同族経営について考える

先日、ある医療法人様の理事長とお話をする機会がありました。
地域医療に対し思い溢れる「使命感」と確かなリーダーシップで、同法人を飛躍的に成長させてきた理事長です。
その理事長は、創業者ではなく、創業者の跡を継がれた後継の経営者です。

日本では、創業者の家族や親族が株を所有したり、経営を担ったりする企業は「同族企業」と言われて、ネガティブに捉えられる傾向があります。しかし、世界的に「ファミリービジネス」と呼ばれるこの形態は、実はポジティブに捉えられていることを聞いたことがありますでしょうか。世界の企業の80~90パーセントは同族経営で、各国の経済で重要な役割を果たしているそうです。例えば、世界的企業のBMWやウォルマートは、長く続くファミリービジネスです。スイスのザンクトガレン大学の研究者らが調べた「売上が高い同族経営企業500社」によると、1位はウォルマート、日本企業からは65位にサントリーホールディングスが入っています(フォーブスジャパン参照 2019年)。

同族企業のメリットはいつくか挙げられますが、ここでは下記の3つを取り上げてみます。
1.長期的な視点で経営できること
2.後継者候補の育成がしやすいこと
3.経営者のモチベーションが高いこと

同族企業は、上場企業にありがちな「経営者の任期が3年程度が前提」のようなことがなく、長期政権が前提です。よって、20年や30年先を見据えた長期的な投資がしやすいわけです。

「後継者育成」は、いわゆる帝王学です。自営業者の子供は自営業者、芸能人の子供は芸能人としての資質を幼少時代から学ぶがごとく、幼少時代から経営者の背中を見て学んだ人材はその企業を率いる資質を磨く上でやはり優位です。

そして、一族が代々育ててきた事業を将来にわたり継続させたいというモチベーションは、雇われ経営者に比べると比較にならないほど強力たり得る潜在力を秘めています。

ただし、一般的には創業社長に比べると、後継者のモチベーションにはどうしても限界がありがちです。

自分で立ち上げた事業でなく、他人が立ち上げた事業を継いだわけですので、思い入れの度合いが違うのもある意味当然と言えます。私はこれまで様々な同族企業、その経営者や後継者にお会いしてきました。中には、後継後も継続してうまくいっている、あるいは上記の医療法人のように後継後に飛躍的に成長している、逆に後継後衰退に向かっている、それぞれの事例があります。結果を分ける一番の要因は、モチベーションにあるのではないかとみています。後継者によるその事業に対する思い入れの度合いに比例して、後継後の業績が比例して変わっていくイメージです。

上記の医療法人の理事長は、かつて、患者さんの一人から「この病院には仏がいる」と言われたことに感動して、それ以来患者さんにとっての仏のような存在であり続けたいという強烈なモチベーションを動力源に経営されているのを感じました。

そして、このエッセンスは何も同族企業に限らず、すべての組織人に応用できることだと思うのです。自分がいる組織を、
1.近視眼的な対症療法や問題の先送りで「その場を捌く」のではなく、(自分がいなくなった後までの)長期的な視点で問題解決・課題達成を目指しているか
2.帝王学のように次のリーダーの育成機会があるか
3.高いモチベーション(使命感)をもてているか

私自身、過去に組織を預かってうまくいかなかったときは、これらが欠けていたように思います。
某理事長のお姿を見て、そんなことを感じました。

他方、上記の特徴は、逆効果となって表れると、デメリットになりやすいとも言えます。「長期的な視点で経営できる」は、祖業などの古いビジネスモデルや事業、やり方に固執しやすいことに通じるでしょう。

お客様、社会に貢献できる祖業やこれまでの事業を守ることは大切です。他方、社会の環境変化によりそのままでは通用しなくなっている場合は、環境変化に合わせて適切に事業を再定義しなければなりません。あるいは、事業はそのままでも、プロモーションのやり方や協業先の選定などを見直す必要があるかもしれません。

しかし、どうしても過去の成功体験で一定期間の成果を上げてきた人は、それに捉われて変化に対応しにくいものです。

「後継者候補の育成がしやすい」は、経営者としての適性に欠ける人材を盲目的に育てそのまま後継させようとする結果を招きやすいとも言えます。候補となる人材が何か重大な弱みをもっているのであれば、その弱みを埋め合わせる方策(例:有力な軍師となる人材を登用しサポートにつける、従来とは異なる会社の統治機能を持たせるなど)をとる必要があるでしょう。

「経営者のモチベーションが高い」は、強烈なリーダーシップに通じます。そのことが、社内外の環境変化を察知しきれず不適切な方針を掲げ、盲目的にそれを追求することに発揮されてしまうと、望ましくない成果に突き進んでしまうでしょう。

これらのデメリットを抑えるには、「聴く耳を持つこと」が重要だと考えます。

経営は、最終的には独裁であるべきです。経営とは、組織内の人材が投じた多数決の結果で決定していくことではなく、経営者の多角的な眼と判断力による意思決定で方針化していくことにあるからです。

ただし、独断しないことが前提だと考えます。最終的には経営者が意思決定するわけですが、その過程において組織内外の人材から衆知を十分に集めることが必要なのです。お客様・専門家・社内の従業員から鮮度の高い情報・意見・思いを十分に聴き、判断する習慣をつける、それにより実のある本質的な独裁が実現するのではないでしょうか。

この「聴く耳を持つこと」の重要性は、なにも経営者のポジションに限らず、すべてのポジションに当てはめて考えられることと言えるでしょう。部署や小集団を束ねるリーダーとして、衆知を集めた上で自身の責任において自己決定できているかどうか、です。

しかし、この「聴く耳を持つこと」は難しいものです。
誰しも自分にとっての現状維持が心地よい、耳の痛い話は聞きたくない、というのが、人間の本能でもあるからです。私自身もそうですし、私がコンサルティング・社員研修等でお会いする組織のリーダー皆さんにも見られることです。

どうすれば、「聴く耳を持つこと」を習慣化できるのか。
またの機会に考えてみたいと思います。

<まとめ>
・活躍する同族企業からは、その長期的視点やモチベーションを学べる。
・よき長期政権をつくるには、聴く耳を持って決めることが必要。


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