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全メンバーを当事者として変革を進める

5月16日の日経新聞で、「「私らしい」リーダー像育む 「女性が活躍する会社」資生堂1位」という記事が掲載されました。日本経済新聞社と日経BPの女性誌「日経ウーマン」による2022年の「女性が活躍する会社ベスト100」で、資生堂が16年以来の1位となったとあります。同社は、女性活躍を推進し実績を上げている会社として、かねてから定評があります。

前回までの投稿で多様性の活用をテーマにしました。このテーマについて、今回は同記事を手がかりに考えてみます。

同記事の一部を抜粋してみます。

首都圏営業本部の野真起子さんは、1月から部下約70人を束ねる営業部長に就いた。1年前は管理職に就くイメージを全く持てなかった。そんな野さんの価値観を変えたのが、昨夏に参加した管理職候補者向けの育成塾だ。同社は女性活用の取り組みの一環として、17年から女性リーダー育成塾を続けている。目指すのは「しなやかさ」と、それぞれのスキルを武器に変え自信をつけていく「したたかさ」を兼ね備えたリーダーの創出だ。

参加者は6~8カ月のプログラムの中で、自律的なキャリアデザインやコーチングスキルなどを学んでいく。課長候補者を対象にしたプログラムでは社内人脈などネットワーキングの重要性を学んだり、役員候補者向けのプログラムでは全社戦略について議論したりするなど、各階層に合わせたスキルのインプットに重点をおく。

基本は座学だが、上司も交えたグループコーチングなど、各自の視点の変化を話し合う場も設けている。上司に推薦されて参加した野さんは当初は困惑気味だったが、参加者と意見を交わすうちに「自信がないのは自分だけじゃない」と視座が変わっていったという。「様々なリーダーの形がある。スーパーウーマンにならなくていいんだと分かった」

プログラムは最大5期に分かれ、各期の合間に一定期間、通常業務に戻る「ジャーニー(旅)形式」をとっているのも特徴だ。塾での学びと実務への落とし込みを繰り返しながら理解を深めるのが狙い。卒業時にはリーダーとしての行動計画を発表する。参加者が管理職に就いた際に孤軍奮闘することがないよう、上司にも同様の研修を実施してサポート体制を整える。

育成塾には5年間で約130人が参加。17年の開塾当時は30%だった女性管理職比率は22年に37.3%まで上昇した。当初は及び腰で参加していた塾生たちが、卒業時にはそれぞれのリーダー像を自発的に描くようになるなど内面的にも大きな変化が生まれているという。

キャリアデザインの形成を後押しするため、20年から始めた女性役員との対話の場も好評だ。野さんも塾生時代に経験し、大きく背中を押されたという。「役員の方の子育て時の苦労を知り、身近に感じられた。良い体験だった」

ほかにも、目的に応じて出社とリモートワークを使い分けられる「ハイブリッドワークスタイル」や、スーパーフレックス制度を整備。男性社員向けにアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に関するワークショップや育児体験プログラムを展開するなど、社全体としての働きやすい環境作りが進んでいる。

時折、「研修やワークショップなどをやっても日々の仕事に活かされないので、あまり意味がない」という声を聞くことがあります。しかし、それは認識がずれていることが、上記の事例からよくわかります。個人単位はもちろん、組織単位の変革であっても、研修やワークショップは有力な方法論になり得ます。要はやり方です。上記の事例に見られるポイントを4つ挙げてみます。

ひとつは、研修を日々の仕事の現場と関連付ける有機的な仕掛けをつくることです。「研修のための研修」にとどまっていると、やっても意味が乏しい場になりがちです。上記の例でも、塾での学びと実務への落とし込みを繰り返しながら理解を深めるなど、日々の仕事の現場と結びつけながら研修が進められています。

次に、研修だけですべてを解決しようとは考えないことです。上記の事例でも、勤怠管理のルールなど人事制度の見直しも同時に行っています。他の取り組みやシステムなどと連携させたうえで、トータルで目標達成を目指そうとする姿勢が大切なのだと思います。

3つ目は、組織内の全員を当事者とみなして、各メンバーに対して適切な取り組みを企画し行うことです。上記のような置かれた状況では、これから管理職になる候補の女性社員のみを当事者とみなしてしまいがちです。もちろん、そうした人がキーパーソンであることは間違いないですが、それらの人を取り巻く上司や役員、男性社員もすべて当事者です。上記の場合も、あらゆるメンバーを各取り組みに参画させています。

テーマが個人の特定スキル育成などであれば、個人の取り組みのみで完結できます。しかし、今回のように個人の育成だけでなく、組織の文化の変化を伴う取り組みテーマであれば、組織のメンバー全体を同時に変えていく必要があります。一部のメンバーのみを当事者扱いし、責任もすべてそのメンバー内にとらせるなどの形にすると、変革はできないでしょう。

4つ目は、育成対象者には周囲が想像する以上のバイアス(思い込みや偏見)がかかっている場合があることを想定することです。同記事に関連し、同じ紙面で魚谷社長は次のようにコメントしています(一部抜粋)。

~~「女性社員、男性社員それぞれの意識改革に取り組んでいる。17年には女性リーダーの育成塾を発足したが、日本社会が男性中心に動いてきたこともあり、当初は女性社員自身がリーダー像を描けていなかった。『リーダーのあり方は様々。あなた自身の自然なスタイルでいい』と伝えてきた」

「『偉くなりたくない』と言っていた社員も、塾を経て『もっと女性が活躍できる場面を作りたい』と実践してくれている。今年1月には初の女性工場長も誕生した」

「女性管理職比率については自己評価ではまだまだと思っている。数字でいうなら50%になることがジェンダー平等の一つの象徴。多様な人材が混在し、仕事で評価されるのが目指すべき姿だ」

「コロナ下でハイブリッドワークスタイルを導入した。男性社員の育児休暇取得率を100%とする目標も設定した。ただ、働き方には正解がない。アイデアを持っている社員はどんどん発言してほしい。柔軟性こそがハイブリッドワークの根本にあるし、世の中の変化に柔軟に対応していくべきだ」~~

このコメントや上記の記事内容からも、女性管理職の候補者が例えば「求められている特定のリーダー像があり、自分はそれに当てはまっていない」「管理職になる自信を持ちきれていない自分は、なるべきではない」などと、偏ったモノの見方にはまっている可能性が見て取れます。このことを十分に認識したうえで、取り組みを進めていく必要があります。

「クリティカル・マス(決定的多数)」と呼ばれる数字があります。集団の中で大多数でなくても、存在を無視できないグループになるための分岐点があり、それを超えたグループをクリティカル・マスと呼ぶものです。クリティカル・マスを超えると、意思決定に影響力を持つようになり、組織の文化を変えるほどの力を持つとされています。

企業の役員に占める女性比率を高めるイギリス発のキャンペーンの日本版「30%クラブ・ジャパン」は、クリティカル・マスの3割に引き上げることを目標とした活動で、指導的地位における女性割合を30%にするという目標を掲げています。30%を超えている同社も、最初から超えていたわけではありません。全メンバーが当事者として、地道な取り組みを続けることが大切なのだと言えます。

中には、その取り組みに見向きもしないメンバーもいるかもしれません。しかし、一部のメンバーでも強いコミットメントを得られることができれば、取り組みは前に進むはずだと思います。

<まとめ>
組織変革は、全メンバーが当時者である。


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