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コーチングの前提(2)

前回の投稿では、「コーチングの前提は、対面とは限らない」というテーマで考えました。同内容について、いくつか感想をいただきました。それらも踏まえて、今一度このテーマについて考えてみたいと思います。

ご感想を見ていて改めて感じたことは、「オンラインを前提として会議・セミナー・コーチング等を行うことで、相応の効果が出るかどうかは、一概に言えない」ということです。

中でも、下記のご指摘は特に示唆的でした。
「米国での初期の電話コーチングは、クライアント自らが費用を払い、投資を回収する気付きを得ようと動機づけの極めて高い人だから効果が出たのではないか。そうでない属性の人だとうまくいくとは限らないのではないか。」

まったく、その通りだと思いました。取り組みで想定した効果が出るかどうかは、その取り組みに関わる諸要素の状況によって変わり得るでしょう。

改めて、当該会議・セミナー・コーチング等の目的・形態、クライアント・受講者側、ファシリテーター・コーチ・講師側とクライアント・受講者側の関係性、の諸要素について以下の通り整理を試みてみます。(ファシリテーター・コーチ・講師側は、意欲高く必要な準備はすべて行うべきという前提で、割愛します)

<A:当該会議・セミナー・コーチング等の目的・形態>
1.ファシリテーター・コーチ・講師側からの一方的な情報伝達を行う。クライアント・受講者側が必要な気づきや知識を適宜自由に持ち帰る。

2.ファシリテーター・コーチ・講師側とクライアント・受講者側が双方向に働きかける。その結果生み出される具体的なアウトプットをクライアント・受講者側が持ち帰る。

3.ファシリテーター・コーチ・講師側とクライアント・受講者側が双方向に働きかける。加えて、クライアント・受講者側内でもグループディスカッションなどを行い、アウトプットに反映させる。その結果生み出される具体的なアウトプットをクライアント・受講者側が持ち帰る。

<B:クライアント・受講者側>
1.当該会議・セミナー・コーチング等の必要性・参加の意義を十分に理解している。自ら参加費を払い(あるいはそれに準じる意識で)、 意欲的に望んでいる。

2.当該会議・セミナー・コーチング等の必要性・参加の意義はある程度理解している。自律的ではなく他律的に(指示されて)参加している。

3.指示されて参加している。当該会議・セミナー・コーチング等の必要性・参加の意義も理解しておらず、後ろ向きの参加姿勢である。

<C:ファシリテーター・コーチ・講師側とクライアント・受講者側の関係性>
1.十分に面識があり、お互いの属性や特徴をおおむね理解している。
2.対面で会ったことはある。お互いについてまだ深くは知らない。
3.まだ会ったことがない。初対面。

そして、オンライン・通信でも期待通りの成果が出せるのは、下記の条件が必要ではないでしょうか。

・A-1:B・Cがどれであるかに関わらず、オンラインで目的達成可能。
・A-2:B・Cともに、1か2であることが必要。望ましくは1。
・A-3:B・Cともに、クライアント・受講者側でグループに分かれる際に1の人物が1名以上各グループに入っていることが必要。(望ましくは2名以上)

A-1.は、聴講者何百人などの大規模講演会が当てはまるでしょう。この場合、BとCはどれが当てはまろうが、オンライン・通信でも十分完結できると言えます。他方、A-2やA-3は、それなりの要素が揃っていないと難しいと感じます。

B-1は、「自ら参加費を払い」とは、会社支払いによる参加の場合、経営者のことです。経営者は、会社の支払い=個人負担と同程度の感覚を持ち得ています。また、「あるいはそれに準じる意識」とは、経営者に準じる管理職や基幹社員です。自社の財務構造を理解し、当該会議・セミナー・コーチング等が重要な投資であるという本質を理解できている人です。

先日、ある企業様の管理職研修を終日オンラインで実施しました。3会場を会議システムでつなぎ、各会場に10人程度ずつの参加者が集まる形態でした。こちらからの講義以外のディスカッションは会場内で対面で実施しました。これは上記に当てはめると、A-3に当たります。Bについては参加者によって1と2がまちまち(表立っては見当たらないが、隠れ3の人がいたかも)、Cについては1と2の人がいた感じです(3はゼロ)。

同研修はうまくいったのですが、それは全員と既に面識があること、及び各グループに2名ずつ以上B-1&C-1の条件を満たしているコアメンバーが入っていて、議論を先導してくれていたからだろうと、振り返っております。これが、グループによってはB-1&C-1の人が誰もいないなど、前提条件が違うとうまくいかなかったように思います。

「会議・セミナー・コーチング等はオンラインでも代替可能」等と言われがちですが、そう単純なものでもないと考えます。例えば上記のような整理を行い、十分可能な前提条件なのかそうでないのか、見極めをしていくことが、ファシリテーター・コーチ・講師側には求められるべきだと思います。「環境が環境なのだからコーチングも新しい様式にするべき」などと言って、何でもかんでもオンラインに当てはめるなどは妥当でないでしょう。

また、対面実施の効果のひとつに、「偶発的な出来事による効用」があります。講師が何気なく歩いてくるのを見て質問したいことが浮かんだから聞いてみた、講師が実地の雰囲気や企業の様子を見て想定される当該企業における課題の仮説が浮かんだ、研修時間外の触れ合いで本音を聞けた、などです。オンラインという形態では、こうしたことは起こりにくいという弱点も踏まえておく必要があると考えます。

それでも、例えば上記のような整理をしてみて望ましくないという条件下でも、様々な制約からオンラインで実施せざるを得ない状況もあると思います。その場合は、例えばファシリテーター・コーチ・講師側がクライアント側の責任者と綿密なコミュニケーションをとって、入念な考察や準備を行うなど、効果を少しでも高めるための相応の取り組みが求められると言えるでしょう。

<まとめ>
オンラインや通信で代替可能なものと、そうでないものとがある。

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