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事例を鵜呑みにしない(2)

前回の投稿では、評価や組織活動に関する他社の成功事例などを参考にする時は、それらの前提になっていることを把握する必要性について考えました。とりわけ、海外の事例を見るときには、経営における解雇権の制約の違いについて注目するべきだろうということを取り上げました。

前提の違いについて、私の考える大きな要素の2つ目は、「組織内にいる人の特徴が異なる」ということです。

・組織内にいる人の特徴が異なる

例えば、グーグルで有名になった「心理的安全性」という概念があります。心理的安全性とは、自分の言動が他者に与える影響を強く意識することなく、感じたままの想いを素直に伝えることのできる環境や雰囲気、といった意味合いです。

心理的安全性の話と合わせてよく引き合いに出されるのが、ダニエル・キム氏の提唱する「組織成功の循環モデル」です。組織を「関係の質」「思考の質」「行動の質」「結果の質」の4つの質で捉えます。そして、「関係の質」を高めることが最終的に「結果の質」を高めることにつながるとされています。下記のような流れが輪のように循環していくイメージです。

「関係の質」→「思考の質」→「行動の質」→「結果の質」→「関係の質」・・・

関係の質が高まれば思考の質が高まる
⇒お互い尊重する、相談する、一緒に考える・・・等により、「関係の質」が高まる
⇒関係の質が高まったことで思考の質も高まり、「よい気づきがある」「面白いと感じる」「本質的な問題を発見する」「有効な解決策を見出す」・・・等

思考の質が高まれば行動の質が高まり、行動の質が高まれば結果の質が高まり、結果の質が高まれば関係の質が高まる
⇒「業績が上がることで信頼関係が強くなる」・・・等

しかし、「心理的安全性」=豊かな「関係の質」の土台づくりは、最終的な成果を上げるための必要条件であって、十分条件ではないということだと思います。

グーグルは「全人口のうち優秀な最上位1%が自社採用の対象」と聞いたことがあります(出所不明のため、不正確かもしれません)。おそらく、選ばれるのは卓越した論理的思考力、創造的思考力の持ち主ばかりでしょう。そうした人材は、所属するチームで良好な関係の質が築かれ、高い思考力が解き放たれれば、高い成果につながる思考ができることでしょう。関係の質「だけ」にフォーカスすれば、あとはOK(他の必要条件はすべてそろっている)なのかもしれません。しかし、その他大勢の企業も同様に、関係の質「だけ」にフォーカスすれば十分なのかは、疑問なところです。

他方、メンバーがさほど思考力を有していなくても、関係の質が高まれば思考、行動、成果が高まるケースとしては、「高い思考力をさほど必要とせず、既定されたやり方に沿って当たり前の判断、行動を頑張れば、成果につながる」仕組みが行き届いている環境といえるかもしれません。

つまり、何をするべきか誰が見ても明確で、どうすればよいか迷う必要がないほどオペレーションが構造化・単純化されている場合です。この場合、関係の質さえ向上すれば張り切って望ましい行動をとり、成果につながることも想定されます。

上記のような前提を考慮することなく、「関係の質にフォーカスさえすれば、あとは輪のように循環して思考の質、行動の質、成果の質が上がっていくんだ」と捉えて実践しようとすると、自社に合わずうまくいかないかもしれないと思うわけです。

明後日の方向に向かうような、的を外した思考力の持ち主が集まったチームで、関係の質が高まれば、望ましくない成果を出すタイミングが近づくだけになってしまうかもしれません。

これらの前提が当てはまっていない状態であれば、例えば「関係の質」と同時に「思考の質」にもフォーカスするのが適切かもしれません。あるいは、とにかく決められたことの「行動」にまずはフォーカスするのが適切な場合もあるかもしれません。

前回話題にしたネットフリックス社の社員にしても、(イメージですが)成果が出なかったら即退職勧奨かかることを承知の上で入社し、新進気鋭の優秀な人材ばかり集まっているうえでの「NO RULES」だとしたら、そうでない前提の社員で占められた会社が全く同じやり方をすると頓挫するのではないかと思います。

前回「2つの相反する方向」で思案されていた経営者様と、上記のような意見交換もしたところ、次のような方向性を視野に入れるということになりました。

・社員が自社に入社後ある等級に達するまでは、「リーダーの仮面型」の人事評価制度の適用・マネジメントにする
・ある等級以上に達した中級以上管理職や(管理職ではないが光る何かが認められた)スペシャリスト社員に対しては、「NO RULES」的な評価の仕組みにする

事例の前提になっていることを理解するということは、当該テーマの本質を理解していくことに通じると思います。

<まとめ>
組織内にいる人の特徴が、各組織で異なるということをおさえておく。


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