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メルカリ R4D Launch Event に行ってきた。

12/22(金)メルカリ新研究開発組織オープニングイベント に行ってきました! 倍率高そうだったのでうれしい!

二部構成で、第一部はメディア向けだったので、報道発表ベースで概要をまとめるとともに、参加した第二部のセッション内容をまとめました。


まずはじめに「mercari R4D」とは?

<設立の背景>

山田会長はドライブした要因として、「早期の分析基盤構築からの高速改善」と「緻密なオンラインマーケティングと大胆なTVCM展開」を挙げる。UI/UXには並々ならぬこだわりをもってきた。簡潔に言い表すなら“使い勝手のよさ”がユーザーの獲得につながっていた。しかし、このフェーズはすでに終了した。

BCN RETAIL

これからは “技術で差別化する” フェーズだと思っています

TECHWAVE


▼日本を代表するテックカンパニーになるための 3つの方針

1つめはロードマップを作って戦略的に研究・投資を実施するということ。
そして2つめは現在100人ほどのエンジニアチームを3年で1000人規模まで拡大。各機能ごとにマイクロサービス化して、スケーラブルな組織を作るということ。
3つめは外部パートナーとの共同研究やその実装を進めるということ。
今回発表されたmercari R4Dはこの方針に沿ったプロジェクトだ。

TechCrunch Japan


<mercari R4Dのコンセプト>

R4Dは調査(Research for )と、開発(Development)・設計(Design)・実装(Deployment)・破壊 (Disruption)の4つのDから構成された名称。
今回外部の企業・教育機関と共同で、”社会実装”を目的とした研究開発組織を新たに立ち上げることで、最新技術の調査研究に留まらず、研究成果をいち早くサービス化していくことを目指します。

mercariプレスリリース

R4Dの2018年の予算は数億円程度。だが再来年以降は寄り大きくしていくという。今後対象とするテーマについては、「直近1〜2年のものというより、3〜5年かかるような中長期的になるものを基準にしている」

TrchCrunch Japan



第二部トークセッションの内容メモ

<メインスピーカー> (敬称略)

村井 純(慶應義塾大学 環境情報学部 教授)
川原 圭博(東京大学 大学院情報理工学系研究科 川原研究室)
落合 陽一(ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 代表取締役)
大関 真之(東北大学 大学院情報科学研究科 准教授)
種谷 元隆(シャープ株式会社 常務 研究開発事業本部長)


ブロックチェーンの共同研究(mercari × 慶應大 村井純) 

ーなぜブロックチェーンなのか?

・世界中のコンピュータを繋いで、その上で自由に分散処理ができる仕組みが整いつつある。これを前提に、どんな楽しいことをしよう?というワクワク。

・プラットフォームもブロックチェーンで再発明されるかもしれず、メルカリとしては、自分たちの脅威になるかもしれないと考える。

・ブロックチェーンは、自律分散性を持ったアーキテクチャで、トラストをつくるフレームワークで、P2Pのような非中央集権で動くはずの仕組み。こういうフレームワークは、いまだからこそ必要。


ーIDベースから人間主体へ

・物理世界の人間とサイバー空間上の人間(user)を、どう結びつけるのか? 人間を中心に置くと、その人はどこへ行ってもその人でないといけない。いままでは、自律分散だったため、それぞれで別の認証を使っていた。

・そこから自律分散協調にしていくためには、単純なuid紐付けだけでなく、ある信頼性をもった、人間を主体にした考え方を、地球規模の分散システムで入れる必要が出てくる。ブロックチェーンの技術は、それを実現する可能性を持っている。 

・物理世界の人間とサイバー空間のユーザーを繋げるときに、どうしても国の壁が発生するが、そういったものをどう企業と大学(あるいは官も含めて)仕組みづくりをしていくのかは、ポイントになりそう。


ー「標準化」の大切さ

・「標準化」はオープンイノベーションという意味で、技術的に重要。さらに、自分たちでイニシアチブをとると、その次の開発・挑戦コストが下がる。


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メルカリが軸とする、CtoCの事業・プラットフォームでキモになっていく、個人の認証や信用担保・管理に活用していくのだろうなと、かなり相性の良さを感じました。

また、今後プラットフォームが大きく変わる可能性がある中で、後発でのっかるのでなく、技術的な先行投資をすること(まさにこういった研究組織を立ち上げること)の大切さが、「標準化」の話でわかりました。

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最適化計算や深層学習を用いた空間情報とユーザー体験の三次元化(mercari × 筑波大 落合陽一)

ー落合ラボでは、何をやっているのか?

・領域としては、下記を一気通貫でやるラボ。つまり、データセットが命。
 App Driven(応用からの研究、アート、VRなど)
 Hardware(三次元化するためのハードウェア)
 Software(位相計算とか)
 Algorithm(ユークリッド空間でない計算など、学習に最適な計算)


ーメルカリと組む魅力

・上記「App Driven」が担える、研究者とは異なる、現場の強いエンジニアいっぱいいる。

・メルカリが持つデータセットと、ビジネスとしてのデータ調達。
1日100万以上の写真が上がり、内容も商品に偏っていて、ゴミが混ざりにくい。そして、ほぼスマホ撮影したものに限られていて差分が大まかにわかるので、解析向き。
研究者が集められるデータには限りがあるので、非常に助かる。

・リサーチから実際の実用化・社会実装ができるところ。アカデミアの文脈では、実用化まで時間のかかる新しい手法発見などが評価され、こういう今必要とされるようなラストワンマイル的なところはウケない。


ー共同研究で何をするのか?

・効率的な類似画像検索、二次元画像からの三次元データセットの構築、商品画像からの背景特定と加工。(いずれはバーチャル試着など)

・たとえば人ひとりが見る画像は何億枚もないので、ディープラーニングでもtrainするためのデータ量に手ごろなラインはあるはず。そこを見出したい。

・商品画像を三次元データセットにすることで、ライティングを変えたり、背景をなくしたり、写りこんだプライバシー情報を消したり、可能性が広がる。

・さらに、商品の稠密な3D CADがあれば、ユーザーがそれぞれ出品画像を上げても、中心に正解となるリファレンスオブジェクトがあることになるので、どの角度・どの照明条件で撮られたものか、どのくらい補正されてるのか、などがサンプルとしてとれる。


ーQuick and Dirtyというやり方

・精度をどこまで求めるのかというのが大事で、リサーチの世界ではダメだけど、売上に寄与するならQuick and Dirtyなものでいいと思っている。

・社会実装するときはいったんQuick and Dirtyでやって、横展開してデータを集めて、そこから美しいものを目指すというやり方が、今の時代はできる。


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ディープラーニングの元データとしてメルカリのデータが非常に魅力的で、それを解析してサービスに落とし込むことでユーザー体験が上がる、という、きれいなwin-win関係が見えました。

しかも、ユーザーや研究者に提供されていないデータを使うことで、企業の単体サービスだけでなく、社会課題の解決に繋げることができるというところに、大きな可能性を感じます。

たとえば、目の不自由な人がお店に入ったときに、並んだ商品をすべて認識して読み上げてもらえるようなことが、メルカリのデータセットからの学習で、実現可能なのでは、という話も出ていました。

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無線給電、Universal Information Network(mercari × 東大 川原圭)

ー川原先生の研究内容について

・「万有情報網」というコンセプトの実現に向けた研究開発。IoTの次に繋がるような、人と環境をセンシングして変えていくもの。要素技術は大別して3つ。
・デジタルファブリケーション
・エネルギー(これが今回のメルカリとの共同研究の中心)
・ロボット


ー「無線給電」について

・バッテリーは進化が遅く、イノベーションが起こっていない。Qiなどもあるが、充電器の上にピタッと置く必要があって、結局ケーブルを差すか置くかの違いで、劇的に便利ではない。

・これから目指すべきところは、机や床、壁などがすべて充電器になっていて、給電できるような状態。


ーメルカリでの活用例

・メルカリから見たわかりやすい活用例だと、メルチャリの無線給電。そして、たとえば物流のドローン。
あとはシンプルに、社会を便利にする必要な技術だと思うので、今の事業に直結しなくても押さえたい。(メルカリ)

・机全体の置くだけ充電とか、コスト面等で商用化に時間はかかりそうだけど、たとえばメルカリでカフェを出して、そこで実現するだけでもおもしろい。みんながそれ便利だねという感覚になれば、もっと先に進むと思う。(メルカリ)

・制限や倫理的な規制の多い分野でもあるので、社会実装に伴って、電波の規制値、使い方、ユーザビリティなど、そのへんを総合的にデザインする時代が始まっている。

・このあたりは、許容値を見つつ、やっていくサイクルにはしたい。大学×企業×官とかで、Go Boldな実験ができたらおもしろい。


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現状すぐの連携はすこし想像しづらいですが、大学×企業×官での連携強化や、あとセンシングやIoTとも絡みやすい領域でもあるので、今後の活用領域は広そうです。

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量子アニーリングが加速する最適化技術と機械学習への展開(mercari × 東北大 大関真之)

ー量子コンピュータ時代の幕開けについて

・そもそも量子コンピュータになにができるかというと、今までのコンピュータのやること+幅のある計算ができるようになる。そして今までより速い。


ー実用例、社会実装という観点で何ができるのか?

・量子アニーリングは、新しい計算技術で「最適化問題」を解くのに優れている。たとえば乗換や地図の経路探索、人生の選択も最適化問題かもしれない。こういうことが大きなスケールでできるようになると、サービスの質的変化が起こる。

・ひとりひとりが最適な経路を選ぶのだったら、いまのGogele・スマホでできる。でもそうなると、全員がそこに殺到する。なので、社会での全体最適の観点が必要。

・具体的な活用イメージとしては、自動運転、渋滞緩和、災害避難、メルカリで言うと配送ルートの最適化など。

・あとは、量子アニーリングの最適化技術を使うと、ディープラーニングでの学習速度や精度を高めることができる。

・そのほか、量子アニーリングでは、隠されたものを当てる、見えなかったものが見えるようになる、という使い方もできる。
たとえば、MRIを6倍速(つまり1/6のデータになる)で撮って、そこから解析することができる。また、3軸からの二次元画像を組み合わせて三次元立体データに起こすこともできる。


ー大学 × ビジネスの魅力

・研究者が解き方を考えて、解くのは量子コンピュータに任せる。そして、「どんな問題を解くべき?」「どんな問題を解くと世に伝わる?」を、みんなで考えないといけないフェーズだと思う。

・そのときに、いろんな分野、いろんなレベル、いろんなレイヤーのヒトを巻き込む必要があって。大学だけでやると狭い。

・研究者の使命は、テクノロジーを社会に役立ること。アプリを作るエンジニアがいるメルカリなら、それができると思った。


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AI活用のパーソナライズサービスや決済認証情報の統合など、自社プラットフォームに囲いこむ個別最適の動きが多い中、今後たしかに社会の全体最適視点は求められるな、と納得しました。(社会まるごと飲み込むことを目指すPFが多いと思うので、相反しないのかもしれませんが)

落合先生の話もそうでしたが、いまのメルカリと何ができるかというより、もっと広い、もっと先の、課題解決に向かっていると感じました。

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8Kを活用した多拠点コミュニケーション『時空接続により広がる世界』離れた空間をハーモナイズ(mercari × SHARP 種谷元隆)

ー8K × メルカリで時空接続する

・8Kは、人間の網膜とだいたい同じ。これを使って、時空を接続したい。
TV会議に留まらず、遠隔での音楽演奏、スポーツ、手術など。最終的には、感動やその空気感をシェアリングできる場をつくりたい。

・メルカリのプラットフォームはネットだけど、取り扱うものはリアルなthings。SHARPは、thingsをつくってきた会社。でも未来に向けて、バーチャル世界でも、技術を持って出て行きたい。

・現状のTV会議は、白熱したディスカッションや、多拠点が同時に喋る場合などに課題がある。


ー経済的合理性の壁を、ビジネスモデルで変える可能性

・ある程度のレベルはすでにできていて、今後の一番の課題は、経済的な合理性。「たかだか数秒の差を埋めるのに、いくら払えるのか?」という問いに、今は解がない。

・なにかモノが出たとき、いままでは大企業が導入してそこから…みたいなことしかできなかった。それが、たとえばメルカリをベースにシェアリング前提の価格やビジネスモデルにできるかもしれない。あるいはメルカリnowなど即時買取もあるので、利用期間の料金は見えてきて、トータルで意外と安く使ってもらうことはできるかもしれない。
なので、技術だけでなくビジネス面も、一緒に研究できると面白いなと。

・少し試したいのは、サブスクリプション。現状、ライフスタイル変化と家電のライフサイクルが合っていない。毎月定額で好きな家電がいつでも使えたり、家族構成やライフスタイルで家電を変えたり。IoTでデータとる代わりにいくらで、とか。

※このあたりはSHARP公式の見通しでなく、セッションで夢を語るベース


ーメルカリと組む魅力

・R4Dという社会実装と、1億を超えるユーザー数がいて、実際使ってくれそうなたくさんのユーザーに直接アクセスできること。そこで、実際に価値を経済的にはかれるようになってくる。

・メーカーの大量生産だと、多様性に対応できない。出口として、多様性に対応するアクティビティがあってもいい。

・こういう取り組みで、中に熱をもってくることもやりながら、知恵や発想の新陳代謝をどんどん起こして、ビジネスをアクセラレーションしたいと思っている。


ーハードウェア分野へのβ版という考え方の導入

・ハードウェア文化でβ版を出すのは、メーカーとして無かった。しかし世の中的にはこの流れなのでやってみたい。マーケ手法もそっちに進化していかないといけない。早期に出すぶん、製品開発へフィードバックできる。
ただ、買う人も、β版ということを理解して買う必要がある。

・慣用性と多様性は認められるべき。みんな完成品を求めるあまり、そこをシュリンクさせてしまう。今後は少子高齢化でひとりが何人も支えるのは厳しいので、様々な技術が必要。そこを試してみる層がいてもいいと思う。それが自分たちにとってのβ版なのかなと。


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共同研究テーマは、8Kでの時空接続ですが、トークセッション後半の、家電のシェアリングやサブスクリプション、使い終わったら売ること前提のビジネスなど、新しい検討ができそう、という話がとても興味深かったです。

書籍や映像作品など、シェアリングや中古売買・サブスクリプションなどの新しいビジネスモデルが進むと、既存メーカー側が打撃を受ける例は、いまの時代多く見られます。そこで逆に、モノの流通に関わるビジネスモデル検討を、メーカーと組んでするというのは、非常に面白いなと思います。

個人的には、技術的な連携だけでなく、このあたりもぜひ進めて欲しいです…!

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