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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第113話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


「やっぱり京一郎きゅんは器用だな。一つも変なのが無い」
 肉球クッキーのレシピは簡単で、一時間半程で焼き上がった。京一郎は庫内容量の大きいドイツ製の良いオーブンを持っているから、一度にたくさん焼けるし焼きムラも出来にくい。天板の上に売り物みたいなクッキーがたくさん並んでいるのを見て素直に褒めたら、ふふん、と言って鼻高高はなたかだかになった。
「自分で言うのも何だが、専門に学んでいないのに中中やるだろう、俺は」
「うん。三高のお嫁さんになれるぞ」
「は? 三高?」
「高学歴・高収入・高身長……」
「何を言っているんだお前は。俺はもうあずさの嫁だろう。残念ながら三低だが」
「何おう!? 身長はそこそこあるぞ……」
 そんな下らない会話をしながら俺はサッと手を動かし、まだ熱熱あつあつのクッキーを一つさらった。しかし、「あちちっ」と叫んで取り落とす。けれども、キッチンの作業スペースの上に落ちたのでセーフだ。
とんびみたいなことをするな。でもあずさは飛ぶには重過ぎるな……」
「鳶!? ひでぇな……あっでも鳶といえばさ、鳶とカラスの喧嘩って見たことある?」
「は? カラスと喧嘩?」
「カラスも結構デカいけど、鳶に比べれば小回り利くだろ。だからたまに鳶が獲った魚とか横取りするん」
「ああ……聞いたことはあるな」
「だから今は京一郎きゅんが鳶だな! 俺はカラス! アホーアホー! 京一郎きゅんのアホー!!」
「……」
 そんな風に鳴き真似をしながら手を上下にバタバタさせたら、京一郎ははああと巨大なため息を吐いた……。

 あっという間に四月も末になり、ゴールデンウィークがやって来た。けれどもやっぱり俺達には余り関係無い——つくづく有り難いことである。
 そして妊娠三十三週になった俺は、すっかり動く気を無くしてソファに引っくり返って——いなかった。最早もはや、苦しくてそうすることが出来ないのである。腹が大き過ぎて立つと腰が痛いのに、横になっても腹が重くて苦しい。だからといって普通に座っていても苦しい。けれども背筋を伸ばして胡座あぐらをかいたらある程度楽だ——そのせいで座禅ざぜんを組んでいるみたいになっている。
「京一郎きゅん、今日は昭和の日だぞぉ〜。でも俺達は二人とも平成生まれ〜」
「だから何だ」
 スマホを弄るのに飽きてキッチンの京一郎にそう声を掛けたら、真面目な声で返事があった。作業中なのか、顔は出さない。
「もう令和の世なんだよな。俺達、一昔前の世代になっちまった!」
「そうだが、あずさはその割に幼いな。中学生、いや小学生みたいだ」
「小学生は言い過ぎだろ! 今の俺は立派なニート妻だ」
「ニート妻? 新しいジャンルだな」
「だって家事全般やってるのは京一郎だから、専業主夫はおかしいだろ。つまりニートなのは変わっていない……」
「自覚があるだけマシだな。でも、りょーちゃんが生まれたら子育てで忙しくなるぞ」
「そうなんよな。結構体苦しくなって来たし、幸せな食っちゃ寝生活はそろそろ終わり……」
 そう言って、俺は切ないため息を吐いた。元元佐智子とは家事をする約束だったし、何もしないで良いのは妊娠中だけだったのだ。そう思うと、夏休みの終わりの小学生みたいにブルーな気分になった。
「ところでさ、赤ちゃん産むのって痛いんだろ? 嫌だな……」
「ああ、それは……」
 会陰切開えいんせっかいなど想像するだけでも恐ろしいので、俺は敢えて検索しないようにしていた。
「ただでさえ京一ん◯んを出し挿れして酷使しているお◯んこを切るなんて!」
 両手で顔を挟みながらそう叫ぶと、ようやく京一郎がキッチンから顔を出した。見ると、珍しく気の毒そうな顔をしている。
「俺もあずさの◯んこが心配だ。せっかく大事にしているのに……」
「ブッ」
 まるで京一郎の私物みたいな言い草に、俺は思い切り噴いた。それから真っ赤になったけれど、眉を寄せて抗議する。
「どこが大事にしてるんだよ!! この前まで毎晩のようにヌポヌポ京一ん◯んを突っ込みまくってた癖に!!」
「凄い、人間はここまで下品になれるんだな……」
「感心するなし!!」
 思い切り遣り返したら、京一郎は目を見開いて感慨深そうにそう言ったので俺はぷりぷりした。しかしどちらにせよ、俺の大事な場所はこれから辛い目に遭う。そう思うと可哀想になって撫で撫でしていたら、京一郎がぽっと頬を染めて「もしかして誘ってるのか?」と聞いたので、俺は「違ぇよ!!」と叫んだ……。

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