姿勢制御とは?_3510文字

日々の臨床や講習会を開催する中で、姿勢制御×感覚入力×運動学習の3つを大切にしています。

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今回から4回シリーズの中で
・姿勢制御
・感覚入力
・運動学習
・姿勢制御×感覚入力×運動学習の繋がり
について自身が考えている点について御紹介していきたいと思います。

姿勢制御とは?

明確な定義は定められていませんが、支持基底面に対する重心のコントロールと広義の意味で解釈しています。
Horakら(2009)は、姿勢制御を6つの要因に分類しました。

①バイオメカニカル
②垂直性/安定性限界
③姿勢反応
④予測的姿勢制御
⑤感覚オリエンテーション
⑥歩行の安定性

バイオメカニカルとは、抗重力伸展活動に必要な要素であり、立位姿勢であれば床反力をいかに頭部まで連結させていくのか、という筋活動や関節運動の繋がりを意味します。その際、重要になる筋肉は、下腿三頭筋、ハムストリングス近位部、体幹筋という抗重力筋です。下腿三頭筋は、腓腹筋は上方へ/ヒラメ筋は前方への床反力を生み出し(Stewartら2007)、抗重力活動への基盤となります。またハムストリングは近位部が股関節伸展活動に繋がり、足部からの床反力を頭部方向へ繋げる重要な筋肉となります。体幹筋は肋骨と骨盤間を支え、効率的な運動の基盤となります。

垂直性/安定性限界とは、重力に対し垂直性を保つ機能を意味し、安定性限界とは重心が支持基底面の中で安定できる範囲を意味しています。垂直性を保つことで、各関節に加わるモーメントは最小で住むことができ、少ないエネルギー消費での姿勢保持が可能となります。また同一の支持基底面の中で重心が安定することで、転倒を回避すること可能性が広がります。

姿勢反応と予測的姿勢制御を考える上では、運動発達の概念を知ることで理解が深まります。例えば、乳児が端座位を取る際に4つのステージに分かれ(Saavedraら2012)、最初はコラプス=崩れる姿勢を呈してしまいます。そこで、バランスを崩し、バランスを立て直そうとする姿勢反応が作用します。その姿勢反応を積み重ねることで、内乱に対して姿勢を保持する能力を獲得します。その能力=予測的姿勢制御によって、前もって体幹筋を先行的に活動させることが可能となり、バランスの崩れが最小限に収まります(静的バランスから動的バランスへの移行も類似した背景があります)。こういった運動発達を知ることは、姿勢制御の知見を深めるきっかけとなり、重心移動と筋活動の治療展開の考察に役立ちます。

感覚オリエンテーションについては、後述する感覚入力の必要性でお伝え致します。人間は体性感覚、前庭感覚、視覚の3つの感覚処理を実施しますが、各感覚の重み付けは年齢や疾患によって変わってきます(Chen LCら2008、Bonanら2013)。セラピストは、筋肉を介して固有感覚入力を行い中枢神経系に働きかけ出力の変化を導く役割を担っています。そのため、感覚の入力や統合、処理過程についての理解はとても重要となってきます。

歩行の安定性とは、言葉の通りを意味します。姿勢制御を考える際、人は直立二足姿勢及び歩行を獲得した過程を知る必要があります。どうやって両生類から哺乳類、四足歩行から二足歩行になったのか要因を知ることが、重要となります。Key wordは脊柱の彎曲の変化であり、何故腰椎は前彎したのか?、何故胸椎後彎したのか?、何故頚椎は前彎したのか?過程を知ることで、歩行だけでなくリーチ動作や嚥下機能の病態解釈に繋がります。

姿勢制御の評価は?

6つの要素を評価する点から生まれたテストがBESTest(Balance Evaluation Systems Test_Horak, 2009)になります。
日本では学会発表などで活用される機会は少ないですが、私が今年参加したWCPT(世界理学療法学会inスイス)では使用している人が多かった印象があります。
他にはMini-BESTest、Brief-BESTestなどがあり、臨床像によって使い分けることが望ましいと思います。ネット上で、検索して頂けるとフリーの評価表もあるため、是非一度検索して見て下さい。

また姿勢制御の評価と一緒に行うことで、臨床推論が進む可能性がある評価表として体幹機能評価TIS(Trunk Impairment Scale)があります。

TISとは?

ベルギーのVerheydenら(2006)グループから生まれた評価表であり、比較的短い時間の中で簡易評価が出来る特徴があります。
体幹機能を大きく3つに分類し評価を行います。

・静的座位バランス
・動的座位バランス
・協調性

合計23点満点で評価を行い、入院時TISと退院時FIMのスコアに対する報告(Di monaco, 2010)も見られます。

最後に

広義の意味として姿勢制御評価をBestestで行い、体幹機能評価をTISで行うことは、姿勢制御の問題が体幹に見られるのか?という客観的評価の一助に繋がると考えています。
しかしながら、もしTISが低値だとしても=姿勢制御の問題は体幹だ!という判断に直結しない点はご理解頂けると幸いです。あくまでの要素の1つという解釈で、その要素の重み付け(優先順位の段階付けのようなニュアンス)は、目標設定や課題など背景によって異なってきます。

臨床推論を進めていく上で、大事なことは患者とコミュニケーションを行う中で目標設定を行う点です(SDM:Shared Decision Making_Hoffmann TC, et al. JAMA 2014)。
そして目標の段階付けを行い、その目標に応じた動作分析を行えることが療法士の強みであり、特徴だと思っています。
分析の中で、要素の重み付けを学ぶ機会はとても希少で、治療見学などの中で見る目を養っていくことが今後の療法士教育に必要であると考えています。

私自身も治療デモンストレーションを行う機会があるため、是非機会がありましたらご参加下さい(その際は声をかけてくださいね)

参考文献

1) Horak FB, et al: The Balance Evaluation Systems Test (BESTest) to differentiate balance deficits.Phys Ther. 2009 May;89(5):484-98

2) Saavedra, Sandra L., Paul van Donkelaar, and Marjorie H. Woollacott. "Learning about gravity: segmental assessment of upright control as infants develop independent sitting." Journal of neurophysiology 108.8 (2012): 2215-2229.

3) Hoffmann TC, et al: The connection between evidence-based medicine and shared decision making. JAMA. 2014 Oct 1;312(13):1295-6.

4) Verheyden G, et al: Trunk performance after stroke and the relationship with balance, gait and functional ability.Clin Rehabil. 2006 May;20(5):451-8.

5) Di Monaco M, Trucco M, Di Monaco R, et al.: The relationship between initial trunk control or postural balance and inpatient rehabilitation outcome after stroke: A prospective comparative study. Clin Rehabil, 2010, 24(6): 543-554.

6) Stewart C, et al: An exploration of the function of the triceps surae during normal gait using functional electrical stimulation. Gait Posture. 2007 Oct;26(4):482-8.


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