リバースメンタリングという取り組み(3)
8月20日の日経新聞で、「支店長・部長、若手が逆指導 東京海上日動、職場づくり参画」というタイトルの記事が掲載されました。
経験年数の長い人が新人などのメンターになる一般的なメンター制度の逆で、若い世代が年配者のメンターとなる「リバースメンタリング(RM)」については、以前の投稿でも取り上げたことがありますが、その後も導入の動きが広がっている印象です。
同記事の一部を抜粋してみます。
「35歳以下の社員から先生役を募る」という手あげ制になっていて若手社員の主体性に基づいていること、事務局がマッチング機能を担っていることが、ポイントではないかと想像します。
いずれは全員を参加対象にできるのかもしれませんが、これまでになかったことで、かつ緊急性の低い組織活動は、いろいろな考えや思いをもって見ている人がいるものです。本テーマのように、若手社員が役員や幹部社員の指導役になるという新しい概念に対しては、一歩引いて見ている人も多いかもしれません。
社をあげての施策を方針とし、最初から全社員の参加を対象とするやり方もありますが、手あげ制にして主体性のある人のみを指導役にする範囲からまずはテストマーケティングしてみるというやり方は、理に適っていると思います。(指導する側と受ける側の人数調整など、マッチングの負荷は高まると思いますが)
本テーマのような活動で効果を上げるためのカギとなるのは、やはり指導を受け止める側の役員や幹部社員の意識だと考えます。
先日、知人でITの領域に明るい方にお話いただく機会がありました。その方によると、「年を重ねるほど学習能力が落ちる。だから今さらITに慣れるための勉強などやるのは非効率である」と捉えて、ITの領域の学習を敬遠するベテラン層は多いそうです。
確かに、記憶力など一部の認知機能は、若い頃にピークを迎え、その後徐々に低下する傾向があると言われています。しかしながら、年を重ねても脳の神経可塑性(脳が新しい情報を取り入れ、適応する能力)がなくなるわけではなく、年齢を重ねても脳は新しいことを学ぶ能力を持っているとされます。また、それまでに蓄積した経験や知識と新しい情報を関連付けるなどで、新しい物事についてより深く理解できる可能性があるということも言われています。
リバースメンタリングで、ITなどは取り組み項目になりやすいと思われますが、学ぶ側の学習ということに対するこうした姿勢を変える必要があると言えます。
加えて、同知人からは興味深いお話を聞きました。
「企業研修を実施しようとしても、管理職の人がなかなか研修に参加表明をしないことがある。ところが、まったく同じ趣旨・内容の研修でも、「管理職対象」とタイトルに一言入れて研修項目の見え方を少し変えた研修を別途で設置すると、展開がまったく変わり、管理職の人が別途設置したほうに次々と参加表明することも多い」ということです。
これは何を意味しているかというと、「非管理職の人に、そのテーマについて管理職である自分がわからないという姿を見られたくない」という心理です。
管理職の人が、すべての領域においてメンバーより知識・経験・考察力が優れている状態を目指す必要はありません。自分の不得意領域や知見の浅い領域は、若年層から素直に学ぼうとする姿勢も必要だと言えます。
同記事のような取り組みによって、組織内で小さな行動を増やし、成功事例を増やしていきながら、いずれは組織全体のベテラン勢の意識も変えていけるとよいと考えます。
なお、リバースメンタリングについて、もしよろしければ以前の投稿もご参考にしてくだされば幸いです。
<本日の一言>
リバースメンタリング成功のカギのひとつは、学ぶ側である年長者の意識の変化。
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