見出し画像

強みを発見する

先日、ある企業様の経営幹部と話をしている中で、「自社の強みは何なのだろうか」というつぶやきをお聞きしました。社歴の長い経営幹部でも自社の強みを明言できない、、それぐらい、強みを発見・定義するのが簡単ではないのも確かだと思います。

強みが発見しにくい理由として、ここでは大きく2つ取り上げてみたいと思います。個人の視点で考えてみて、その視点を組織に応用してみます。

1.強みは比較優位で決まること
強みは、「絶対優位」ではなく「比較優位」で決まります。
下記の例で考えてみましょう(安易に点数化などできませんが、イメージです)。

Aさん:正確・迅速な事務処理力2点、自由な発想によるアイデア発案力6点
Bさん:正確・迅速な事務処理力1点、自由な発想によるアイデア発案力2点

この場合、両者の関係性の中では、いずれの能力もAさんのほうが高く、いずれもAさんが絶対優位をもっています。しかし、比較優位の観点では、事務処理力はBさん、アイデア発案力はAさんになります。Aさんは、自分の時間を事務処理に使うよりアイデア発案に使う方が、周囲に3倍の貢献ができます。

これに対し、Bさんも事務処理よりアイデア発案の方を得意としますが、アイデア発案で貢献できる度合いは事務処理での貢献の2倍にとどまります。アイデア発案に特化することで、Aさんほどは周囲への貢献は大きくないと言えます。

この両者間での最も生産性の高い時間の使い方は、Aさんがアイデア発案活動に特化し、Bさんが事務処理活動に特化することです。そして、お互いの成果物を融通しあえば、得られる果実は最大化されます。仮に上記が1時間で出せるアウトプットの点数化だとすると、この方法でAさんBさんの合計はアイデア発案6点+事務処理1点=合計7点となります。

これが逆だと、最も非効率な取り合わせということになります。アイデア発案2点+事務処理2点=合計4点となります。よって、BさんはAさんに対し、事務処理において能力の高さ自体(絶対基準)では劣っているものの、比較優位をもっている状態と言えます。

また、比較優位には、上記のように「他人と比べてどうなのか」という視点に加えて、「自分の中で比べてどうなのか」という視点もあります。Bさん内部で上記2つの要素を比べると、Bさんもアイデア発案の方が比較優位があると言えます。

もしAさんとBさんで2人だけの組織とすると、両者間の比較優位の考え方に徹すれば、Bさんは(自分の中では得意でない)事務処理に特化することが最も組織貢献できるということになります。もちろん、これが唯一の解ではありません。Bさんの人材育成や将来性も考えてAさん・Bさんが等分にどちらも担当する、あるいは事務処理が強い別のCさんを呼んできてBさんにもアイデア発案(Bさん内部でより比較優位のある)で貢献してもらう、などの方向性もありでしょう。いずれにしても、比較優位の観点で強みが何なのかが把握できていると、そうした考察がしやすくなると言えるでしょう。

私たちは、とかく絶対優位で物事を見がちです。
例えば、他人と比べると自分よりもその領域で秀逸な人の存在がどうしても意識されます。著書をいくつも出している、テレビをはじめとするメディアでも取り上げられている、その道の専門家であると言われている、たくさんのフォロワーがついている、など。その人と比べると、自分などその領域ではまだまだなどと、どうしても思ってしまいます。

しかし、相対的な比較は、特定の人とのみ比べるのではなく、あらゆる人を含めた「全体観」と比べる視点も大事でしょう。ある分野の秀逸な専門家がいるとして、その専門家がすべての人々の問題やニーズに個別対応できるわけではありません。同じ分野で志を同じくするたくさんの追随者がいないと、その領域のニーズを満たしていくことができないのです。よって、二番煎じなのか十番煎じなのかともかく、世の中の人々の全体観と比べると強みを持っているのであれば、それは自分の強みだと認識してもよいでしょう。

そして、自身内部の別の能力や資質と比べた上での強み認識です。「別のテーマで活動するより、このテーマで活動するのを軸にした方が、できることも多そうだし張り切れる」と思えば、そのテーマが比較優位上の強みを持っているということです。

この視点は、組織全体でも応用して考えることができます。特に、中小企業が大企業を相手にする上で有益です。大量生産・同品質・同価格で勝負すると、中小企業は一般的に業界他社の大企業には勝てません。例えば「少量の注文でも即座に対応する迅速さ」「面倒なことも引き受ける小回り」「この技術だけはこだわっているという尖り」など、何らかの強みに特化することで道が開けてきます。

その際も、比較優位の観点が役に立ちます。自社がある要素を売りにしているとして、大手がその気になれば自社よりもうまくできる能力・資源(絶対優位)があったとしても、自社より比較優位の面で劣れば(貴重な資源を割いてそこまで手を回せない、やりたくないなど)その要素を追求してくることもないでしょう。自社が比較優位ありと認識した要素に徹底的に取り組むことで、その要素を強く求めたいユーザーに対しては、ニーズを満たしていくことが可能になるはずです。

2.強みは本人にとって意識しないでできること
強みになりえる要素として、目に見えて具体的に確認しやすい「技能」もあれば、直接は確認しづらい「思考」や「行動特性」もあります。私たちは往々にして、頑張って手に入れた技能に価値を見出しやすいものです。頑張って勉強し、経験を積んだことが形となった「国家資格○○」などが、その典型でしょう。

それももちろん強みになるのですが、本人は頑張ったつもりはなく自然に体得した「思考」や「行動特性」も強みになります。あの人は場をうまくまとめることができる、知らない相手に対しても飛び込んでいける、整理整頓が得意、などもすべて強みになりえます。しかし、本人にとっては至って当たり前のことであるために、強みとして認識していないことが多いものです。

私のコラムでも時々取り上げている「ストレングス・ファインダー」というものがあります。34の資質を手掛かりに個人の強み・弱みを発見し、能力開発やチームビルディングに活かしていくものです。

例えば、34の資質の中に、「未来志向」というものがあります。「未来志向」の資質をうまく使う人は、未来を起点に考え、ビジョンを描いて「こうしたい」という思いを言語化することに長けています。私の知人に「未来志向」を上位資質として認識し活用している人物がいます。同知人は、自身の強みの一端について「あるべき理想像を設定する。未来のことを考え予測する。」と定義しているそうです。(同時に、盲点についても「妄想的になりやすい。一人で勝手に危機感を募らせやすい。」としているそうです)

同知人が言うには、様々な物事について「未来が見える」のだそうです(いつも当たるかどうかは別として)。映画も、見始めたと同時にエンディングを想像するそうです。

これに対して、「原点思考」の資質は、過去が起点にあります。過去について考えるのが好きで、歴史をたどることにより現在を理解し、やるべきことを見出す資質です。未来志向とは対極的と言えるかもしれません。これらの資質・資質に基づく行動も、本人にとっては当たり前であるがために、なかなか意識されないわけです。

自分にとっては当たり前にできることだが、他人にとっては当たり前ではない、その要素を把握しそれを発揮することに集中できれば、周囲に貢献できることがより大きくなるでしょう。そして、そうすることで最もエネルギーを出しやすくなるとも言えるでしょう。

この考え方は、組織にも通じます。目に見えて具体的に確認しやすい「○○特許」「○○技術」などに加え、直接は確認しづらいことも強みになりえます。自社が普段何気なく取り組めていること、対応できていること、仕組み化できていること、文化として根付いていること・・などです。もちろん、最終的にはお客様に届く具体的な商品・サービスとして具現化しない限り、強みとしては完成しませんが、それを生み出す源泉に社内の人が気づいていないことが多いものです。

・強みは比較優位で決まる
・強みを本人は意識していない

環境がさらに変わっていく今後に向けて、この2つも念頭に自身や自社の強み要素を再発見・再定義してみるのもよいと思います。

<まとめ>
強みを比較優位の観点から考えてみる。
強みは、本人にとって意識しないでできることにある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?