11月号藤村対談

【11月号対談再掲】SNS時代の不安と分断を埋める「日常」と「笑い声」の力。

皆様こんにちは。『Wednesday Style』編集部です。
今月も、12月よりご購読いただいた方向けに11月号対談を再掲いたします。今月はご購読いただくことでヤンデルさんとの本対談記事に加え、今月公開予定の『Wednesday Style』特別編、藤村・嬉野Dのひとり語りと、音声コンテンツ「腹を割って話すラジオ」をお楽しみいただけます。
※本記事は2019年11月号の記事と同じものです。お買い間違いの無いよう、お気を付けください!

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それでは、対談をお楽しみください!

『水曜どうでしょう』は、常に気合いを隠してる。

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藤村:
(プシュと缶ビールを開ける)今日は、HTBの本社でやるってことになったんだけどさ、昔はね、普通に会社のデスクとかで酒を飲んでたんですよ。仕事が終わった後とかに、チョロっとね。

だけど、ある時から「会社のデスクでお酒を飲まないでください」みたいなことになっちゃって。「あれ? 今日も飲めねぇのか?」と思ったら、今日はオッケーということでね。

T木:
このイベントを開催するにあたって、まず、そのことを総務に確認いたしました。

会場:(笑)

ヤンデル先生:
大事ですからね。

藤村:
そうなんだよ。だって、終わってんだもん、オレ。仕事。

ヤンデル先生:
そこは切り分けていただきたいですよね。今日、僕は、そこら辺をぼやかしてやってきた藤村さんのお話を聞きたいなぁと思っています。

藤村:
そこら辺の境界をぼやかしてね(笑)。

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ヤンデル先生:
そう、ぼやかしてるんですよ。この方すごいじゃないですか。何がすごいって、ハレとケがもうぼやけてるわけです。そういうことを、この前の祭の時にも感じたんです。

『水曜どうでしょう祭』って、1回目もすごかったですけども、2013年に開催された2回目の時も、札幌市民ですらチケットが手に入らなかったわけですよ。こないだの3回目のチケットも、申し込みが殺到してましたよね。

藤村:
前回の祭がキャパ1万8000人で、今回は1万人だったからね。ちょっと少なかったんだよ。

ヤンデル先生:
そういう大規模な祭を、あなた方は日常の延長のようにやってらっしゃるじゃないですか。でも、我々はもう殺伐としてるわけですよ。「祭だ! 何としてもチケットを取らねば!」って。

藤村:
あなた方は、もうすごいですよね。

ヤンデル先生:
そうです。そして、僕はチケット取れなかった。

ヤンデル先生:
その時に、嬉野さんはお優しいですから「このnoteのご縁があるんで、関係者として……」なんておっしゃるわけですよ。

藤村:
はい、はい。

ヤンデル先生:
ありがたいですが、「ちょっと待ってください」と。それは、他のどうでしょう藩士の方々に対する裏切りだろうと。

会場:(笑)

ヤンデル先生:
これだけの札幌の人たちを前にね、「この間は関係者枠で祭に呼んでいただいて」なんて言ったら、その瞬間に僕は刺されるんじゃないかとね。

そう考えたら、「じゃあ」なんて気楽な気持ちでは行けないじゃないですか。だから、しょうがなく祭は諦めたんです。

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ヤンデル先生:
そしたらですよ、祭で、どうでしょう班4人のトークを有料配信するっていうじゃないですか。僕は、そんなありがたい話があると思ってなかったから、喜んで毎日1650円を払って見てたんです。

藤村:
昼の部でやってたライブ配信ね。

ヤンデル先生:
ええ。重課金ですよ。職場でずっと配信を見てたわけです。あなたが酒を飲みながらしゃべってるのを。金、土、日と3日間。

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藤村:
ナハハハハ(笑)。

ヤンデル先生:
それを見ながら、僕は、あなた方は果たして、この祭をどれぐらい日常の延長でやってらっしゃるのかなと思って。

藤村:
ハレとケっていう言い方をするのであれば、あれをハレとはあまり思ってないところはありますよね。僕の中では祭とかって、大きくなればなるほど嫌だなって思うんですよ。だから、なるべくあれを日常化するっていう方向に持っていきます。

本当だったら逆なんですけどね。普通は、「皆さん、気合い入れていきましょう!」とか、「皆さん、楽しんでいきましょうよ!」って言うじゃない。

ヤンデル先生:
そうですよね。

藤村:
お客さんは、そんなこと言わなくても楽しむに決まってんだけど、やる側が一緒になって「うわーっ」て盛り上がっちゃうと、僕は「いや、そうじゃないんですよ」って言いたくなるわけ。

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藤村:
『水曜どうでしょう』にしたって、僕らの中では多少気合いは入ってるけど、あれは気合いを常に隠してるんです。

ヤンデル先生:
気合いを隠してる(笑)。

藤村:
そう、気合いを隠してるんです。だって、気合いに負けちゃうから。日常が非日常になっちゃうと、人間、おかしくなっちゃって、周りが見えなくなってくるところがあるんだよ。それは一番よくないと思うわけ。

だから、『水曜どうでしょう』は、そりゃあヨーロッパ行くだとかアメリカ行くだとかって言って、最初は盛り上げますよ。「うわー!」とか言うよ。だけど、ずーっと盛り上がってるというのは面白くないんです。なるべく気持ちを平坦な日常に落とした上で、ちょっとしたものを見た時に、わぁーっと盛り上がるみたいな方が面白いと思うんですよ。僕なんかは。

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ヤンデル先生:
僕らは完全に、その手の平の上で転がされてるんですよ。

祭のライブ配信でも、ワイヤレスのイヤホンしながら仕事してると、「おお、大泉さん!」なんて盛り上がりが聞こえてくるんですよ。おっ、いよいよか! と思ってモニターを見てみると、まだなんか風呂あがりの雑談みたいなトークをされていて。

藤村:
そうだね(笑)。

ヤンデル先生:
そうやってハレとケの間を、ずっと行き来するみたいなことを祭でもやってるのを見てて、なんか不思議だなと思ってたんですよね。


ハレとケを揺さぶる→みんなが困惑する→結果的に盛り上がる

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藤村:
この前の祭でいえばね、会場に1万人のお客さんがいて、全国200館の映画館で『どうでしょう』の新作を同時上映して、そこでは7万人が観てたわけですよ。

ヤンデル先生:
あれって、なにがしかの記録を達成してませんか。そんなに大規模な同時上映ができるのって、『水曜どうでしょう』かEXILEくらいのものでしょう。

会場:(笑)

ヤンデル先生:
だって、聞いたことないですよ。コンサートを同時上映するっていうのはわかりますけど、いずれ公共の電波にのるテレビ番組をわざわざ映画館で上映するなんて。

藤村:
そうだよね(笑)。あれ、タダで観れるものだから。

ヤンデル先生:
そうですよ。パブリックビューイングで『どうでしょう』の新作を見て、全国何百ヵ所で番組のエンディング曲を一緒に歌うって、「お前ら、何をやってんのよ」って話ですから。

藤村:
スポーツ観戦で、みんなで見て応援しようってことならわかるけど、全員がただテレビ番組を観てるだけなんだよ。「アハハハハ」って笑ったりしながらさ(笑)。

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藤村:
札幌の人はわかると思うけど、祭の会場になった『ばんけいスキー場』って、そんなにでかいスキー場じゃないんだよ。だけど、あの斜面に1万人がぎっしりですよ。 

そこで、僕らはセンターのステージにいて、その脇にあるでっかいモニターで新作を流してたんです。その時、ステージにいる我々には誰も目をくれず、お客さん全員がモニターを見て笑ってるんですよ。あの光景はすごかったね。首の角度が全員一緒っていう。ペンギンの集団みたいにさ(笑)。

会場:(笑)

ヤンデル先生:
あれはたぶん、みんなが自分の家のテレビの前で番組を観ている姿なんでしょうね。

藤村:
そうだね。自分の家で観てるように、「これはちゃんと注目して見てていいんだ」っていう雰囲気があったんだと思う。「家で『どうでしょう』観る時、私はこうやって観たいんだ」っていうのが全員で意思統一されてるから、そういう光景が生まれたんだろうね。

だから、さっきの話に戻るけど、ああいうイベントやった時にも、僕は必ずスタッフに言うんですよ。「盛り上げなくていい」って。

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ヤンデル先生:
あなた方が祭のステージにいらっしゃる時に、HTBのアナウンサーの方が上がってくるじゃないですか。そうすると、誰よりも緊張してるのがわかるんです。

藤村:
そりゃあ、緊張しますよ。

ヤンデル先生:
それに対して、あなたたちは、ダラダラと「また、冷えてきたねぇ」なんて言ったりしてるじゃないですか。よく考えたら、このサラリーマン2人は一体なぜ緊張しないでいられるんだろうと思って。

会場:(笑)

ヤンデル先生:
OFFICE CUEの社長に至っては、汗だくですよ。

藤村:
そうだね(笑)。タコ星人になったりしてね。

ヤンデル先生:
僕、現場にいたらドクターストップかけてますよ。「いやいやいや、脱がしてあげてくださいよ」って。

会場:(笑)

ヤンデル先生:
あれは、3日目ですかね。天気がよかったんですよね。直射日光の中でタコ星人の衣装を着て、ダラッダラと汗をかき、もう微動だにしないわけですよ。ミスターさんは。

だけど、他の人たちの話が盛り上がりはじめてるから、それを遮らないように、そっと衣装を脱ぐわけですよ。あれも、完全に〝家〟ですもんね。

藤村:
まぁ、そうだね。あれも家の姿だよね。

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藤村:
だからさ、我々の中では常に『どうでしょう』のロケっていうのは、ああいうものだっていう感覚があるんだよ。

「じゃじゃじゃあ、大泉さん、気合いを入れてやってください!」なんて言うのは、わざわざ……。

ヤンデル先生:
ちょっと待ってください! 今の一言を目の前で聞けただけで、僕は泣きそうになりました。

会場:(笑)

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ヤンデル先生:
ずっとテレビで見てたものを、真横で体感してしまった。嬉しいな。ごめんなさいね、関係ないこと言っちゃって。

会場:(笑)

藤村:
あれは、ハレなんですよね。

ヤンデル先生:
あれはハレ。

T木:
ヤンデル先生、泣いてらっしゃいますけど。

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ヤンデル先生:
眼鏡触っちゃって、指紋で前が見えなくなっちゃった。感動しちゃって。

会場:(笑)

藤村:
やめろよ(笑)。

ヤンデル先生:
だって、真横で藤村さんが「じゃじゃじゃあ」って。肘の角度が本物だったから。

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藤村:
「はい、キュー!」

ヤンデル先生:
うおぉぉぉ!

会場:(笑)

T木:
話を戻してください(笑)。

藤村:
あのね、今みたいなのはハレです。これはハレですけど、オレがずっとあのテンションでやってるわけないでしょ。

ヤンデル先生:
死んじゃうから、それをやってたら。

藤村:
全員が鬱陶しいと思っちゃうから。その時はオレも汗だくでやるけど、あれがメインじゃないわけですよ。大泉だって、やりたくはないんですよ。「はい! じゃじゃじゃあ!」なんて。全員やりたくない。

で、オレはね、全員やりたくないっていうのが一番好きなんですよ。

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会場:(笑)

藤村:
全員がケだと思って、「もう自分たちは大人しくしてていいんだ」という時にハレを起こし、逆に全員が盛り上がろうとしている時には落とし込む。
そうすると、やっぱり困惑が生まれて、大泉なんかが「えぇ? 藤村くん、僕はよかれと思って今やってんだよ」とか言ってくるわけでしょ。それでオレが「いや、大泉さんもういいですから」って言うと、「いや、藤村くん!」って向こうが上がってくるっていうね。

ヤンデル先生:
ご本人の再現映像を間近に見て、若干の興奮でもう言葉を失っています。

会場:(笑)

藤村:
いやいやいや(笑)。だから、イベントとかでも、そうなんだよ。祭も一緒。

ヤンデル先生:
ハレとケを揺さぶってるんですね。


『水曜どうでしょう』と『進め!電波少年』の違い。

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藤村:
祭は、何万人って規模だけど、僕らFacebookグループでは『寄合』っていう小規模な飲み会をやってるんですよ。30人以内くらいで。

そこで、「じゃ、東京で何日にやるから」って言ったら、すぐ幹事が手を上げてくれるんですよ。できる人ばっかりだから、うちのファンって。

ヤンデル先生:
すぐ幹事。

藤村:
ものすごいよ。すぐ幹事やるって。普通、会社とかだと幹事やりますって、あんまりないよ。大抵は下の人が押し付けられるじゃない。「お前、幹事やれ」って言われて、「やるんすかー。しょうがない、はぁ……」とか言ってやるっていうね。

そんで、クーポンで安くなる店とか探して、狭いところに20~30人が押し込められるみたいな感じだろ。大した店じゃないところでさ。

ヤンデル先生:
今、すごい不満が噴出しましたけど。

会場:(笑)

藤村:
でも、うちのファンはすごいわけですよ。「やります、知り合いの店があって!」とか、「ここは何が美味くて!」とか、みんな逆にやり過ぎるぐらいなんで。

でも、そこでのテンションは僕も嬉野さんも、祭の時と変わりませんよ。だって、同じ人だから。数が多くても意外と顔って見えるんですよ。

ヤンデル先生:
30人の寄合でも、何万人の祭でも、顔が見える。

藤村:
どっちでも同じように見える。キャラバンなんかでも一緒だよね。

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ヤンデル先生:
キャラバン、すごくいいですね。

藤村:
キャラバン、いいと思うよ。

ヤンデル先生:
なんか恥ずかしそうに、「グッズを売るためだから」なんて言って。「かわいいなぁ」って思ってます。

会場:(笑)

ヤンデル先生:
「あんな社会貢献ないよな」って思いながら見てるんですけど、あなた方はすぐに「個人が稼ぐため」とか言うじゃないですか。

藤村:
向こうがこう言えば、こっちはこう言うみたいなのはあるよね。常に避けるわけよ、向こうが言うことを。

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藤村:
来年以降のキャラバンすごいですよ。今回の祭で売れ残った商品を、バッシバシ売るから(笑)。全社をあげて応援してもらわないとね。「どこだろうが売るんだ!」っていう気持ちでやっていきますよ。

会場:(笑)

ヤンデル先生:
でも、キャラバンが本当にすごいなと思うのは、やっぱりあれもケなんですよ。もし、あなた方がテレビでハレの面だけ見せてたら、キャラバンは怖いですよね。だって、「プライベートが見えちゃったらどうしよう」って考えるわけだから。

藤村:
おお、なるほど。

ヤンデル先生:
今までテレビを通じてハレの姿を見てたけど、対面の距離になったら素が見えちゃったりするかも……なんて。

ところが、あなたは「ハレなのは、キューの瞬間だけだ。我々が見せてるのはひたすら日常だ」と言いながら、キャラバンでも会場でグッズ満載した山田君(リヤカー)を引いたりしてるわけですよ。で、「バッジいらんかね〜」みたいな感じでグッズを売りつけたりして。

藤村:
そうだね(笑)。

ヤンデル先生:
そして我々は、あなたがそういう人だっていうのを、なぜかみんな知ってるんです。なんなら、あなたの娘さんの予定まで知ってる

会場:(笑)

ヤンデル先生:
夏野菜の時だって、あなた「娘のプールがあるのに」とか言って。普通、そういうのって開示しませんからね。

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藤村:
ぬはははは(笑)。確かにそうかもしんないね。

だけどさ、あれをテレビで言ったからといってなんか迷惑かかってるかというと、別に迷惑はかかってないと自分は思ってるわけ。

ヤンデル先生:
特異なこと言いました。

会場:(笑)

藤村:
だって、僕らは「どうせ誰も見てない」っていうところから始まってるから。北海道ローカルでさ。

これが東京のキー局だったりすれば、もうちょっと考えるのかもしれないけど。どうせ見てねぇんだからって状況だと、ちょっとおかしなことやらないと目立たないじゃない。

ヤンデル先生:
あー。

藤村:
東京と同じようなことやってちゃダメだなっていうのがあるのよ。普通テレビでディレクターが、「いやぁ、これ、娘に食わしてやりてえなぁ」とかって絶対言わないでしょ。「何を公共の電波を使って、ごく個人的な感想を述べてんだ!」ってなるじゃない。だから、そんなことは絶対に言わないはずなんだよ。テレビっていうものを意識してるとね。

でも、そこでテレビを意識した時点で我々は負けるから。というか、特異性が出せない。だから、わざとですよ、あれは。わざと、「いやあ、これ、娘に食わしてやりてえなぁ」って言う。違う方向に話を転がすために。

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ヤンデル先生:
たぶん、「わざと」にもいろんな方向あって。そっちじゃない方の「わざと」をやってらっしゃったテレビマンの方もいると思うんです。

例えば、『進め!電波少年』のような、ひたすらキワキワなところを攻めていくっていう番組。初期の頃の松村邦洋さんなんか、今だったら確実に捕まるような内容のことやってたわけじゃないですか。

藤村:
そうだね。

ヤンデル先生:
そういう非日常の部分をぐっと持ち上げていくテレビマンもいらっしゃったわけじゃないですか。そんな中で「はい、キュー!」以外は日常っていう、この振り方は戦略というよりもセンスですよね。

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藤村:
たまたまなんだけど、昨日の夜、『電波少年』のプロデューサーだった土屋敏男さんと一緒に飲んでたのよ。

それで、『どうでしょう』と『電波少年』は、まったく違うっていうのは土屋さんもわかってて、でも方向性は非常に似てるって話をしたんだよ。

ヤンデル先生:
はい、はい。

藤村:
普通の番組作りって、どれだけ面白いタレントさんを集めるかってことを考えてるんだよ。でも、土屋さんがやってたのも、我々と一緒で、出演者は無名の人なんですよね。

今でこそ、有吉弘行さんなんか有名だけど、当時の猿岩石なんて無名で誰も知らなかったわけじゃない。大泉もそう。ただの大学生だったから。

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