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地域の魅力の定義と発信

9月11日の日経新聞の「春秋」で、日本行きを回避しようとする動きがあることについて書かれていました。
同記事の一部を抜粋してみます。

オーストラリアからインドへの旅行者が急増中――。先日開かれたインバウンド関連のフォーラムで、日本政府観光局(JNTO)のシドニー事務所長がそう報告していた。ABS(豪政府統計局)によれば、今年5月の実績はコロナ前の2019年比で4割も増えた。

「異文化体験を求める観光客が、ビザ取得にかかる時間などを理由に日本行きを諦めた」と分析する。別のフォーラム出席者によれば国際会議の開催でも日本を避ける空気が広がっているという。ビジネス人や研究者など多忙な参加者が多く予定変更を嫌う。感染状況次第で開催不可となっては困るとの声が大きいそうだ。

日本は世界の人から愛されている。そんな報道や情報が日本人は好きだ。観光地としての競争力で日本は世界1位。訪日外国人に聞く「次に旅したい国」の1位は日本。そうした内外の調査が発表され、テレビには「憧れの日本」を旅する旅行者が登場する。素直にうれしい一方で自信過剰や慢心を生まないか心配になる。

「行きたい国より行ける国」が、今の旅行市場のキーワードだ。東南アジアが旅行者の誘致に力を入れる。石油にかわる産業を育てたい中東も加わり、欧米豪からエキゾチシズムを楽しみたい客を呼びよせる。円安による値下げ効果を生かさず「ほぼ鎖国」を続ける日本は、こうした国々に売り込みの好機を提供している。

対照的な内容に感じたのは、9月10日の記事「外国人、神奈川・三浦に注目 海外検索増加、訪日需要占う」でした。(一部抜粋)

米トリップアドバイザー(世界で月間4億6000万人が利用する旅行サイト)の海外利用者の匿名データから、22年内の訪日旅行先の検索数(検索期間は7月1~31日)を抽出した。検索元は米国、オーストラリア、シンガポール、カナダ、台湾、韓国、英国、中国、タイ、ドイツの順で多かった。

都市別(市区町村と東京都中央区銀座などの一部街区)でみると、19年同期比21倍となった神奈川県三浦市を筆頭に、茨城県土浦市、愛媛県新居浜市、京都市北区、神奈川県伊勢原市、徳島県海陽町、北海道新得町の7市町で検索数がコロナ前水準を超えた。北海道七飯町も横ばいまで回復した。143都市は減少率を全国平均より低く抑えた。

三浦市はマリンリゾートのイメージ醸成を狙い、欧州を中心に転戦するウインドサーフィンワールドカップ(W杯)の誘致や、大型クルーザーが停泊できるハーバーの整備計画を進めた。

吉田英男市長が音頭をとり21年5月には「人よし食よし気分よし」をスローガンとした観光振興ビジョンを策定した。コロナ終息を見据えてシティーセールスも強化し、海外の富裕層らを狙ったリゾート施設の開発計画も進む。三浦半島を横浜・鎌倉・箱根に次ぐ世界的な観光地に育てるため、県とも連携してPRを続ける。

土浦市は霞ケ浦湖岸の自転車道「つくば霞ケ浦りんりんロード」を軸として台湾に照準を定め、検索数を4倍に伸ばした。台湾は自転車大国と呼ばれ、愛好家が多い。茨城空港との間に直行便(現在は運休中)も就航しており、往来が活発になれば、集客のチャンスが増す。

りんりんロードを知ってもらおうと、茨城県は2月にサイクリングを通じて台湾人と日本人の交流を描く全編中国語のショートムービーを制作した。ストーリーを重視し、食や風光明媚(めいび)な景色など沿道の魅力を動画に入れ込んだ。

新居浜市も検索頻度が2.8倍となった。起爆剤の一つになったのは別子銅山跡にある索道や貯鉱庫など、一連の産業遺産を「東洋のマチュピチュ」と銘打ったことだ。6月からは海外旅行業者向けのPRを強化した。

訪日外国人旅行者は19年、過去最高の3188万人を記録した後、21年に25万人まで激減した。全国の検索数も19年同期に比べ93%少ないままだが、一方でグーグルでの検索頻度を調べる「グーグルトレンド」で「日本旅行」の検索数を分析すると、水際対策の段階的緩和を受け、7月は4月比でほぼ倍の水準まで回復した。訪日への関心は確実に高まってきている。

冒頭の記事からは、国別で観光業のポテンシャルが高いと言われる日本ではあるものの、それにあぐらをかいていてはいけないということ。2つ目の記事からは、選ばれるところはそれなりの取り組みをしているということが、改めて感じられます。

「関心」は、何もしなくても向こうから近づいてきてくれるわけではなく、魅力を知っていただくことで初めて近づいてきてくれる、ということです。そして、このことは観光に限らず、すべての商品・サービスに共通するのだと思います。

私は、都内で比較的茨城県にアクセスがよいエリアに先日まで住んでいました。土浦市が主催する移住体験イベントのチラシが、過去数か月おきに2回ほどポスティングされていたのを覚えています。土浦市がこのエリアまでポスティングするのかと、導線を想定しての広告が印象的でした。打ち出し方も魅力的で、上記にも紹介のあるサイクリングを絡めた行程で、星野リゾート BEB5土浦に2泊し参加費用10,000円といった内容だったと記憶しています。

イベント日に仕事の予定が入っていなければ参加しようと思ったものの、オンラインでは対応できない対面の仕事の予定があり参加できませんでした。積極的に市の魅力発信に動いているのかなという印象を持っていたのですが、上記で検索数の増加率2位になっているのを見て、そのこともうなずけました。

上記で取り上げられている事例は、湖や銅山跡など売りとなる観光資源が比較的豊かな市町村のように見えますが、そもそもそうした観光資源が見当たらない市町村でも、何かしら打開策があるのではないかと思います。

ちなみに、私の出身県の山口県で、馴染みのある平生町という小さな町があります。これといって注目されていた観光名所はなかったのですが、しばらく前から「イタリアーノひらお」と題してイタリアをテーマとしたまちづくりを推進し始めたと聞き、ちょっとした驚きでした。なぜイタリアをテーマとしたのか調べてみたら、町の地形がなんとなくイタリアに似ているからというのが理由のようです(得られる情報の範囲内の、私の理解では)。

こじつけに近いかもしれませんし、これが成果を上げているのかどうかはわかりませんが、きっかけとしてはよいのではないかと思います。何らかのきっかけがあれば、地域の魅力として打ち出せるものがないかの探索と発信の取り組みにつながります。特に失うものがないなら、アイデアベースの企画をチャレンジしてみるのも有効だろうと思います。

前回の投稿では、オープンイノベーションをテーマにしました。市町村外の協力者や専門家などと連携し、移住や観光客の誘致で成果を上げている市町村も全国各地で散見されます。地域外の人材のほうが、地域の人には当たり前になってしまって気づかない良さに気が付くこともあるためです。

オープンイノベーションで地域の魅力を再定義し発信する視点は、今後ますます有効になるのではないかと思います。

<まとめ>
注目を集める市町村(組織)は、やはり強みの定義・発信の取り組みを組織的に行っている。


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