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完全年功序列・家族主義で成果を上げる(3)

前回の投稿では、万松青果株式会社の紹介記事をテーマにしました。同社が「年功・勤続年数序列・家族主義」を掲げてうまくいっている要因として、「自社というバスに適切な人を乗せ、それを維持するための組織活動に力を入れていること」があると考えました。

年功・勤続年数序列・家族主義を維持するための組織活動の例として、社員旅行やイベントにたいへん力を入れているということを、前回取り上げました。他の例についても、BizHint記事(掲載当時である2年前の情報となります)で紹介されている、同社専務取締役中路和宏氏のお話からいくつか挙げてみます。(一部抜粋)

社員や求職者に「ここで働きたい!」と思ってもらえるような事務所にしたかったのです。机は超大型の昇降テーブルにすることで、効率的に仕事ができるようになりました。午前中は忙しいので、立って仕事をすることで移動も含めスムーズになります。午後からは仕事が落ち着くので机を低くして、座ってじっくり作業します。もちろん、従業員のパソコンは移動しやすいノートパソコンです。

どんな会社もそうですが、同じ職場なのにあまり話したことがない仲間っていますよね?仕事上、直接関わることがなければ話す必要もないわけです。オフィスを改装することで 従業員どうしの心の壁を壊したいと思いました。なので作業場所はどこでもOKのフリーアドレスにしています。

ただ、フリーアドレスでは3つ、約束事を決めました。 それは、
女性社員は分散して座る(立つ)
男性社員は必ず席を空けずに座る(立つ)
午前と午後で全員場所を移動する
というものです。

フリーアドレスにした結果、社員どうしの座席の距離が離れたり、いつも同じ人で固まってしまうと「組織の一体感」に繋がらないと考えたのです。また、席がたくさん空いている場合などに、男性が女性の隣にいくというのはどうしても恥ずかしい。逆もしかりです。なので、そういった行動を「約束事」として、お互いがやりやすいようルール化したつもりです。ここに関しては、「自由です!どうぞ!」ではうまくいく気がしませんでした。

2つの部屋を仕切る壁の両サイドには大型液晶モニターを設置。隣の部屋の様子が相互に映し出されている。天井近くには社内イベントの写真の数々。

「フリー」アドレスと言いながら、実際にはフリーにしていないことがうかがえます。このことは、会社の価値観を共有し浸透させるためには、意図的な環境設定も大切であることを認識させてくれます。「年功・勤続年数序列・家族主義」という価値観であれば、なおさらなのでしょう。

(直接実地を見ていないため、これは想像ですが)例えば「リモートワークで効率的なコミュニケーションを追求し、なるべく出社しなくてよい就業環境」などとは、ある意味真逆の環境だろうと思われます。

「オフィスは機能的に作業をするための場所」と割り切って考えて、シンプルで無駄のない環境をつくり、社員が必要最低限の出社しかしない会社もあると思います。それもひとつのあり方ですが、同社の価値観とは相いれないものだと考えます。

上記のような、「女性社員は分散する」「午前午後で場所を移動する」「モニターで隣の部屋にまで自分が映されている」などのルールを、「面倒くさい」「そうしたルールに意味を感じない」と思う人も多いと思います。そのような人は、(前回取り上げたように)「このバスに乗るべき適切な人ではない」ということで、入社できないことになるのでしょう。

また、従業員には今回の改装の意図を「事務所が変わるのではなくて、これを機に私たち自身が変わろう。だからみんな、恥ずかしがらずにどんどん隣どうしの席に座ろう」と話しました。

そうすると、これまであまり話したことがない人どうしが、隣で作業するようになり、どんどん話し出すようになりました。パソコンの使い方や売上の調べ方など、コミュニケーションが以前と比較して驚くほど活発になり、相互理解や一体感が醸成されていくのがわかりました。

恥ずかしながら、私自身も今まであまり話したことがなかった従業員と話す機会が増え、「こんなことを考えているのだなあ」とよく理解できるようになりました。特に「隣の席を空けずに座る(立つ)」というのは一番効果が大きかったと思います。

オフィスの環境設定を含め同社の取り組みを見ていると、あらゆることで理由が明確になっていて、その理由がしっかり社員に共有されていることを感じます。単に「フリーアドレスのほうが効率的だから」で済ませるのではなく、同社としての深い意味づけをしています。「WHAT(何)をするか」に加えて、「WHY(なぜ)するか」を明確に言語化し、共有することの大切さを感じます。

「社員全員でMOSワードの資格を7月までに、MOSエクセルの資格を今年中に取得する」目標を掲げ、日々皆勉強中です。苦手な人には任意参加の「チームMOS」を立ち上げて、自主的に学ぶ機会を設けました。こちらも結構進んできました。

「3か月目標」を作り、「販売士」や「ITパスポート」の資格取得、「毎月1冊ビジネス新書を読んで、皆の前で感想を発表する」なんかもやっています。最初は全くできなくて、落ち込んで相談に来た社員もいましたが、今では結構楽しそうにやっています。

この例からは、家族のようにお互いが教え合い、社員全員が一丸となって能力開発に取り組んでいることがうかがえます。

年功序列や家族主義と聞くと、人によっては「エスカレーターの流れに乗ってわいわいやっていれば、自動的に自分を運んでくれる」といった、単に和気あいあいの雰囲気を想像するかもしれません。しかし、そうではなく、職能開発に真摯に取り組んでいる切磋琢磨の風土であることがうかがえます。

おそらく、職能開発を怠っていれば周囲から取り残されるでしょうし、習得に難儀している人や後から入った弟・妹には自分の時間を使って教える活動を大切にされているはずです。「スタイリッシュに自分のキャリアを追求していくことに、自分の時間の使い方を集中したい」という人には、やはり合わない環境なのだろうと推察します。

能力・成果主義や売上目標などは撤廃し、「喜んでもらえた週報」というのをやり始めました。「お客様に喜んでもらえたこと」「もっと喜んでもらえるには何をすればいいか」ということを週報として記入していくようにしたのです。『1日ひとつでいいからお客様に喜んでもらうことをしよう』という思いで、それをみんなで共有していくうちに、社内の雰囲気が好転し、売上が伸びるようになったのです。

売上は社内の数字です。そればかり見ていると、内向きの会社になると思ったのです。社内の評価や上司の顔色を伺う……といった具合に。そうではなくて、「お客様に喜んでもらった結果」会社に返ってくるのが売上なのだから、『お客様に喜んでもらうことだけ』を考えよう、と割り切りました。すると従業員の気持ちが一気にお客様の方に向いたのです。それがこの10年間増収増益できるようになった、一番のターニングポイントだと思います。

また、日々の売上や利益の情報も全社員が見られるようにしています。売上は、わざわざノルマや目標として設定しなくても、過去からの推移などを常に見られるようにするだけで社内に変化が生まれました。社員全員が意識するようになり、担当者はそれぞれ責任感をもって行動してくれるようになったのです。みんなが売上を見ているし、それが伸びたら、やはり嬉しいんですよ。

売上に限らず「みんなが同じことを知っている」というのは、何をするにも話が早い。すごく大事なことだと思います。配達に出た社員がお客様先で追加受注をしたら、それをすぐにスマートフォンからkintonに入力することで事務所のスタッフも含め、全社員が知ることができますし、そのことでみんなで盛り上がることができます。

情報共有に取り組むべきなのは、年功・勤続年数序列・家族主義だからというわけではなく、すべての会社に共通して言えることです。そのうえで、同社は特に「みんなが同じ情報を知っている」状態づくりにこだわっていることがうかがえます。

普段いろいろな会社の方とお話すると、「財務情報などは社員に開示していない」「偏った認識をしそうなのでできない」という意見を聞くことがあります。組織にも適応や変化の段階がありますので、そうした情報非開示の運用段階を経ることが必ずしも間違いとは思いません。そのうえで、「バスに乗っているみんなで同じ目的地を目指すのであれば、同じ情報を共有しておくべきだ」とする同社の考え方は、参考になるものがあります。(個人情報含め、非開示にしている情報もあると思いますが)

「成果主義や売上目標などは撤廃」とあるものの、成果や売上を無視しているわけではなく、それらにこだわっていることも重要な点だと思います。会社はお客さま・社会のために存在し、存在意義を発揮している状態なら、結果としての売上や利益があがっているはずです。同社では、それらを評価の管理指標として「だから仕事がんばれ」というアプローチなのではなく、指標として見たい時に自由に見られる状態にしたうえで、別のアプローチによって結果につなげているということが、言えると思います。

続きは、次回以降考えてみます。

<まとめ>
「WHAT(何)」だけでなく「WHY(なぜ)」を明確に言語化し共有する。


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