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労働分配率の比較

現在、複数の企業様で経営計画を考えるにあたって、労働分配率が話題になっています。そのことに関連する記事が、7月13日の日経新聞「デジタルのジレンマ(1)崩れる分配、消えた500億ドル 米巨大ITの富、働き手に渡らず 次世代にひずみ」で掲載されました。
同記事の一部を抜粋してみます。

~~デジタル技術はネットを介した情報発信や検索、買い物などを通して生活を便利にし影響力を強める。しかし米商務省経済分析局(BEA)の統計を使って20世紀をけん引した自動車と比較すると、経済に与えるインパクトは大きく異なる。

生み出した付加価値を給与などにまわす割合の「労働分配率」は、自動車は70年代に最大で70%を超えた。ITサービスは19年時点で約33%と全産業平均より約21ポイント低い。もし他の産業並みの分配率を維持していたら労働者への分配は年570億ドル(約6.3兆円)ほど多かった計算になる。

国への還元も少ない。日本経済新聞の分析ではグーグルの親会社のアルファベット、アップル、フェイスブック、アマゾンの米IT4社の税負担率は18~20年の3年平均で15.4%。世界平均より9.7ポイント低い。~~

労働分配率とは、労働分配率=(人件費÷付加価値)×100で表せます。会社の生み出した付加価値が、どの程度労働の対価として労働者に支払われているかを示す経営指標です。付加価値の正確な算出方法は複雑な面がありますが、ざっくり売上総利益(粗利=売上高-外部から調達した原材料などの売上原価)と捉えておけば十分と思います。

労働者に対して、自動車をはじめとする旧来型産業が実現していた賃金への還元に比べて、ITサービス関連の企業は還元できていないという主張のようです。

しかし、このことに関しては、2つの視点でみるべきだと考えます。
ひとつは、労働分配率は業種によって異なるということです。

「経済産業省企業活動基本調査」では業種別の労働分配率が細かく出ています。最新のデータは2015年分ですが、それによると、業種別の労働分配率は例えば次のようになっています。

合計:48.8%、製造業47.3%、電気・ガス業:21.1%、情報通信業:56.5%、卸売業:54.3%、小売業:50.4%、学術研究、専門・技術サービス業:55.8%

情報通信業の中でも、さらに細かい分類では、ソフトウェア業:59.3%、情報処理・提供サービス業:57.8%、インターネット付随サービス業:28.8%、映画・ビデオ制作業:55.7%、出版業:67.4%となっています。

ウィキペディアによると、日本標準産業分類の定義をもとに、インターネット附随サービス業について次のように説明されています。

~~主にインターネットを利用する上で必要な情報提供や配信サービス、各種サポートサービスを行う企業等で以下3種に細分される。ポータルサイト・サーバ運営業 - 主にインターネットを用いた情報提供や契約者にサーバ機能を利用提供するサービス行う企業等(ただし主に広告提供を行う企業等(ネット広告会社など)やサーバ機能を他事業での利用のために提供する企業等(ネットバンク会社など)は含まない)。 ウェブ検索 サービス・ ネットショッピング サイト運営会社・ ネットオークション サイト運営会社など。~~

「転職グッド」のサイトを参照すると、次のような説明があります。

~~「インターネット付随サービス業」は、「情報通信業」の中でもいわゆるIT業と呼ばれる業種で、ヤフージャパンなどのポータルサイト運営、GMOインターネット、さくらインターネットなどのレンタルサーバ運営業、GoogleやLINE(ライン)などのウェブ経由でさまざまなサービスを提供するクラウド事業(アプリケーションサービス プロバイダー)、クックパッドなどのウェブ・コンテンツ提供業など、インターネットに関連した業種を指します。~~

記事中の米IT4社が上記産業分類のインターネット付随サービス業に当てはまるのかは、正確には分かりませんが、おそらくこれに近いでしょう。

そうであるなら、同分類に属する企業の平均で28.8%と、全産業平均の48.8%、製造業47.3%に対して、大きく下回っていることになります。自動車業界が実現させてきた値と比較して低いことだけを取り上げて、企業活動の成果を労働者に還元していない、と結びつけるのは、無理があるでしょう。

上記を参照すると、「情報通信業」という大分類の中でも、小分類を見ていくと事業構造上の違いから値がかなり異なることがわかります。基本的に、労働集約型の事業ほど労働分配率が高くなるという傾向が見て取れます。

労働の対価の支払いは経費の一部です。企業財務を適正レベルで維持するためには、この値を適正な範囲内に収める観点が必要になります。自社にとっての適正な値を検討するのに業界や他社比較をすることがありますが、自社にとって適切な比較対象を定義しておく必要があるわけです。比較対象が、本来比べたいイメージの企業群とずれていると、適切でない仮説に結びつけてしまう可能性があります。

2つめの視点については、次回以降のコラムで考えてみます。

<まとめ>
自社を何かと比べる時は、それが比較対象として適切かを確認してみる。


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