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会社辞めたいループから抜け出す

「「会社辞めたい」ループから抜け出そう! 転職後も武器になる思考法」(佐野 創太氏著)という書籍が今月発刊されたので、読んでみました。「転職や退職前に内省することの大切さが、楽しみながら伝わるといい」という著者の思いが形になったタイトルと内容になっています。

同書は転職・退職をテーマとしています。転退職は多くの人にとって身近かつ重要なテーマです。「最近の若者論」や「入社後3年以内に1/3の人材が辞めるのは社会問題」などと言われますが、入社後3年以内の離職率1/3という事象は何十年前から続いています。よって、転退職は古くて新しいテーマだと言えます。さらには、年齢による就職限界説も後退しています。中堅以上層の人も含めて今後より一層重要なテーマになるはずです。

転職でうまくいく人がいる一方で、うまくいかず転職先でまた同じあるいは前職以上に悩ましい日々を過ごす人がいます。それなりの準備を行って転職に臨むべきだというのは確かでしょう。同書は、そのことを考えるうえで貴重な示唆とヒントが得られる本だと感じます。

私なりに、同書の特徴でもある良さとして、2つ挙げられると思います。ひとつは、内容が「本音を磨く」という内省を基本軸に構成されていることです。

私なりの「本音を知る」の定義は、「自分の内なる感情に向き合い気づく。気づいた内なる感情に対して蓋をせずどうしたいのか折り合いをつけ、行動に結び付ける」です。転職を考える人の多くは、次の転職先を「条件」から選定しようとします。職種、仕事内容、労働時間、金銭、人間関係・・・などです。そして、多くの転職は「ネガティブ転職」(今の会社に耐えられないと思う何らかの理由があって、それから逃れたいという消極的動機に起因)です。

ネガティブ転職の場合、優先される要素は労働時間・金銭などの雇用条件と人間関係です。雇用条件であれば提示されている求人内容やそれが本当に実現されているかの実態に対する評判から判断されるでしょう。人間関係は、当該企業での現・元勤務者の声や離職率などのデータが参考材料となるかもしれません。そして、ネガティブ転職の場合は「早く決着をつけたい」という強い誘因が働きます。結果として、雇用条件やその会社で働いている社員という「自分の外にある因子に、それも表象的な情報をもとに飛びつく」という流れに行きがちです。

しかし、100点満点の理想の職場環境など、この世にはありません。これは被雇用者ではなく自分で起業している場合でも同じです。どんな仕事や職場でも、自分以外の何かの要素が絡みますので、すべて自分の思い通りにいくことはまずありません。表層的な情報と実態にも、必ず何らかのギャップもあります。上記の仕事選びの流れが続く限り、同書のタイトルでもある「会社辞めたいループ」が続くことになるでしょう。

ループを断ち切り、自分が本当に活躍できる状態を求めるためには、自分の奥底がどんなキャリア人生を欲しているか、それはどんな職業観・人生観からなのかに気づくことが必要です。同書は会社の選び方や自分の売り込み方などのHow to本・転職術ではなく、自分と向き合う内省にフォーカスしています。内省にフォーカスすることで、負のループを断ち切る力になると思います。

同書の特徴のもうひとつは、自分磨き・内省の具体的な進め方をわかりやすく説明してあることです。以下のように、シンプルでありながら、構造的で本質的な方法です(説明内容については同書に譲りたいと思いますが)。

ステップ1:本音を把握する「退職成仏ノート」を作る
ステップ2:本音を整理する「人間関係の仕分けノート」を作る
ステップ3:適切に本音が伝わるように言葉を磨く「明日への手紙」を作る

私自身、産業カウンセラーとキャリアコンサルタントという資格の有資格者として、いろいろな人材のキャリアを考える場面にご一緒することがあります。ですので「内省」の重要性はそれなりに敏感なつもりですが、内省はなかなか難しいものです。抽象的な結論を求めていく活動で、決まった正解がなく、答えは自分の中にしかないからです。よって、多くの時間を必要とする活動です。

一方で、上記の通り転職を考える場面では、時間との勝負になりがちです。結果として十分な内省が手つかずのまま切り上げる・中断することになります。内省を「リフレクション」などと聞くと初心者にはとっつきにくかったりしますが、「退職成仏ノート」「人間関係の仕分けノート」だととっつきやすく、内省というテーマに初めて触れる読者でも着手しやすい切り口になっています。「モヤモヤループ」に入ってしまっている人は、とりあえず同書の内容に沿って内省を進めてみることで、きっと景色が変わる思います。

そして、同書では「市場価値より人間価値を高めることにフォーカスしよう」と示唆しています。この「人間価値」という言葉にはとても共感できました。これからは、多様な雇用体系で、場所や時間の制約を超えて仕事をするいろいろな人と協業していく社会となります。そうした環境で大切になってくるのが、いろいろな協業者と仕事を推進していける「人間価値」の高さだと思います。その視点についてのヒントも同書から得られると思います。

以上の内容からもイメージがわくと思いますが、同書は転職や退職の勧めではありません。現職で目的意識を新たに臨むという結論も、内省の結果の形であることがわかります。転退職に限らず、キャリアのテーマについて広く考えてみるのに有益な書です。

<まとめ>
自分磨きの内省が、自分のキャリア観を研ぎ澄ませてくれる。


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