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【ショートショート】気まぐれ門

 オレは城郭都市に住んでいる。
 狩りに行くには、大門を通って外に出なければならない。
 鉄砲やつぶてを持って大門に行く。
 大門の下には小さな小屋があり、門番が住んでいる。
 大きな白猫だ。
「狩りに行く。門をあけてくれ」
 とリーダーがいうと、白猫は、
「にゃーん」
 と鳴く。
「開けろ」
「にゃーん」
「開けてくれ」
「にゃーん」
 リーダーは後ろを振り返ると、オレの目を見て首を振った。
 オレが列から離れると、大きな音を立てて門が開く。
 オレは仲間たちを見送る。
「オレが気に入らないのか」
「にゃーん」
 話にならない。オレは王様に門番を人間に代えてくれと直訴したが、受け入れられなかった。
 仕方がないので、オレは仲間たちが狩ってきた野狐や鹿などを解体する仕事を引き受けた。終わると血まみれになる。いくら洗ってもなかなか血なまぐささは落ちない。
 白猫は血の臭いを嫌うらしい。危険人物を町に入れないためには不可欠な資質かもしれないが、オレにとってはとんだ悪循環だ。
 小屋のなかには白猫と黒猫が住んでいる。
 オレは真夜中に大門に行ってみた。
「とくに用はないけど、開けてくれないか」
 黒猫はちらっとオレをみると、門をあけてくれた。
「おまえ、いいやつだな」
 とんでもない勘違いだった。戻ってきても、黒猫は門をあけてくれなかったのである。
 オレはとうとう城外の人となった。城壁の外には、小さな集落があった。みんな、猫に嫌われた者たちである。オレたちの間に共通項らしきものはなかった。
 誰かが、
「猫は気まぐれだからなあ」
 と言い、みんなで深くうなずいた。

(了)

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