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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第112話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


 それからも俺達は毎晩愛し合った。だから俺はふと、他の妊婦もいっぱいえっちしているのかな、と気になった。インターネット検索してみると、夫達の中には怖くて妊婦の妻に求められてもえっち出来ない人も居るのだと知った。
「つまり、京一ん◯んは『絶倫ぜつりんえっち我慢出来ないマン』ってことだな!」
「何だ? その唐突な侮辱は」
 ソファでスマホを弄りながらそう言うと、京一郎がキッチンからひょいと顔を出して突っ込んだ。それに俺は首を傾げ、「言うほど侮辱か? 絶倫は称号でもあるんじゃね?」と応えた。
「そんなの聞いたことが無いな。というか我慢出来ないマンとか言っていただろう」
「だって、世の旦那さんの中には、怖くて妊娠してる奥さんとセックス出来ない人も居るらしいぞ!」
「まあ、何かあったら大変だと思うのは分かる……」
 俺の言葉に京一郎はふむ、と言って腕組みするとそう続けた。だから俺はニヤニヤして「やーい、えっち我慢出来ないマン」と揶揄からかった。
「仕方ない。あずさの胎内なかは気持ち良過ぎる。腹がはち切れそうなのも興奮するし……」
「正直過ぎて引くわ!!」
 赤裸裸せきららな返事に、俺はりんごのように赤くなった。すると京一郎はニヤッとして「あちこち贅肉が付いているのも良い」と付け加えた。
「贅肉って! 酷いな……」
「まあ、基本的に俺はあずさなら何でも良いんだ。痩せていても太っていても、年取って皺皺しわしわになっても……」
「何で唐突にキュンとさせてくんの!?」
 ストレートな愛の言葉に、あっさり胸がキュンとしたから赤くなったままそう叫んだ。すると京一郎は優しく微笑んで、「愛してる」と言ってとどめを刺したので、俺は即死した……。

 ところで今日は俺が妊娠三十三週になる前の日で、何とぽん吉の誕生日だった。だから京一郎はパーティーの準備に朝から大忙しだ——一方、当の本犬は呑気にカーペットの上でお寿司のおもちゃを噛み噛みしている。
「犬用のケーキって、こんなに簡単に作れるんだな」
 俺はぽんぽこりんのお腹をぽんぽこ叩きながらキッチンへ行くと、京一郎の手元を覗き込んでそう言った。彼が作っているのは犬用のミニケーキで、材料は薩摩芋さつまいもとヨーグルトだけのシンプルなものだ——皮を剥いた薩摩芋は二、三センチ角に、皮のままのものは一センチ角に切りアク抜きして、浸るくらいの水を入れたボウルに移し電子レンジで加熱する。それから皮なしの方にヨーグルトを加えよく混ぜてペースト状にし、型に嵌めて成形したら皮のままの方を飾って完成だ。京一郎が使っているのは骨型のクッキー型で、とても可愛い。
「メインは豪華だぞ。鹿肉を何と十グラムも焼く!」
「え……」
 京一郎はドヤァ! と言わんばかりの表情でそう言ったが、俺は何とも言えない顔になった。すると彼はムッと口を尖らせて「ぽん吉さんには十分な量だ」と説明した。
「なんかよく分かんねーけど、味付けしないからご馳走でも簡単に作れて良いな!」
「そうだ。だから部屋の飾り付けに力を入れる。シリアでたくさん揃えたし」
 一気にテンションの下がった京一郎は真面目な顔でそう応えると、薩摩芋ケーキの上にちょこんと一欠片ひとかけらの苺を載せた……。

「ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデーサーぽん吉ぃ〜」
 犬用の王冠(※シリアで買ったプラスチック製)を被ってきちんとお座りしているぽん吉を挟んで、京一郎と声を合わせてお誕生日の歌を歌ったが、「ディア」のところを彼が「サー」に変えたので、俺は首を傾げた。
「さあ! お召し上がり下さい! ぽん吉さん!」
 めでたく四歳の誕生日を迎えたぽん吉は、京一郎がそう言った途端にケーキに齧り付いてはぐはぐ食べた。それを目を細めて見ている彼に尋ねる。
「なあ、『サーぽん吉』って言ったけど……」
「それが何だ?」
「いや、英語でも敬意払うんだなって……」
「当たり前だ。ぽん吉さんは我が家で最も身分が高いからな」
「そうかよ!! 知ってたけど改めて宣言されるとムカつくな!!」
 真面目腐った顔でそう言った京一郎に、顔を顰めて大声で突っ込んだ。奴隷系飼い主を極めるのもい加減にして欲しい。
「ああ、ぽん吉がケーキ食ってんの見たら、俺も欲しくなっちゃった。なあ、俺には何か無いのか?」
「そう言うだろうと思って、これからクッキーを焼くつもりだ。しかも『肉球クッキー』」
「に、肉球クッキー!?」
 思い掛けない発言に目を見開いて叫ぶと、京一郎は真面目な顔で「と言っても、肉球の形をしたただのクッキーだ」と続けた。
「肉球のクッキー型もあるのか?」
「もちろんだ。ベースはプレーンで、肉球はココアの生地で作る」
「成程!」
「簡単だからお前もやるか?」
「えー、俺は食う係だからさぁ」
物臭ものぐさめ」
 せっかく誘われたのに首を横に振ったら、そう言われたので俺はへへへと笑った……。

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