見出し画像

自分のミッションの明確化

先日、ある社長から、幹部人材の一人が退職表明してきて困っているという話を聞きました。「これ以上続けていく気になれない」ということのようです。同幹部人材は私も会ったことのある人物です。企画力もあり、経営に対しても物怖じせず提案する人物の印象だったため残念ではありますが、「早めにわかってよかったのではないか」というのも率直な感想です。

同社長から聞いたお話の中から、主に2つの点を感じました。

1.会社に対して批判的であり、同社様の理念・方針に合わない

同幹部人材はエンジニアとしての技能も高く、企画力・提案力もある方です。しかし、同社様の理念や基本方針に共感していません。同社様では、会社にとって重要な施策と社長が位置付けている、ある大掛かりな取り組みを実行中ですが、そのことに対しても「進めてもうまくいかない」と後ろ向きな姿勢で、非協力的です。また、他の幹部人材に対しても不満があり、チームとして取り組む意思がないようです。

経営本としては古典になったと言える「ビジョナリーカンパニー」では、「企業が飛躍していくには不可欠なこと」として、次のような説明があります。

「まずはじめに適切な人をバスに乗せ、不適格な人をバスから降ろし、その後にどこに行くかを決める。」

会社の理念や基本方針に反する人は、会社にとって明らかに不適格な人です。その姿勢を変える意思がないなら、早めにバスから降りてもらう必要があります。本人にとっても、別のバスに乗るほうがよいでしょう。重要施策を進める中で不適格だというのがはっきりしたわけですので、早めに退職表明があったのは幸運だと、この出来事に対する認知を変えるとよいでしょう。

2.自分のミッションが明確でない

同幹部人材の退職後の予定については、何も決まっていないようです。その上で、話を聞いた限りでは、「自分の時間を切り売りすることで今より金銭的に割の良い儲けができる仕事を、これから探す」という感じのようです。

もちろん、又聞きであり、退職表明をする社員が本当の退職理由や今後の予定を包み隠さずすべて話すケースは大変稀であるため、上記の情報は限定的で不正確かもしれません。しかしながら、聞いた話の大勢からは、「自分の職業人生におけるミッション(使命、存在意義)」が不明確であることが伺えます。そうでなければ、「時間を切り売りする」という言葉が出てくるはずはありません。

10月3日の日経新聞に、「もう一つの働き方改革」という見出しで、このことに関連する記事がありました。以下に一部抜粋してみます。

~~損害保険大手のSOMPOホールディングスが今年夏に始めた取り組みは興味深い。働き方改革の一環として、社員一人ひとりに「あなたの使命は何ですか?」と人生観を正面から問いかけるユニークな試みだ。コロナ禍による就労環境の激変を奇貨として、桜田謙悟社長がかねて温めてきた構想を実行に移したそうだ。

コーポレート・ミッションと呼ばれる会社の使命を定義する作業は経営の手法として前からある。対して、SOMPOが取り入れたのはマイ・ミッションという耳慣れない概念だ。業務上の目標ではなく、あくまでその人が生涯かけて目指す何かを指す。「日本社会や企業に新しい価値やインパクトを与えていく」などなど。仕事の枠を超えて自分を突き動かすものを明確にせよ、と会社が社員に呼びかけたと捉えたい。

自分の人生と会社の関係は今までの発想と逆になるそうだ。つまり、従来は会社の中に自分の人生があったが、これからは自分の人生の中に会社を入れる。自分の使命に駆り立てられる力で目の前の業務に取り組み、その結果として組織に利益をもたらすイメージだ。部長は自分のマイ・ミッションを作った経験を生かし、部下のマイ・ミッションづくりに携わる。

個人の使命を探す作業は一見すると、企業が収益を稼ぐ活動とかけ離れた印象を受ける。しかし、桜田社長は約8万人のグループ社員に宛てて8月に発信したメッセージで、働き方改革に取り組む理由に「圧倒的な生産性を発揮し続ける」ことを挙げていた。~~

キャリアコンサルティングの世界では、マイ・ミッション=自分の職業生活でどうありたいかを明確にすることが、不可欠のプロセスとして定着しています。同記事からも、「マイ・ミッションを明確化し、コーポレート・ミッションと合致させることが重要であり、その結果生産性も上がる」ことが伺えます。

マイ・ミッションの明確化は、本来個々人が取り組むべきことであって、企業がそこまで面倒見るテーマではないかもしれません。その上で、「メンバーシップ型雇用」(特定の担当業務ありきで固定でなく、具体的にどんな仕事を担当するのか、入社した後に次第にわかる)が依然として軸になっている日本の雇用慣行からすると、同記事のようにマイ・ミッションの明確化についてもある程度企業側の働きかけが不可欠と言えるかもしれません。

同幹部人材についても、マイ・ミッションが明確になっていれば、退職は既定の進路としても、その選択の意味や今後の予定などについて本人がより踏み込んで考察できるでしょう。

上記からは、次の2点が言えると考えます。
・自社への参画を考える人材に、コーポレート・ミッションをよく説明したうえで、理解・共感してもらう。
・社員に対し、マイ・ミッションの明確化にも取り組むとよい。

コーポレート・ミッションに大きく共感した上で入社した人材なら、マイ・ミッションの明確化が後付けになったとしても、明確化されたマイ・ミッションとコーポレート・ミッションとの間に合致する部分を見つけることができるでしょう。まったく合致する部分が見当たらない人材は、コーポレート・ミッションに共感しないはずだからです。もし自社のコーポレート・ミッションが明確でないなら、その明確化から始めるべきということになるでしょう。

<まとめ>
自分のミッションを明確化し、コーポレート・ミッションとの合致を認識する。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?