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「過去最高」を考える

先日、ある経営者様とお話する機会がありました。米国での経験も長く、国際感覚が豊かな方です。「日経平均株価がバブル期の高値を更新して最高値になったと喜んでいる。しかし、それを喜ぶこと自体が大問題」と改めて問題提起されていました。

同経営者様の発言は、世界経済と比較してのことです。「そもそも株は高値を更新し続けるのが普通。国内総生産(GDP)も同様。1990年から30年あまりで、世界の株価がどれだけ伸びたか。その当然のことも認識せず、日経平均過去最高値更新を喜んだり、逆にバブルではないかと言って急落を懸念したりしている経営者も、意外と多い」と言います。

その通りで、(個別の株価は倒産などもあり、一概に言えませんが)インデックス株価は更新し続けるのが通常の状態です。

社会・経済は、基本的に発展し続けます。
人口減少のスピードがより速くなる未来はどうなのかわからないものがあります。そのうえで、少なくとも現時点では、1国単位でも経済の発展によって人口減少以上に経済のパイが大きくなるのが基本でしょう。日本以上に少子化が進んでいて、人口減少トレンドに入っている韓国においても、GDPは伸び続けています。人口減少以上の1人当たりGDPの伸びがあるためです。

株価の本質も同様だと言えます。
以下に、バブル経済下の日経平均株価の高値と、今年更新した過去最高値を比較してみます。また、米国・中国の株価指数も比較してみます。ただし、中国は代表的指数の上海総合株価指数(SSEC)ができたのが1990年12月であり、1991年も初期の変動要因が大きかったかもしれないことを踏まえて、1992年で比較してみます。

日経平均株価
1989年12月29日:38,915.87円
2024年 7月11日:42,426.77円

米国:ダウ・ジョーンズ工業株平均
1989年12月29日:2,753.20ドル
2024年 7月11日:39,753.75ドル

米国:S&P 500指数:
1989年12月29日:353.40
2024年 7月11日:5584.54

上海総合株価指数(SSEC)
1992年1月2日:386.85
2024年 7月11日:2,970.4

ダウは14.4倍、S&P500は15.8倍、SSECは7.7倍と伸びているのに対して、日経平均株価はわずか1.1倍です。過去最高値を屈託なく喜ぶわけにはいかないというのが、改めて認識できるのではないかと思います。

別の例で考えてみます。
例えば先日、「昨年(2023年)に外国人技能実習生の失踪者数が、2022年比で747人増えて過去最多となった」というニュースを耳にしました。これだけ聞くと、外国人人材の受け入れの問題が大きくなっている、今後がますます懸念されるかのように感じてしまいます。ニュースのトーンも、そのように聞こえました。

しかしながら、外国人技能実習生の総数と比較すると、次のようになります。失踪者数が2023年の次に多かったのは2018年です。左が外国人技能実習生の総数、右がそのうちの失踪者数、そして失踪率です。(法務省入国管理局、厚労省サイトを参照)

2018年 328,360人、9,052人、2.76%
2023年 412,501人、9,753人、2.36%

失踪率としては下がっていて、長期トレンドとしては改善されていると評価できるのかもしれません

失踪の大きな要因として挙げられているのが、技能実習生が「やむを得ない事情」を除き原則転籍不可であることです。職場での暴行等のトラブルから逃れるために失踪に至っている例もあります。

そこで国が、この「やむを得ない」が何を指すかを明確にし、転籍を認めるようにしたということです。暴行・ハラスメント、重大で悪質な法令違反などです。何をもってしてハラスメントとみなすのかなどの課題は残るのかもしれませんが、明示したのは一歩前進と言えると思います。

特定技能や別の制度創設の検討など、この問題の改善を目指した動きも進んでいる面もあります(既存の取り組みで十分かどうかは別として)。これが、「過去最多」だけに反応すると、無策あるいは一方的に事態が悪化しているかのような、ある意味的を外した印象を受けてしまいます

別の例で、過去最高気温の記録更新、猛暑日の日数の記録更新、氷河が溶けるなど、日本を含めた世界中で気候に関する様々な記録が出ています。これはいかがでしょうか。

太陽系の中での地球の位置づけや、地球の大きさなど、地球自体の条件は数十年間で大きくは変わっていないはずです。にもかかわらず、地球上の私たちを取り巻く気候はこの数十年間で大きく変わり、いろいろな過去最高記録を更新しています。これは、上記で挙げた日経平均株価や失踪者数などと違って、「過去最高」に敏感に反応すべき事象だと言えると思います。

適当な例をいくつか挙げてみましたが、何かの記録や数値情報を聞くときは、

・分子と分母の関係(割合)
・時系列の変化
・類似の要素の変化(例えば同業他社との比較など)

なども見て、俯瞰的にとらえることが大切だと思います。

<まとめ>
「過去最高」や「過去最多」の背景を踏まえる。

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