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融資の取り下げ

コロナ禍で各企業にて資金繰りが大きな課題になったのは、周知のとおりです。私が普段関わりのある経営者様からも、融資や保険などのお話・ご相談を聞く機会がいろいろありました。6月11日の日経新聞では、「休業解除で融資も第2段階」と題して、新たな動きもあることを紹介していました(一部抜粋)。

「東京都が新型コロナウイルス対応に伴う休業や短縮営業の要請の緩和を進めていることで、企業の資金繰りにも変化が起きている。1日からは緩和工程の第2段階にあたる「ステップ2」に移行し、幅広い業種で休業が解除された。大企業を中心に目先の資金繰り懸念が後退する一方、中小企業が厳しくなるのはこれからとの見方もある。

「先日、お願いした融資はいったん取り下げさせてください」――。全国で緊急事態宣言が解除された5月下旬以降、銀行への融資要請を取り下げたり、減額を申し出たりする企業がでてきた。休業要請が解けて店舗の営業を再開した結果、日々の資金が回り始めたことが背景にある。

特に外食や小売りなど「日銭」商売の業種にとって休業要請解除の効果はてきめんだ。ある銀行首脳は「『もう要らない』という企業に借りててもらった方が貸し倒れリスクは小さいんだけどね」と本音を漏らす。」

金融機関に申し込んだ融資を取り下げる動きがあるという内容です。経済活動の再開で必要額が減ることは歓迎すべきことで、景気の底打ちを示すシグナルともいえるかもしれません。しかし、この動きはふたつの点で危険なことだと考えます。

ひとつは、この先資金ショートに陥る可能性があることです。
今後の事業戦略、それに伴う売上高の推移、経費の推移、それらに基づく預貯金の保有残高の推移・手元流動性の推移の予測を十分に立てているでしょうか。また、自社はよくても取引先がどうなのかは別問題です。売掛金が回収不能となるリスクは見込んでいるのか。これらの予測を立てたとしても当面、平時を上回る保有残高・手元流動性は新しい(新常態の)基準で確保すべきですが、それができた上での、融資取り下げでしょうか。おそらく、多くの会社がそれらをやっておらず、なんとなく売りが立ちそうなイメージができたことによる、単なる「やれやれの融資取り下げ」ではないかと想像します。

第2波の可能性も叫ばれている中、いつ経済活動の見通しがまた悪化するかわかりません。また、会計上の利益が出ることと、日々の資金繰りが正常に機能することも、別問題です。現在の金利はほぼゼロの状態で、財務を圧迫するレベルになく、保険代わりと考えれば安いものです。今の状況下でこの金利コストも削ろうとする感覚は、経営の感覚として妥当とは思えません。大手上場企業でも融資依頼に動く会社もある状況下で、特に中小零細企業は借りられるものは借りておく、のが当面の基本対応だと言えます。

もうひとつは、金融機関との信用の問題です。
「貸してくれ」と必死に頼まれて、なんとか貸付できないか動いていた矢先に、後になって「やっぱりいらないわ」と180度違うことを言われたら、その金融機関の担当や支店長はどう感じるでしょうか。別の会社が、余裕を持たせるためにも予定通り融資を受け、返済計画や返済条件について真剣に相談しそれを確実に実行して、少しずつ返していった。今度何かあった時に、前者と後者でどちらの融資案件を優先して動くか、明らかでしょう。

確かに、契約がまだ締結されてなければ、融資を受ける義務はありません。しかし、取引は、やはり人と人が行うものです。相互の立場を想定して、持ち掛けたことを相互が実行に移して、信用が積みあがっていくものだと思います。取り下げに動いた会社が、そうした面も十分考慮に置いた上での動きであれば、よいのですが。

<まとめ>
手元資金は引き続き厚めに持つべき

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