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女性向けメディアと、新生MERYについて思うこと

女性の関心は多様で、それを満たすメディアもまた、多様でなければならない。

人の関心や悩みは、学生、結婚、育児など、ライフステージごとに変わっていく。
女性のファッションやコスメの好みも、年齢や趣味の変化により、どんどん移り変わる。ファッションビルにひしめくアパレルショップ、いくつもの棚に並ぶコスメ、本屋にずらりと陳列された女性誌を見れば、その多様性がわかる。

もちろん、ターゲットとする層が、ある程度の規模存在し、事業的にも有用なセグメントと判断される場合、そこに特化したメディアのみ運用することもある。
クラシコムの「北欧暮らしの道具店」や、カカクコムの「キナリノ」などは、別領域の姉妹メディアを持たず、いわゆる "ていねいな暮らし"にのみターゲットを絞っている。

しかし、多くの女性に長く愛されたい、そう考えた場合にどうすればいいのか?


女性の多様な関心に寄り添うには?

ひとりひとりの興味関心がちがうということは、ユーザーに刺さる情報を届けるために、媒体自体がある程度ターゲットを絞るか、あるいは媒体内でのパーソナライズが必要になる。


1. ターゲティングされた媒体を多数もち、カバー領域を広げるケース

雑誌社は、年代やニーズなどでターゲットを絞った媒体を複数つくり、幅広く取り揃えることで、マスの獲得に成功している。

ちょうど一年ほど前に騒動のあった旧「MERY」や「welq」など、10ものキュレーションメディアが属していたプラットフォーム構想「DeNA Palette」も、近いモデルだ。医療やお出かけ情報など、ある程度のターゲット規模が確保できるバーティカルメディアを複数つくり、メディア運営のナレッジなどをそのまま横断的に活かすことで、規模の経済がはたらく。

ただし「DeNA Palette」の場合、全体で網羅するジャンルが多岐に渡っており、女性向けのものでいうと、旧「MERY」のみだ。当時かなりのユーザー数を獲得していた「MERY」も、もちろん女性全体をカバーするものではなく、”かわいい”を愛する若い女の子たちがターゲットだった。


2. 媒体内でパーソナライズされるケース

Gunosyが、今年リリースした女性向けのメディア「LUCRA」は、パーソナライズ化することで、ターゲットを絞り込まない戦略をとっている。旧「MERY」とテイストが似ているように見えて、ティーンからオトナ女子~ママと、幅広い年齢層の女性をターゲットとして標榜している。そこではもちろん、本家ニュースメディア「グノシー」で培ったアルゴリズムなどのナレッジを活かしている。

ニュースメディアにおけるパーソナライズは、日本ではもともと「グノシー」が突き進んでいた道だ。ただ、当時はマスに刺さらず、数年前の彼らはパーソナライズを全面に推し出すことをやめている。
それが今では、「スマートニュース」や「ニューヨーク・タイムズ」などもパーソナライズを導入しているし、パーソナライズを推し出した中国メディア「今日头条」の躍進も注目される。時代は変わったのだ。


また、情報収集メディアとしては広義の競合となる、TwitterやFacebook、InstagramなどのSNSについても、これにあたる。
SNSの場合、(当たり前だが)パーソナライズされたタイムラインが構成されていて、そのベースとなるのは、アカウント(人)単位のフォローだ。

私は、この ”人単位のフォロー”が、今更ながら意外と面白いと感じている。
というのも、「フォローする相手も自分と一緒に年をとるので、"卒業"しづらい」という気付きがあったからだ。

女性誌も、好きなファッションブランドも、時間が経って成長すると、いつか "卒業"するときが訪れる。しかし、Instagramでフォローした同世代の芸能人は、自分と一緒に歳をとる。Twitterで悩みを共有した就活仲間とは、やがて仕事の悩みを共有するようになる。長期的に見て、離脱しづらい仕組みが、そこにはある。

人ベースのフォローよりも、ユーザーの行動履歴からコンテンツベースで自動でパーソナライズするほうが、テクノロジーとしては、先を行っているように見える。
しかし、そのパーソナライズが、コンテンツをグルーピングして、それを好むユーザーにひたすらそのグループのコンテンツを当てる、というようなものでしかなければ、それは雑誌とまったく同じで、ユーザーはだんだんと溝を感じるようになり、いずれ "卒業" していくことになるだろう。たとえば、パステル調の "かわいい" を愛する女性が、半年後には、落ち着いたトーンの "キレイめカジュアル" にシフトすることも、往々にして有り得るのだ。


オンラインメディアの場合、ユーザーのコンテンツ閲覧状況しか、手がかりはない。(占いや天気の機能を作り、それらの価値提供とひきかえにユーザーの生年月日や地域情報を得るケースもあるが。)
その中で、ユーザーの関心の変化を検知し、それに寄り添っていける仕組みになっていないと、サービスのライフタイムは伸びないだろう。



ついに現れた、新生「MERY」

つい先日、サービスを休止していた「MERY」が再開した。アプリ起動後、最初にテーマをフォローさせるところから始まる。
最初に選ぶテーマは、「カワイイは永久不滅」「大人のカジュアル」「やっぱりシンプル」などで、ピンク色の "カワイイ" を全面に出した旧「MERY」よりも、カバー範囲が広がったように見えた。

実際に、系統の異なるテーマをフォローした場合の、「フォロー」フィード画面の記事の並びを見ると、それぞれかなり印象が異なる。
また、下タブ「#」画面については、画像が並ぶので、テイストの違いがもっとわかりやすい。

新生「MERY」が、今後このような広いユーザー層を獲得していけるのかは、サービスのブランドシフトや集客チャネル・クリエイティブ戦略にもよるが、今回のテーマのラインナップを見る限り、以前より確実に多様なテイストを受け入れている。
ただ、見たところ、「ピックアップ」や「ファッション」「ビューティ」などのフィード画面については、今のところ新着順(プラスで他のロジックもあるかもしれないが)で記事が並ぶようで、個人の好みが反映される箇所は、現状限られている。


「MERY」の現状課題とこれから

前半に記述したように、女性の関心や好みは多種多様で、そのなかで愛される、エンゲージメントの高いメディアをつくるには、ターゲットを絞るかパーソナライズするか、になる。
新生「MERY」は、"カワイイ"から、"大人カジュアル"や"シンプル" へと、提供するサービス内容を広げてしまった。そこで、旧「MERY」のような強いユーザーエンゲージメントを保つには、パーソナライズ配信を加速せざるをえない、と思う。


たとえば、現状の「MERY」は、「ヘアスタイル」や「ネイル」を見たいとき、そのフィードはパーソナライズされておらず、さらにターゲットが広がったことにより、自分の好みに当たりづらいコンテンツが並んでしまう。そして、自分好みのコンテンツが見たいと「フォロー」フィードに移動したとき、そこにはヘアスタイルもネイルも、あらゆる種類の内容が混ざってしまう。

たとえば
・自分の好きな芸能人の最新情報を知りたいとき→「フォロー」
・みんなが話題にしている芸能ニュースをチェックしたいとき→「ニュース」
…というように、自分好み(つまりパーソナライズされた領域)or not と分かれていれば、それはユーザー体験的にも正しいと思う。

しかし新生「MERY」では、
・自分好みのもの以外も出るが、ネイル情報が見たいとき→「ネイル」
・あらゆる情報が混じるが、自分好みのものを見るとき→「フォロー」
…と、中途半端な2つのアプローチが、サービス内に混在してしまっている。

また、ユーザー体験上、無駄なフィード移動やカテゴリ変更などの操作は嫌われる。女性ユーザーは特に、なるべくひとつの画面かつ単純な操作で、情報が見れることを好む傾向がある。(記事or画像、ファッションorヘアスタイルなど、目的があって任意のものだけを見たいという場合、わずかなユーザー操作とともに、それぞれを別で見る、ということはあるが)

つまり、何が言いたいかというと、現状の「MERY」のサービス設計が、ユーザーの望む体験に沿っていないのではないか、と感じられるのだ。いまの「MERY」の各コンテンツフィードを、それぞれ使いこなして愛用するユーザーイメージが湧きづらい。


大きな目的もなく、ただひまつぶしとして「自分の好きな世界観のものだけを見ていたい」というユーザーは、おそらく、「フォロー」や「#」をメインに使うようになる。これは、(いままでInstagramが提供していた価値の取り込みだが)「MERY」の新しい価値である。 ※「BOX」については、ここでは置いておく

しかし、既存の「MERY」が提供していた、「(自分の好きな世界観で)自分のいま気になる関心に沿った情報が見たい」というニーズに対しては、今回ターゲットを広げて、フィード内により多くのテイストが混ざったことで、ユーザー満足度がやや下がる可能性がある。

たしかに、コンテンツの幅を広げたり、メニュー・機能が増えたことで、刺さるユーザー数は増えるので、ユーザー母数は旧「MERY」よりも伸びる可能性がある。しかしこのままでは、旧「MERY」の「自分の好きなもの、いま知りたいものが、ここにある」というあの場の空気感、それによるエンゲージメントが、中途半端になり、損なわれるような気がするのだ。

それを解決するためには、「MERY」は掲出コンテンツのパーソナライズ、つまりユーザーが好きなものに出会える仕組みづくりを、進めざるをえない。
ついでに言えば、「MERY」はアグリゲーションメディアではなく、自社でライターを抱えるパブリッシャー側に位置している。すると、コンテンツ側のタグ付けやDB構築がしやすくなるので、コンテンツの自動解析システムなど大掛かりなものを用意しなくとも、ある程度の手運用で、コンテンツベースの弱いパーソナライズはできるはずだ。


最後に

話が最初に立ち返るが、もし「MERY」がパーソナライズをさらに進め、より広いターゲットに対しても、エンゲージメントの高い価値を提供できたとしよう。それでもそのときに "卒業" しないメディアになり得るかは、まだわからない。

新生「MERY」を主導する小学館は、数多くの女性誌を出版しているので、女性のニーズが多岐に渡ること、そして読者はメディア卒業していくものだということくらい、きっと誰よりも知っているだろう。
しかし、うつろいゆく女性に寄り添い続ける、"卒業"の来ないメディアの設計、という観点を持っているのだろうか? あるいは、そんなものはつくろうとしていないのか、どうなのか。 

「MERY」は占いの設定時に、ユーザーの生まれ年を取得している。そのデータがあればじきにわかると思うが、いったいユーザーは何歳になるまで、今の「MERY」を使い続けてくれるのだろうか?


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