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ジョブ型雇用を本格展開する企業もあるが・・

1月10日の日経新聞で、「日立製作所、全社員ジョブ型に」というタイトルの記事が掲載されました。
同記事の一部を抜粋してみます。

~~日立製作所は7月にも、事前に職務の内容を明確にし、それに沿う人材を起用する「ジョブ型雇用」を本体の全社員に広げる。管理職だけでなく一般社員も加え、新たに国内2万人が対象となる。必要とするスキルは社外にも公開し、デジタル技術など専門性の高い人材を広く募る。年功色の強い従来制度を脱し、変化への適応力を高める動きが日本の大手企業でも加速する。

ジョブ型は欧米では一般的な働き方で、職務記述書(ジョブディスクリプション)で職務ごとに必要なスキルを明記する。賃金も基本的には職務に応じて決まり、需要が大きく高度な職務ほど高くなる。

日本では職務を限定しない「メンバーシップ型雇用」が多い。幅広い仕事を経験する総合職型で、終身雇用と一体で運用されてきた。

ジョブ型を巡ってはKDDIは2021年の管理職に続き、22年4月に一般社員に拡大する。三菱ケミカルは21年4月に全社員に導入した。ただ三菱ケミカルやKDDIは職務記述書を社外に公開していない。日立が公開するのは、必要な人材を社外から機動的に募るためだ。年功制や順送り人事の壁を取り払い、管理職の約1万人とあわせ本体3万人が全面的にジョブ型にカジをきる。

一般社員では約450の職種で標準となる職務記述書を作成した。経営戦略に基づき、システムエンジニアや設計など職種や等級などに応じ、個々のスキル内容や職務を明示する。新卒者や転職希望者はホームページで日立が求める人材を理解できる。~~

日経新聞電子版では、同記事に対する識者のコメントも掲載されていました。その中から、2つほどフォーカスしてみたいと思います(一部抜粋)。

・「メンバーシップ型」の対概念が「ジョブ型」というけれども、そうでないと思う。仕事の組織である以上、「ジョブ」型であるのは当たり前で、理屈からすればこれ以外の「型」はありえない。ジョブ型はメンバーシップとトレードオフでない。ジョブ型の中でも結果的にメンバーシップは生まれる。日本に「伝統的」な雇用形態ですらない。明治大正期の日本の企業は(当時のアメリカと比べてもより)ジョブ型だった。(一橋大学 教授 楠木建氏)

・「ジョブ型」の重要なポイントは、ジョブディスクリプションが明確である、というのももちろんありますが、仕事に人をつける、つまりその仕事がなくなれば解雇になるという、解雇の条件が明確という方がキーであるように思います。(日本若者協議会 代表理事 室橋祐貴氏)

たしかに、「ジョブ」「メンバーシップ」の両者を並べたときに1つの軸を網羅的に表すには至らず、「ジョブ」の対となる概念を「メンバーシップ」と言うのは不適切に感じます。例えば「リーダーシップ」と「メンバーシップ」を対にして何かの論点とするなら、軸として成り立ちますが。特定分野や職務範囲の「ジョブ」に特化した社員であっても、「メンバーシップ」を持ってもらわないと、組織としては困ります。

普段私もいろいろな企業で経営方針や人事制度の再検討に関わる機会があります。その際にも、「ジョブ型の推進=組織風土の弱体化の呼び水となるのが懸念」のような話が出ることがあります。しかし、ジョブ型といえども強い求心力を伴う組織風土の欧米企業があることは知られています。「ジョブ型」を誤った形で導入すると組織風土の弱体化につながるかもしれませんが、それらがイコールではないことを認識すべきだと思います。

また、ジョブ型議論で見本とされやすい欧米企業は、上記指摘の通りそのジョブがなくなれば解雇(雇用契約解除)となることが一般的です。日本企業の場合は、解雇権の厳しい制約のもとで正社員を雇用している場合がほとんどです。この雇用慣行を維持したままサンプルとした欧米企業のやり方をそのまま導入しても、うまくいかないことのほうが多いでしょう。解雇権などの前提が異なるからです。

同記事等も参照すると、日立製作所は下記の点が指摘できます。同社に関連するこれらの諸要素を勘案しながら、事例として考察する視点が必要だと思います。「日立が取り入れているならうちも」などと結論付けたり、自社としての十分な考察がないまま断片的に導入したりするなどだと、失敗のもとになります。

・以前からHRテックを含めた人材マネジメントの先進的な取り組みがなされ、話題になっているぐらい
・2011年からジョブ型導入の準備を進め、2021年度には国内管理職に導入済みである
・新卒採用でも2021年度にジョブ型のインターンシップを始めている
・連結のうち海外の従業員の大半は既にジョブ型で、そのノウハウも使える
・社内外からの最適な人材調達・活用という人材戦略に適う目的で、ジョブディスクリプションを社外にも開示する

人事戦略は各社各様あってよくて、「ジョブ型」が唯一の解ではありません。また、私たちがイメージする「ジョブ型」も、本来追求していきたい本質からずれている可能性があります。同記事からは、そんな示唆がくみ取れると思います。

<まとめ>
「ジョブ」の対が「メンバーシップ」ではない。

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