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「目的」「個別」に基づくマネジメント

前回の投稿では、テレワーク等就業環境の変化に伴って今まで以上に大切になるマネジメントとして、「1.成果」「2.役割」に基づくマネジメントについて考えました。今日も、その続きです。

3.目的マネジメント
本コラムでは、時々「目的連鎖」という考え方について言及することがあります。
「目標連鎖」という言葉はイメージしやすいでしょう。目標管理において、会社目標~部門目標~課目標~個人の目標まで、目標が連鎖していくことです。そして、設定した各目標の達成度合いを追求することで、マネジメントがなされます。

もちろん、目標連鎖は必要ですが、その目標連鎖には「目的連鎖」も伴うべきです。つまりは、企業の事業目的「何のために自社はこれをやるのか」が、個人の仕事・取組みの目的「何のために私はこれをやるのか」まで連鎖する必要があるということです。

組織論や人材論(それらに限らずマーケティングや経営戦略においてもですが)でよく例に挙げられるのが、東京ディズニーリゾートです。清掃スタッフは、カストーディアルキャストと呼ばれています。英語で「カストーディアル」とは、「保管」や「保護」を意味します。同リゾートHPを参照すると、カストーディアルキャストは、「笑顔で清潔なパークを保つ掃除のエキスパート」と紹介されています。

そして続きがあり、「パーク内外の清掃だけでなく、写真撮影を頼まれたり道案内をしたり、素敵な思い出作りのお手伝いをします。」と書かれています。カストーディアルキャストに関しては様々な話があり、「清掃して集めた落ち葉を処分せずに、地面に並べてアートにし、ミッキーの顔を描いた」などがその例です。それを見たお客さんは、もちろん大喜びです。キャストに、そのようなことをする義務はないでしょう。ではなぜやるのかというと、単純にそうしたいと思うから、そうするのが楽しいから、でしょう。

前回取り上げた「役割マネジメント」にも通じますが、キャストは「笑顔を保つ」「素敵な思い出作りをする」のも役割と刷り込まれています。そして、なぜそれが役割なのか、何のためにそうするのか、という目的が、パーク運営の基本理念である「幸福を感じてもらえる場所」「ともに生命の驚異や冒険を体験する場所」などにつながっていると考えられます。社会的に「いいね」と思える企業目的に、社員の仕事の目的が連鎖し、それに社員が心から共感すれば、自ずと張り切って動くということでしょう。

先日お話をお聞きした企業様で、従業員サーベイの結果を共有いただきました。「休日取得」「上司と部下の関係性」等々、他社水準より満足度スコアが低い項目が散見されたのですが、「自社の存在意義」の項目は満足度スコアが抜きんでて他社水準を大きく上回っていました。実際、企業理念浸透の取り組みをかなりなさっている企業様です。同社様は上記のような不満要因があるものの、離職率が低く維持できているのですが、そのひとつの要因は「自社の存在意義への共鳴」=「目的マネジメントの充足」にあるのではないかと、見受けられた次第です。それだけ、日々の仕事に目的が感じられているかどうかは、重いことです。

ディズニーリゾートの例は、特殊ではないかと思われる方も多いでしょう。ならば、同じ清掃という分野で、近年書籍でも取り上げられたTESSEI(JR東日本テクノハート)の新幹線清掃スタッフの例も参考になるのではないでしょうか(ご興味のある方は、検索すると出てきますのでご覧ください)。

鉄道車両の清掃という、これまで全く日の当たらなかった仕事を、「新幹線お掃除劇場」「7分間の奇跡」として、「なぜあんなにすごい掃除ができるのか」とハーバードビジネススクールの教材になるまで変容させたのも、目的マネジメントの好例と言えるでしょう。

このような理想的なマネジメントが実現できていれば、監視などしなくても社員は自ずとよい仕事に向かうはずでしょう。ただ、テレワークの環境は対面と違って「目的連鎖」が希薄化しやすい環境とも言えます。だからこそ、オフィスでの対面環境以上に目的連鎖を図るための取り組みが求められると考えます。また、上記の例からは、どんな仕事であっても必ずよい目的を定義できる、そんなことも言えると思います。

4.個別マネジメント
「個別マネジメント」とは、社員個々人の状態を的確に把握し、個々の状態に合わせたマネジメントを個別に行うことを、ここでは指します。篠塚 澄子氏著『幸せへのパスポート』を参考にしながら、「BE」「DO」「HAVE」の視点で、個別マネジメントについて考えてみます。これからは、「BE」をステップ1として、BE→DO→HAVEの順によるサイクルが特に重要になると考えます。

BE:在り方(想い、人生観、価値観、自分の考える使命)
DO:実行(アクション、取り組み、行動)
HAVE:資産(金銭、所有物に加え、能力、知識、経験なども含まれる)

これが、ステップ1起点でなくステップ2起点、それも、メンバーを個別に見ることなく、集団をまとめてDOから始めようとすると、今後はマネジメントがますます回りにくくなるのではないか、ということです。

知人の組織人事コンサルタントに聞いたお話から、一例を挙げましょう。
その方が駆け出しの20~30年前までは、どの会社でも同じような仕組みを基本にし「頑張ったら20代でもBMWが買える会社にしよう」をスローガンに評価・賃金制度を設計することで、だいたい盛り上がってうまくいったそうです。このことを上記図式に当てはめると、こんな感じかもしれません。

・DO:「うちの社員は皆これを実行しよう。それが皆に求められる役割だ。」
・HAVE:「役割に取り組んで成果が出た人は、20代でBMW買えるぐらいお金ももらえたでしょ。そのまま続けていけば、皆も個人も発展できるよ。」
・BE:「その結果うちの会社で勤め上げて幹部職までいければ、職業生活として悪くないでしょ。皆のありたい職業観としても合ってるでしょ。」

この図式が悪いわけではなくて、うまく機能するときにはそれもよいでしょう。最もはまっていたのは、おそらく高度経済成長~バブル崩壊までの時期です。しかし、今ではうまく機能しそうにないのがイメージできます。

・BMWって言われても、別に車ほしくないし、カーシェアで十分です。
・お金にこだわるより、低収入でもいいから○○を大事にして生きたいです。
・今の会社は好きですが、別に要職に就きたいということではなくて、、

など人によって多種多様な反応がありそうです。同知人も、今ではそんなスローガンなど通用しないので、持ち出すこともないと言っていました。

今は、「ダイバーシティ」などと言われるように、個人のBE(人生や仕事などを通して、こうありたい、こうなりたい)が多様化しています。正確には、従来も人それぞれ多様であったものの、今ほど意識されていなかったのかもしれません。BEが多様であれば、手に入れたいHAVE、HAVEにつながる必要なDOも多様なはずです。だからこそ、各人が自身のBEを意識する、組織は各人のBEを把握する、ことを起点に置く必要があると言えます。

近年「タレントマネジメント」が話題になることも増えました。従業員が持つ資質・才能・技能・経験値などの情報(従来は住所、年齢、学歴、所属部署履歴程度だった基本情報に加えて)を一元管理することによって、組織横断で戦略的な人事配置や人材開発に活用することです。これも上記の観点から、前提として各人のBEに関する情報を取り込みBEと連動できていないと、うまく機能しないと思います。

そして、前回コラムの「目的マネジメント」の観点と合致できれば理想的です。つまりは、
・社員それぞれが自身の叶えたいBEに向かって仕事をしている
・各人のBE(個人の使命)が会社のBE(組織の使命)と接点を見出せている
・各人が各人なりにその接点をモチベーションに仕事をしている

というイメージです。テレワーク環境では、個人が区切られた空間で仕事をするために、対面以上に各人のBE、DO、HAVEの状況を確認することが求められるでしょう。

数回にわたって、「1.成果」「2.役割」「3.目的」「4.個別」に基づくマネジメントについて取り上げました。テレワーク等就業環境の変化に伴い、これらが今まで以上に大切になるだろうという視点です。

しかし、これらは本来、従来の対面型オフィス環境であっても必要だった要素です。テレワーク・オンラインでのやり取りを取り入れることによって、それらがなされてなかったのが明らかになった、という職場も多いのではないでしょうか。この機会に、今一度自社のマネジメントのあり方と向き合ってみるとよいと思います。

<まとめ>
BE→DO→HAVEのサイクルが機能すれば、張り切って仕事に向き合える。
世の中につまらない仕事など存在しない、あるのは、つまらない仕事のやり方である。

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