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個の時代が早く来た

先週の日経新聞を読んでいたら、「個」の時代の到来を彷彿させる内容の記事が印象的でした。
例えば、先週の社会面で掲載された「Nextストーリー筋トレ2.0」というシリーズの9月9日の記事では「理想の自分マネジメント」「企業トップ「心身を最高の状態」に」という見出しで、企業経営者がパーソナルジムで心身を鍛える様子について書かれていました。以下は一部抜粋です。

~~東京・赤坂見附の雑居ビルの2階に、小さなパーソナルトレーニングジムがある。8月の週末、そのジムのパソコン画面にライフネット生命保険共同創業者で、ベンチャーキャピタルのスパイラル・キャピタル(東京・港)マネージングパートナー、岩瀬大輔の姿があった。

香港に滞在する岩瀬は週2回、用意されたメニューで汗を流す。自宅にはダンベルとベンチ台などがそろう。「ビジネスは人を動かす力が全て。リーダーは普段から心も体も整えて、見た目も格好いいのは大事だと思う」と話す。

不確実性が増す時代の経営環境。企業トップは日々、難しい判断が求められるが、常に心身を最善の状態に整えれば、高い生産性で職務にあたることはできる。

クラウドソーシング大手、ランサーズの社長、秋好陽介は「日本の経営者が全員筋トレしたら、GDP(国内総生産)が間違いなく110%以上になる」が持論だ。体脂肪率20%から3%まで落とした経験を持つ秋好は、筋トレも経営者目線だ。体重や体脂肪などをKPI(成果指標)に見立て、目標設定。体重が目標値から離れていれば、原因を突き止め改善策を立てる。「経営の難しさと違い、筋肉は投資した分、確実にリターンがあるので精神安定にもつながる」

筋トレの効用は種々いわれている。ホルモンが作用する、神経が活発になる……。ただ、経営者にとっては、目標を持って計画的に筋トレに取り組み成果を出すことが、マネジメント力の証明にもなり、経営判断に自信を深められることにつながるのだろう。~~

コロナ禍で勤務体系がテレワークに移行したのに伴って、「運動不足で太った」という声を聞くことがあります。例えば私の場合、自宅からオフィスまで通勤すると、普通に歩くだけで往復で約5000歩の歩数となります。望ましいとされる1日1万歩の約半分です。これにお客様への訪問やちょっとした寄り道などが加われば、1万歩にほぼ近づきます。終日在宅勤務で家から出なければ歩数はほぼゼロですので、仮に2日に1回在宅勤務なら毎日の平均は4~5000歩ということになります。この状態が長く続くと、少しずつ身体能力が減っていくであろうことが、改めて認識できます。このことは、長期的には自身の思考・パフォーマンスに大きな影響を与えるでしょう。

普段お会いする経営者・経営幹部の中でも、コロナ禍で太ったと言う方と、以前と変わらず健康みなぎるように見える方と、両方いらっしゃいます。統計を取ったわけでもないので雑感にすぎませんが、コロナ禍においても守りと攻めのアクションで成果創出している企業の経営層は、後者の方が圧倒的に多い印象です。上記記事のイメージで、「心身のセルフマネジメントが組織マネジメントに通じている」ことが垣間見えます。

テレワークで生産性が落ちるという意見がありますが、その要因のひとつとしてセルフマネジメントの難しさが挙げられています。テレワークで得るものがあれば、同時に失うものもあります。通勤・出社・目の前にいる上司の監督・周りの目といったシステムに乗っかっているほうが、運動や業務のマネジメントはしやすいはずです。それらのシステムを手放すということは、個々人が自身をマネジメントしなければならないということになります。

同日の紙面で、「日本の教育 公的支出低調」という記事もありました。主なOECD加盟国で、教育機関(小学校から大学までに相当)向けの公的支出の対GDP比割合として、日本はOECD平均の4.1%を下回り2.9%と最下位に近いという内容です。

かつて日本の学校教育は世界的にも評価され、子供の学力も世界的に上位と評価されていた時期もありました。そして、それが強い産業人材の育成に寄与しているという意見を聞くこともありました。今は子供の学力・教育費共に世界の中での順位を下げ続けている状態です。また、一部のIT先進国に比べ、コロナ禍において学校教育オンライン化などにもうまくシフトできない現状も露呈されました。

ここでも、かつては社会がつくってくれた教育システムに乗っかっていれば、それなりに社会の組織で活躍できる人材に育成されやすかった環境が、そうではなくなっていることがうかがえます。学校教育に限らず、個々の当事者が自らに必要な教育・受けたい教育を定義し、取り組んでいくマネジメントが求められている状況と言えそうです。

こうした状況からは、今後の人材としての成長、キャリア構築の観点で、主に下記の2つのことが言えるでしょう。

・個のセルフマネジメントがますます必要となる。
・その上で、セルフマネジメントをフォロー・支援する組織はますます選ばれる。

『日本の人事部』が主催して選定される、HR関連では権威のある賞「HRアワード2020」の入賞作が発表されました。企業人事部門では、ニトリホールディングスをはじめ、相当な時間やお金を投入しチームや人材育成の仕組みづくり・取り組みを行っている企業が入賞しています。こうした企業には、採用活動に対する応募数も事欠かないでしょう。セルフマネジメントが求められる個の時代だからこそ、セルフマネジメントをフォロー・支援する企業はそれだけで競争優位にも立ちやすいということが言えると思います。

また、9月10日の紙面「超富裕層の力 大国並みに」の記事では、国家と共に超富裕層の持つ力も目立つようになったことが触れられています。例えば、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏による『ビル&メリンダ・ゲイツ財団』は、ワクチン開発などに大国の政府並みの支援を行っています。AIやロボットの普及は所得格差を広げる方向に作用するでしょう。その結果、資金面でも従来以上に力を大きくする個人が、より広範な影響を社会にもたらすことになります。ここでも、個の時代を感じさせます。

上記のような個の時代の到来は、以前からその傾向はあり未来はその方向に向かっていたものの、コロナ禍で環境変化が前倒しとなり、時期が早くやってきたということでしょう。この流れに対して、個人として何をすべきか、組織として何をすべきか、今後大きな課題となると考えられます。

<まとめ>
個のセルフマネジメントをフォロー・支援する組織は、今後ますます選ばれるようになる。

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