悠久の流れ 10

 彼らがソドムに到着する頃には夕暮れが迫っていた。ロトは畑仕事を終えて、町の門の広場に座り一休みしていた。ふと彼が目を上げると、町の門に彼らが立っているのが見えた。その姿を見るや、ロトには彼らが何者であるかが判別できた。彼は直ちに立ち上がり、走り寄って顔を地に伏せた。そして彼は言った「どうか私の主よ。どうかあなた方のしもべの家にお越しになってください。あなた方の足をお洗いくださってお泊まりください。そして朝お目覚めになられましたら、あなた方の道をお進みください」。しかし彼らは言った「いいえ、我々はこの広場で寝ますので、お構いは無用です」。しかしロトは彼らに対し非常に強く勧めたので、彼らは彼の家の方に向かった。そして彼の家に入った。彼は彼らのためにできる限りのご馳走を作った。また通常は神へのお供えに使う種無しパン(イーストを入れないパン)も焼いた。そこで彼らは食べた。彼らが眠りにつく前のことだった。ソドムの町の男たち、若者から老人までの全ての男たちが、町の隅々から来て家の周りを取り囲んだ。彼らはロトに対して叫んで言った「今夜、お前の家に入ったよそ者はどこにいる。彼らを我々に差し出せ。我々は彼らが誰かを知るだろう」。ロトは直ちに入り口に向かい、彼らの方に出て行った。そして彼の後ろの扉を閉めて言った「私の兄弟たち、どうか悪いことをしないでください。ご覧ください。私には二人の娘たちがいます。彼女たちは男を知りません。私は彼女たちをあなた方に差し出します。彼女たちにあなたたちの目に良しとすることをしなさい。ただし、これらの人たちに対しては何もしてはいけません。なぜなら、彼らは私の屋根の下に入ったのですから、私には客人を守る義務があります」。男たちは言った「あっちへ行け。こいつはただの寄留者のくせに、今や裁き人のつもりになっている。我々は彼ら以上にこいつに危害を加えてやろう」。そして男たちはロトに対して激しく迫っていき、さらに扉までも壊そうと近づいた。ロトはソドムに何年住もうとも自分はよそ者に過ぎないことを改めて実感した。ロトの客人たちは扉を少し開け、手を彼に向かって差し出し、家に引き入れた。そして扉を閉じた。また、家の入り口にいる男たちを大小問わず、目潰しで打った。彼らは入り口がわからなくなって、右往左往した。客人たちはロトに言った「あなたにとり、娘婿、息子たち、娘たちが他にいるか。この町であなたに属する全ての者は、この場所から出て行きなさい。我々はこの場所を滅ぼそうとしている。神の前に上ってくるソドムからの叫びが大きくなったからだ。神は町を滅すために我々を遣わしたのだ」。そこでロトは出かけて行って、娘を娶ろうとしている婿たちに語った「この所から出なさい。なぜなら、神がこの町を滅ぼそうとしている」。しかしこれは、彼の娘婿たちには笑い話のようにしか聞こえなかった。
 やがて朝日が昇る頃になって、使者たちはロトを急がせて言った「立ちなさい。この町の罪の故にあなたが滅びないために、あなたの妻、二人の娘たちを連れて行きなさい」。しかしロトには娘の婿たちへの思いからためらいが生じていた。そこで客人たちは、彼に対する神の憐れみにより、彼と彼の妻、そして二人の娘たちの手を掴んだ。彼らは彼を強引に連れ出し、町の外に置いた。そして一人が言った「自分の命を救うために避難しなさい。決して後ろを振り返ってはならない。低地には留まっていてはならない。町と一緒に焼き尽くされないように山に逃れなさい」。ロトは彼らに言った「主よ。それはだめです。ご覧のように、あなたのしもべはあなたの目に恵みを見出すことが出来ました。あなたは私を生かすために、あなたの慈しみを露わにし、行ってくださったのです。この私は山にまで到底逃れることはできません。私は災いに追い付かれてしまうことでしょう。どうかあそこの町を見てください。私が逃れるには近くにあります。どうかあそこに逃れさせてください。このことはあなたにとっては容易いのではないでしょうか。そうしていただければ私の命は生かされます」。彼はロトに言った「そうか。では、このことについてもあなたの顔を立てよう。あなたが語った町を私は倒さない。急ぎなさい。そしてそこに逃れなさい。あなたがそこに入るまで、私は何もすることが出来ない」。その町の名はツォアルだった。太陽が地上に上る頃、ロトの一行はようやくツォアルにたどり着いた。

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