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自治体間競争の時代「再生エネ」と「ワクチン」で差がつくかも

人口減少の中で、自治体間競争が注目されています。

自治体相互間に政策形成や町づくりといった政策レベルでの競争関係が成立していることをさす。従来,自治体は国のタテ割行政のもとで下請け機関,末端機関の意識が強かったが,最近,地域の政策主体としての行動が目立つ。つまりタテ思考自治体からヨコ思考自治体への変化が起き,そこで他の自治体の政策や経営,町づくり手法に関心がもたれ,相互に他を乗越えようという政策競争関係が成立した。町づくりの競争関係を都市間競争とも呼ぶ。

辞書にも載ってるんですね。

みんなが住む場所を選ぶ時代に

すごく単純化すれば、日本全体で人口が減っていく中で、住む人が自治体を選ぶようになり、自治体の間で人口の取り合いが起きるだろうということです。

人が住まない街に未来がないのは自明の理です。街が住民にとって住みやすい街、住みたい街にならなければ、街は滅びるだけです。

こういう統計が注目を浴び、消滅可能性都市という言葉も話題になりました。

消滅可能性都市とは、人口流出・少子化が進み、存続できなくなるおそれがある自治体を指します。民間の有識者らでつくる日本創成会議(座長・増田寛也氏)が2014年に指摘したもので、厳密な定義は「2010年から2040年にかけて、20 ~39歳の若年女性人口が 5 割以下に減少する市区町村」となります。全国の市区町村1,799のうち、896がこれらに該当すると推計されており、全体の約半数を占めています。

この話は、かなり衝撃的で、日本中の自治体がかなり焦って、人口流出を食い止めるために、いろいろな工夫を打ち出しています。

一つには、ふるさと納税をたくさん集めて、減少した住民税を補い、町の活性化に当てるクラファン的な使い方をする。また、移住人口を増やすために子育てしやすい街をアピールし、子育て世代が移住すると祝金を出すとか、家賃が安いとか、そういう施策ですね。

ふるさと納税の返礼品に「電気」?

そうした流れに、再生可能エネルギーを増やしたい国の思惑とが絡んで、こんなことになっています。

武田良太総務大臣は2021年6月11日、「電気」をふるさと納税の返礼品として認める方針を示しました。具体的には、「地域資源を活用して、区域内で発電された電気であること」など、一定の条件を満たした場合に、地場産品基準に適合する電気として扱うとしています。

ふるさと納税の返礼品といえば、肉とか魚とか地場産品と決まってますが、そこに「再生エネルギー」を盛り込もうということのようです。

 電気を返礼品にするとはどういうことか。ふるさと納税をしてくれた人が、太陽光発電所などで発電した電気を扱う地元の新電力と契約すれば、寄付額の3割までに当たる電気代を自治体が負担する仕組みだ。

一度は、電気?ダメダメ。といった態度だった総務省が、菅総理のカーボンニュートラルを打ち出したこともあり、急変したようです。

政府の「国・地方脱炭素実現会議」(議長・加藤勝信官房長官)は9日、30年度までの行程表に「ふるさと納税の返礼品としての地域再エネの活用」と明記した。

再生エネルギーによる発電がしやすい地域は、大体が過疎地です。耕作放棄地に太陽光パネルを置くとか、風の通り道に風力発電を置くとか、急峻な川に小型水力発電を置くとか、どれも、都会ではできない話です。

でも、そうした自治体は、大体がお金がない。自前で設置できるわけもない。そこで、ふるさと納税を活用しようということのようです。

そして、この試みは、財政的な面だけではなく、自治体のアピールにもなると考えられています。

全国で初めて、地元海域における洋上風力発電の事業者を公募した長崎県五島市も4月まで電気を返礼品にしていた。同市の担当者は「今後、寄付が増えればより有効な財源の1つになる。再エネを推進している自治体としてのPRにもなる」と話す。

そんな街があることも知られていないような田舎町に注目が集まる。徳島県の山の中でIT会社が集まったことで、話題になった町もありました。

ふるさと納税で、再生エネルギーを使うSDGsな暮らしで、地方に故郷を持つというのもいいじゃありませんか。というようなフレーズが浮かびます。

そういう活用の仕方で「差別化」を測っていくのも自治体の生き残り策になってくるわけです。

ワクチンで差が出る自治体

そして、いま最もよくわかる自治体の能力差の目安は、ワクチン接種権の配布かもしれませんね。

東京23区だと早いのが、墨田区と中野区。

墨田区の担当者によると、昨年8月から区医師会と頻繁にウェブ会議を開いて連携し、打ち手の確保もスムーズに進んだという。昨年12月から選挙管理委員会の職員4人をワクチン担当に据えて準備を進め、担当者は「『変異株に負けるな』とスピード感を持って臨んだこともよかった」と話す。
また10日に64歳以下の区民への接種券を送付した中野区の高村和哉広聴・広報課長は言う。「4月下旬から75歳以上の集団接種、5月21日からは区内140の医療機関でも個別接種を開始し、65歳以上の接種が計画通り進んだ。1日3カ所の集団接種も実施し、最大週2万回の接種が可能になった」

確かに、国の初動の悪さを現場である自治体が補っているのだと思うんですね。それが大規模接種会場の予約がガラガラだから前倒ししたりする朝令暮改ぶりに右往左往しているんだとは思います。

 「元々は国の動きが遅かったことからその尻拭いをさせられているのに、『接種が遅れている自治体はサボっている』と印象づけるためにやっているように見える。裏切られた気持ち」と憤る。

「訓練された無能」では自治体に明日はない

だけど、その対応は、優秀な官僚ほどうまくいっていないのかもしれません。

小金井市の担当者は、「訓練された無能」という言葉を引き合いに出して、こう言います。

効率的に仕事をするために官僚組織は分業制を採り、だからルールがある。官僚組織にいる人は、ルールにのっとって効率的に処理しようとします。その結果、ルール通りに処理する力はみんなあるけど、ルールのもとにある問題解決、環境変化への対応力が損なわれるという話なんです。特に福祉、健康の行政はそういう処理能力が磨かれる分野なので、今回の事態は、優秀な福祉行政員であればこそつらいと思いますね。

つまり、優秀な自治体の職員だからこそ、臨機応変に対応できないのではないか。コロナウイルスとの戦いの現場では、自治体にとって未曾有のことが起きているのです。

「すでに決まったことをルール通りしっかり執行する」という、自治体にとって当然の発想に立てば、目的を共有して臨機応変に、という対応にはなりにくいのです。

この方は、小金井市職員でありながら、公務員向けに本も書いている方でした。

そういう異色の方をワクチン接種の現場でうまく使う小金井市長も気になります。

こういう有事の場面で、住民のことを考えてスピード感を持って動く自治体に住みたいなと、この日経BPの「小金井メソッド」一連の記事を読んで思いました。

言いたかったのは、「従来の発想では乗り越えられない」壁に当たった人たちがいる、という状況が、今回のワクチン接種とよく似ているということです。今回、担当になったことで全国の若手の方々と接点ができましたけれど、たぶん、ここで頑張った人たちが次の時代をつくるんだなと感じています。

そして、思ったのは、今回のワクチン接種から学んだ自治体が、次に「住みやすい」自治体になり、「選ばれる」自治体になるのではないかという予感です。

小金井市役所の堤さんは言います。

このワクチン接種の経験で育った世代が、課長とか部長とかになるころには、自治体は結構変わってくるんだと楽しみに思っています。

官僚制に支配され、国から言われるがままの自治体では、もう、住民に選ばれる存在にはなれないのだということが、ワクチン接種騒動の中で明らかになったのではないでしょうか。

結局、自治体トップに誰を選ぶか

住民のために何ができるかを第一に考えると口で言うのは簡単ですが、実践するのは大変難しい。住民の中にはいろんな人がいますし、ステークホルダーはさまざまで、トップのいうことはコロコロ変わる。そんな状況で、公務員になりたい人が減るのも無理はないかもしれません。

これだけ不祥事だとか、接待だとか、公務員のブラックさ加減をマスコミに叩かれれば、そりゃ、なりたい人も減るでしょう。

でも、そこに必要なのは、長時間を減らすというような働き方改革ではなく、「無能に訓練していく仕組み」をなくすことではないでしょうか。

自治体職員として有能になることが、社会に貢献できることだという誇りを持った仕事になるよう、自治体トップには志と工夫と仕組みが必要ではないかと思います。

その意味で、この方が和光市長を辞任したのは返す返すも惜しいと思います。

志あるトップの下で働く喜びを自治体職員の若い人が感じられる街が、結局、住みやすい街なのかもしれませんね。



サポートの意味や意図がまだわかってない感じがありますが、サポートしていただくと、きっと、また次を頑張るだろうと思います。