは彼の部下たちをこうした言葉で説得した。そしてサウルに立ち向かうことを許さなかった。サウルは立ち上がり、洞穴から道に出た。ダビデも後に続いて立ち上がり、洞穴から出た。そしてサウルの背後で呼びかけて言った「王様。主よ」。サウルは後を振り返った。それでダビデは顔を地に屈めてひれ伏した。ダビデはサウルに言った「あなたは『ご覧なさい。ダビデはあなたを傷つけようとしている』と言う人の言葉など、どうして聞き入れるのですか。ご覧なさい。今日洞穴の中で、私の手に神があなたを与えたのをあなたの目は見ましたか。部下はあなたを殺すように言いましたが、あなたはそうされないで済みました。私は言いました『主人に対して手をかけてはならない。彼は神が油注がれた者なのだ』。我が父よ。私の手の中にあるあなたの上着の裾をよく見てください。あなたの上着の裾を切ったときに、私はあなたを殺しませんでした。私の手には悪や反逆がないことを見て知ってください。私はあなたに罪を犯しませんでした。しかしあなたは私の命を奪おうと追い求めています。神が私とあなたとの間を裁いてくださいますように。神があなたのことで、私に報いてくださいますように。私の手はあなたに逆らっていません。昔の諺が言っているように『悪人からは悪が出る』のです。しかし私の手はあなたに逆らっていません。誰の後を追ってイスラエルの王は出て来たのですか。あなたは誰の後を追っているのですか。死んだ犬の後を、一匹のノミの後を追っているのです。神が私とあなたの間の審判者、裁き人であられますように。そして神が見て、私の訴えを裁き、あなたの手から救ってくださいますように」。ダビデがこれらのことをサウルに語り終えた時に、サウルは言った「我が子ダビデよ、これはお前の声か」。そしてサウルは声を上げて泣いた。サウルはダビデに言った「お前は私より正しい。この私は悪でお前に報いたのに、お前は善で私に報いたからだ。お前は今日、私に善いことをしたことを明らかにした。すなわち神が私をお前の手の中に置いたのに、お前は私を殺さなかった。人が自分の敵を見つけたのに安全な道に去らせるだろうか。神が今日、お前が私にしたことのゆえに、お前に良い報いを与えてくださるように。見よ、今こそ私は知った。お前は必ず王となるであろう。イスラエルの王国はお前の手によって確立するだろう。そこで今、私の子孫を、そして私の名前を、私の父の家から切り捨てないと、神によって私に誓ってくれ」。ダビデはサウルに誓い、サウルは自分の家に去って行った。そしてダビデと彼の部下たちは砦に上って行った。

 この頃、サムエルが死んだので、人々は集まり、彼を悼み、ラマにある彼の家に葬った。しかし、サムエルによって始まった王国はまだ黎明期であり、混乱の渦中にあった。そしてサウルもダビデもその中でもまれ苦しんでいた。


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