見出し画像

今後の賃金制度

先週は、今後の雇用体系のあり方を考える上で、重要な最高裁判決が相次ぎました。大阪医科大、東京メトロ子会社、日本郵便で、退職金、賞与、各種手当や休暇制度をテーマとする内容です。昨今の同一労働・同一賃金の動きを踏まえた雇用契約を整備する上で、これらは今後長期的に、重要な判例実績となっていくでしょう。
各判決内容の要点を、簡単に振り返ってみます(参照:日経新聞記事)。

1.東京メトロ系の元契約社員 売店関連業務
内容:10年前後勤続でも、退職金不支給とする待遇は、不合理とまでは評価できない。
理由:退職金には、正社員としての職務を遂行できる人材の確保や定着を図る目的がある。トラブル処理など、契約社員と正社員は業務内容が違う。
非正規にはない正規従業員特有の業務:売上向上の指導、トラブル処理、エリアマネージャー業務

2.大阪医科大の元アルバイト職員(秘書関連業務)
内容:賞与不支給とする制度は、不合理とまでは評価できない。
理由:賞与には、正社員としての職務を遂行できる人材の確保や定着を図る目的がある。試薬の管理など、アルバイトと業務内容が違う。
非正規にはない正規従業員特有の業務:英文学術誌の編集業務、病理解剖の遺族対応、試薬の管理

3.日本郵便の契約社員(集配関連業務)
内容:各種手当・休暇制度を対象外とする待遇格差は、不合理。
理由:年末年始勤務手当の「最繁忙期の休日に働く対価」という趣旨は契約社員にも当てはまる。扶養手当は、継続勤務が見込まれるなら、契約社員も支給対象になる。

一見すると、1.2.と3.は真逆の判決のように感じられますが、そうではなく、方向性は一致していると言えるでしょう。方向性とは、「『○○手当』はOK/NGという一律の捉え方ではなく、該当企業の実態に合わせて個別に評価される」「雇用形態によって待遇差がある場合は、その根拠に明確さ・妥当さが認められるかが焦点となる」「(労働の種類・量が同一なら賃金は同一にすべきという)同一労働同一賃金の概念が再確認された」ということです。

1.2.については、根拠として制度の目的・正規非正規間の業務内容の違いについて、明確で妥当である(よって待遇格差は妥当)と評価しています。3.については、根拠が待遇格差を認めるほど明確さ・妥当さが認められないと評価しています。この流れは、今後の判決でも影響を与えていくでしょう。

私も様々な企業に出入りする中で、正規雇用・非正規雇用の従業員の方とお話する機会があります。中には、「私たちパートも頑張っているのだから、退職金ぐらいくれるべきだ」といった、一律のモノの見方による意見や、感情論を聞く機会もあります。しかし、上記判決ではそうした全体論、感情論は今後通用せず、個別論で評価されるべきという考え方が明確になったと言えるでしょう。各種制度の本質から判断して払うのが妥当であれば払う、ということです。

各種制度の本質について、いくつか取り上げて考察してみます(以下も一律ではなく、企業によっては「賞与」という呼称ながら別の目的で払っているかもしれません。あくまで、一般的な傾向です。)。

・月例給:将来の成果創出・貢献期待に対する、雇用者による投資
・賞与:過去の成果創出・貢献実績に対する、雇用者からの分配
・通勤手当:業務命令により事業所へ往復させるために必要な実費の精算
・扶養手当:扶養者を養う従業員に対する、雇用者からの支援(好意)

月例給は、「当該従業員が、今年より来年の方が会社・顧客により大きな成果創出をもたらしてくれるだろう」と期待できる時に昇給させるのが妥当です。具体的には、担当業務の量が増えるか難易度が上がる、発揮してくれる職能が高くなる等です。今年も来年もまったく同一の作業を同一の量だけこなす非正規従業員がいたとすれば、時給を上げる理由は特にないということになります。この場合でもインフレが起これば相応の昇給が妥当になりますが、日本はデフレ下のため当てはまりません。

これは、正規社員でも同様です。今後「同一労働・同一賃金」の考え方・制度を徹底していく方針の会社であれば、担当業務が変わらない限り正規社員も昇給は不要という考え方になります。「サラリーマンは、会社の給料って毎年上がるのが当然でしょ」という感覚論を語る人も時々いますが、根拠がない限り上げる必要がありません。

賞与は、会社業績を生み出す上で基幹となる業務を担い、その生み出した大きさにより業績のパイを配分されるものと捉えることができます。上記判決もこの考え方に沿っていて、同大学の非正規従業員は基幹となる業務を担っていないという評価なのでしょう。また、正規従業員であっても、組織の業績が出なければ賞与は分配されないのが本質です。特に日本では、賞与が赤字決算でも支給される生活費の一部という考え方も見られますが、赤字決算なら賞与ゼロが本来でしょう。

手当に関して、例えば住宅手当については、正社員にのみ支給している企業も多いでしょう。住宅手当が上記扶養手当のような趣旨であれば、今後は非正規含めたすべての従業員に支払う必要が出てくる可能性があります。非正規従業員だけ対象外にする理由がないからです。そうではなく、仮に上記判決の「正社員の人材確保・定着の目的」などのように、正社員にしか当てはまらない蓋然性のある理由を明確にできれば、正規社員のみ対象とするのが妥当になるかもしれません。

いずれにしても、「合理性」と「納得感」が、今後の各種処遇制度においてのキーワードになると考えられます。

それでは、上記判決内容の考え方も踏まえて、今後各企業を取り巻く環境にどんな変化が起こっていくのでしょうか。このことについては、次回以降のコラムで考えてみたいと思います。

<まとめ>
雇用の処遇は、同一労働・同一賃金の考え方のもと、「合理性」と「納得感」が求められる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?