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決算情報の開示有無

小学校低学年の息子から、「パパは給料いくらもらってるの?」という質問を受けました。私自身を思い出すと、小学校5年生の時に初めて同じ質問を親にした記憶があります。それと比べると早いタイミングですかね。お金に興味を持つのはとてもよいことだと、個人的には思っています。

先日、ある中小企業様の経営会議に参加した時のことです。
「会社の決算書を開示せよという要望が、社員からあがっている。どう対応するべきか。開示する法的な義務はあるのか。弁護士は法的根拠はないと言っているが。」という質問を受けました。上場企業であれば、有価証券報告書等で自ずと主要な財務諸表項目は開示されます。しかし、同社様は上場企業でもなく、株主も創業一族が占めているため、開示義務はないでしょう。

法的義務の有無もさることながら、この問いに対してどうしたいのかのポリシーの問題だと、私は思います。質問の様子からも、あまり積極的には開示したくない様子が伺えました。そこで、冒頭の質問を投げかけてみて、自分が親だったらどう答えたいか尋ねてみたのです。

すると、その会議参加者の答えは、「はっきりした額を言わず、「家族全員がちゃんと生活していける程度の給料をもらっている」と答えるだろう」でした。私はさらに、「なぜ額をはっきり言いたくないのか」と問いかけてみました。すると、「そんなにもらっているなら、もっと小遣いくれなどと、言われかねない」という回答です。

そこでさらに、「仮に子供がそう答えたとして、それは妥当な主張だと思うか?」と問いかけてみたところ、「給料と控除後の手取りは違う。それに、もし病気や事故などに遭ったときのためにある程度貯めておかなければならない。子供の学費もかかるかもしれない。住居費、食費、夏休みは家族旅行も必要。そうした貯蓄を考えると、今の小遣い額が妥当。」という回答でした。

そこで「その視点が、自社社員に対するものとまったく同じなのではないか?」と問いかけてみたところ、「う~ん、確かにそうですね」という回答でした。

冒頭の質問に対してどう答えるべきか、答え方にひとつの正解というものは存在しないでしょう。私がどう答えたかは割愛し、、主な回答方法の類型としては下記のいずれかでしょう。皆さんは、どのように答えたいでしょうか?

1.実額をそのまま教える。
2.「家族が安心して生活できる程度の給料だよ」など抽象的な話をする。
3.「それは聞くべき質問ではない」などと却下する。

いすれの回答をするとしても、回答理由(なぜそう回答するかのポリシー)が重要だと思います。2.の場合、子供にとって「安心して生活できる額」というのが一体いくらなのか、それはなぜなのか、謎のまま残るかもしれません。その結果、金銭感覚が身につく教育機会を逸するかもしれません。謎にしてまで守りたいものは何なのか、それはなぜなのかを明確にするべきでしょう。3.の場合、お金に関する質問をしてはいけないのだと、子供が考えてしまうかもしれません。その可能性を受け入れてまで優先させたいことは何なのか、明確にするべきでしょう。

1.の場合、情報が独り歩きする場合があります。学校で友達に情報を漏らす可能性もあるでしょう。また、子供がその額の意味を理解できない場合、親に対する誤解や不信の種になるかもしれません。それらの可能性を考慮してでもなぜ今(この年齢でも)実態を共有したいと思うのか、明確にするべきでしょう。

上記の企業様では、1.のリスクを回避して、2.か3.にとどめたいという考えだったようです。つまりは、今の自社社員の成熟度では決算情報の内容を理解できない、「営業利益がそれぐらい出ているならもっとボーナスくれ」などと浅はかな主張に走りかねない、今は逆効果の方が大きいと想定するので時期尚早、という理由のようです。

もちろん、会社としてそう判断するのもありです。ただ、そうであるなら、じゃあいつまで待てば成熟するのか、待っても成熟しないなら積極的に教育(財務諸表の見方や利益の考え方を理解させるなど)することはしないのか、ということも併せて考えるべきでしょう。

私は個人的には、会社の決算情報はすべて社員に開示したほうがよいと考えます。もちろん、経営者や役員個人の給与等不必要な個別情報は分からないようになるまで情報を括ってもいいですし、細かすぎる項目はある程度大括りにして共有することでもよいでしょう。また、成熟度が低いと判断されれば、開示時期を決めた上で十分な教育が行えるまで待つこともありだと思います。

しかし、「自分が乗っている船がどんな状態なのか」「どんな海図をもとにどんな進度でどこの港を目指しているのか」の指針なしに、単に「オールを漕げ」とだけ言われても、力は出し切れないでしょう。決算情報やそこから判断される経営上の課題を知らずして、目標設定や役割の遂行は限界があると思うわけです。

上記の企業様も、社員が知る必要のない個別情報はまとめて括ったうえで、決算書を開示することになりました。

<まとめ>
決算情報を開示、非開示いずれにする場合でも、その理由を明確にする。


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