同族経営の体制

先日、ある同族経営企業様の経営幹部Aさんからお話を聞く機会がありました。経営を支える体制のことについて示唆的なお話でした。

同社様では、親族が社長・副社長を務めています。いわゆる同族経営であり、現社長は3代目となります。創業社長が礎をつくったからこその今があるわけですが、現社長になられてから飛躍的な事業の拡張を続けています。経営上の課題はもちろんありますが、同経営チームの主観的にも、また社外の人が見た客観的にも、経営体制としてうまくいっていると評価されています。

同族経営体制の要諦について、Aさんから聞いたお話は以下のような内容でした。

・同族経営は可能性も大きいが、感情的な軋轢でうまくいかないことも多い。社長が次の社長に代替わりするにあたって、次の経営体制を明確にしたほうがよい。

・自社の場合、前社長が次の社長・副社長を指名した。副社長には、社長を徹底的に立てよと命じた。社長には、副社長を徹底的にかわいがれと命じた。社長・副社長の年齢が離れていることもあり、このことへの違和感がなかった。

・このことを前社長が強く言っておくことが重要。現社長が現副社長に対して「自分を立てるのがあなたの役目」と言っても、受け入れにくいだろう。実績を上げ、力も信望もある前社長の立場で言うことに意味がある。

・社長が一国一城の主として会社全体の意思決定、華々しい外交をまとめる一方で、社長の視野が及んでいないことの戦略化や計画の具体化で社長を支える役割を副社長が果たしている。週1回の役員会の前に30分ほど社長・副社長のミーティングを定例化させている。お互いの意見が異なることもあり結論がまとまらない場合は、最終的に社長の意見に従う。喧嘩をしたことは記憶にない。

戦国大名に欠かせなかった軍師、ホンダの藤沢武夫氏など、組織のナンバー2と呼ばれる人物・役割の重要性は、至る所で言われています。毛利家の三矢の教えは、ナンバー2(3あるいはそれ以上も含む)及び同族経営に関しての意味ある教示だと言えます。

経営に必要とされる基本的な要素は、業界・規模・時代を問わずどの企業にも共通していると考えられます。小宮コンサルタンツでは、大きく3つの要素として「企業の方向付け」「資源の最適配分」「人を動かす」と説明しています。これらを各論及び執行も含めて、社長ひとりがすべてを網羅することは難しいでしょう。社長と社長を支える経営メンバーとで組織として網羅していくという考え方になります。

社長の個性・強みも、人それぞれでしょう。例えばジャパネットたかたの前社長・現社長のスタイルの違いは、よく言われている通りです。そして、それぞれのスタイルで会社を発展させています。その中でナンバー2の役割としては、社長及び他の経営メンバーの個性・強みによって、求められる機能が流動的に変わってくると考えられます。

ナンバー2の主な機能としては、例えば下記などが挙げられると思います。

・スーパーゼネラリスト:営業・製造・研究開発・管理など、各分野の組織活動を総括し成果創出する。
・スーパーエンジニア:技術に特化し社長のビジョンの技術的な裏付けを実現する。
・財務責任者:会社のビジョン・戦略を実現させるための財務活動を統括する。
・ムードメーカー:社内の士気・風土を調整する。
・軍師:会社のビジョンを本質的に評価し、それを実現させるための戦略や作戦を練る。
・外務大臣:社外関係者との交渉を主導し、会社同士の契約を成功裏に導く下地をつくる。場合によっては会社の広告塔にもなる。

ナンバー2のあり方に、ひとつの決まった型や機能の定義があるわけではないと思います。特定の決まった機能があるというより、スーパーゼネラリストかもしれないしスーパーエンジニアかもしれないし、軍師で財務責任者の2役かもしれないし、当該組織において上記経営の3要素を実現する上で最も必要とされる機能を見出して発揮する。それが役割ではないでしょうか。その意味では、社長や組織の現状を見極めて自分の役割を見出していける、秀でた観察眼が求められるということでしょう。

他方、ナンバー2として向かないタイプもあるでしょう。求められる機能と本人の強みがマッチすればだれにでも可能性があるものの、以下のような志向性の持ち主は、明らかに向かないのではないかと思います。

・何が何でも自身が一国一城の主になりたいと思う人
・社長や特定個人への嫉妬として表れるなど、歪んだ競争意識の持ち主
・組織の成長・発展より個人の成長・発展を優先させる人

競争意識が、社会や競合他社、あるいは社内に対して切磋琢磨の良い形で発揮されればいいですが、それが特定のポジションなどへ歪んだ形で向けられると組織が崩壊するでしょう。

求められる機能と本人の強みがマッチしていること、そして、そもそもナンバー2として相応しい基本的な姿勢を身に着けていること。このことは全企業に当てはまるものの、親族が経営メンバーに名を連ねる同族経営では、感情的な面が出やすく特に後者が重要になってくると言えるのかもしれません。冒頭の企業様では、前社長が時間をかけてその下地づくりと見極めに取り組んだと言えそうです。他の組織でも、参考になる視点だと思います。

<まとめ>
ナンバー2には決まった役割定義はない一方で、満たすべき基本姿勢がある。

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