「職人塾」で人材育成

先日、兵庫県神戸市の株式会社ライフライン様を訪問する機会がありました(同社笠松社長から、社名掲載許可をいただきましたので、社名を出しております)。同社様で行われている「職人塾」を見学したのですが、とても活気のあるOff-JTでした。

職人塾は、月に2回金曜日の夕方に、テーマを決めて講義と実技を組み合わせた講習を行うものです。テーマは例えば、「丸ノコの使い方」「屋根の下地工事」など、同社様の手掛けるリフォーム事業で欠かせない技能に関するものです。講師は、取引先様の職人や、自社の職人が務めています。塾の目的として「全職人の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献する事」と定義されています。

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狙いは、従業員満足度の向上と自社職人の育成です。リフォーム会社の多くが職人を外注する中で、同社様では自社職人を抱えるのを経営方針とされています。当然人件費増の要因となりますが、今後も敢えて増員しようとしています。それは、「自社がお客様に提供できる価値は、良い提案と良い施工。自社職人を抱えるのは、価値を提供する上での競争力の源泉になる。」と考えているためです。

また、今後の社会環境変化で職人不足が進めば、自社が外注したいときにタイムリーに着工できない、技能が不十分な職人しか手当てできない、といった事象が増える可能性があります。手間暇かけて自社職人を育成するのは、リスクヘッジという側面もあると言えるでしょう。

同社様の取り組み、そしてその前提となる経営戦略・人事戦略は、とても理に適っていると考えます。アウトソース等の活用による効率化・コスト勝負もいいですが、職人の目利き・お客様との関係性の構築という、人が介在することでの高付加価値で勝負するほうが、勝てる可能性が広がるからです。

そして、業界新聞の1面でも取り上げられるなど、社外でも話題になっています。こうした人材育成の取り組みを聞くことで、学校等から同社様の人材募集への反応が高まっているそうです。同社の理念や方針に賛同した人材が新たに入社し、職人として育つことで仕事に満足し、その様子を知った人材がさらにまた入社を希望する。よい循環ができつつあると言えます。

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職人の側にとっても、とても魅力的なキャリアになり得ると考えます。私たちはともすれば、これからのトレンドと言われるような、注目を集める職種・職能でキャリア開発したいと考えがちです。しかし、ある職種・職能に対する社会のニーズの増加量より、供給する人の増加量が上回ってしまうと、職を確保するのが難しくなります。

他方、社会のニーズ総量が減少する職種・職能でも、供給できる人がそれ以上に減ってしまえば、その職種・職能に対応できる人の希少価値は高まります。大工に対するニーズがゼロになることはまずないでしょう。会社の手厚い教育のもと、大工の見習いからキャリアをスタートさせるというのは、若者にとっても魅力的な選択肢になり得るはずです。

さて、職人塾を実際に見学して印象的だったのは、塾に参加する社員の皆さんがとても生き生きしているということです。私は仕事の関係上、これまで数多くの企業の社員研修やそれに準じる教育の場に立ち会うことがありました。それらの中には、効果を上げているであろう活発な場もあれば、参加者間でやらされ感が蔓延し不毛と見受けられる場もありました。同社様の職人塾は、活気・効果の面で群を抜いてトップレベルだと感じます。

参加者だけではなく、講師役の職人ももちろん熱心でした。この日のテーマである「屋根」についてとても思い入れのある説明をされ、それを聞いた参加者のベテラン職人も自分の知識を説明する、そのような場面が何度も見られました。伝える側も受ける側も、これまでいわゆる研修慣れはしていないようです。それでも、素晴らしい場づくりとなっていました。

この事例からは改めて、以下のような前提は誤りと認識するべきだと思いました。
・人は、一部の超高学歴者や物好きを除き、基本的に勉強が嫌いな生き物である。
・Off-JTとは、業務の調整も大変で参加のハードルが高いものである。
・職人は、自分の技能を教えたがらない存在である。

そうではなく、以下のような前提で捉えるべきでしょう。
・人は、基本的に学びたがる生き物である。
・Off-JTとは、大切なものだと思えば自然に参加したがるものである。
・職人は、求められたら喜んで自分の技能を教えたがる存在である。

なぜ、同社様の職人塾はこのような活気のある場になっていると考えられるのか。
このことについては、次回以降のコラムで取り上げてみたいと思います。

<まとめ>
時間のかかる取り組みだからこそ、職人育成が競争力の源泉になり得る。


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