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今後の賃金制度(2)

前回の投稿では、各種手当や休暇制度をテーマとする先週の判決内容について取り上げました。
https://note.com/fujimotomasao/n/n40aac9795de7
今日も、引き続きそのテーマについて考えてみます。

同判決内容も踏まえると、今後以下のような流れが起こってくるのではないかと考えます。

・非正規従業員が二極化する

合理性のない待遇格差が許容されなくなると、基本的に非正規社員の人件費が上昇します。これまで適用されてこなかった手当制度等の一部が、新たに適用の対象になることが想定されるためです。

雇用者としては、許容できる人件費は限られています。これを受けて、非正規従業員の数を削減しなければならなくなるでしょう。よって、今までの社会環境であれば非正規従業員として就業できたかもしれない人材が、就業できなくなる可能性があります。また、現在非正規従業員として就業している人材も、契約終了となる可能性が高まることも想定されます。

他方で、非正規・正規従業員間の人件費の差が縮まります。このことは雇用者に対し、従来の非正規従業員の中から正社員化するインセンティブとして働きます。結果として、報酬が上がり、中には正社員化するなどでより人材として待遇が上がる非正規従業員と、就業先の確保が難しくなる非正規従業員との、格差が広がる結果になるでしょう。

・業務効率化、無人化が進む

上記にも関連しますが、雇用者に対しては、より人の手のかかる工程を削減しようとするインセンティブが働きます。これまで2人でやっていた作業を1人にする、あるいは作業を無人化しその作業に当たっていた人材にはより高い付加価値を生む仕事を担当させるなど、効率化と人材に対する付加価値の追求が高まるでしょう。

結果として、例えばテレワーク化もさらに進むことが予想されます。テレワーク同様、各社にとって課題だと言われてきたRPAの導入やIOTを活用した業務プロセスの見直しが、これを機に加速することも考えられます。

・属人的な報酬項目が衰退する

職務や成果とは直接関連のない、各種手当制度等は衰退していくでしょう。そうした制度がなければ、非正規従業員との待遇差問題の議論の対象にもならないからです。業務と直接関係ない個人の属性に紐づく項目は見直しが加速するでしょう。

具体的には、年齢給、勤続給、家族手当、住宅手当、皆勤手当、退職金などです。さらにはテレワーク化の動きの影響もあり、現在90%以上の企業で支給されている通勤手当も、おそらく多くの企業で制度廃止されるでしょう。全社員一律の定期昇給も、見直しの対象となることが想定されます。

私が見聞きする企業の間でも、こうした制度の統廃合の動きが加速しています。理由の説明できない報酬項目のある企業は、今のうちに制度見直しをかけておくべきでしょう。

・家計に関する個人の自己責任が求められる

本来、居住費や家族の生活費は、雇用者が基本給に加えて面倒を見る性質のものでもなく、各個人が基本給をもとにした自身の生活プランの中で責任をもってファイナンスしていくべきものです。退職金についても同様です。国として老後に最低限面倒を見るべき金銭については、公的年金という制度があるわけですので、本来企業が責任を持つテーマでもありません。

これらの多くは、全産業的に一律終身雇用・年功序列の考え方で雇用し、転勤を含む配置転換に従わせていた昭和時代の名残です。今では社会環境が変わり、属性に関わらず多種多様な就業が可能になってきています。従業員の側がこうした制度に頼るわけではなく、自身の生活プランに自ら責任を持たなければならないでしょう。

雇用者も被雇用者も、これらの変化を予想しながら、的確な対応をしていくことが求められると思います。また、人材紹介や求人代行等の事業に関わる企業の場合は、これらの変化を事業内容に反映させていくことも必要となるでしょう。

<まとめ>
同一労働・同一賃金に基づく賃金格差是正の動きは、周辺領域に対して様々な影響を与える。


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