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EC宅配全廃という選択肢(2)

前回は、4月27日付の日経新聞の記事「ワークマン、EC宅配全廃」の内容について取り上げました。自社の強み領域を活かしてお客さまに最大限のメリットをお届けするために、自宅への配送サービスをやめるという判断について考えました。今回もその続きです。

同記事から考えたことの2つ目は、お客さまはすべてのニーズを話してくれるわけではない、ということです。

記事の例も、例えばお客さまアンケートで「店頭受け取り以外に自宅への配送サービスもあったほうがよいですか」などと聞けば、ほとんどすべての人が「あったほうがよい」と答えるはずです。単純に、選択肢が多いほうが便利だからです。「店頭受け取りだけで十分なので、自宅への配送サービスはなしでよい」とはわざわざ答えてはくれないでしょう。しかし、実際には自宅への配送サービスを重宝しているお客さまは少数ということが、記事では紹介されていました。

自分にとって何が一番いいのか・どんなことを求めているのかを、お客さま自身も認識していない可能性があるということです。ましてや、スマホをまだ見たこともなかった私たちが、「画面上のすべての操作を指で自由にできたらよい」など思いつくことはできません。これまでにないような商品を開発して提供するイノベーションとも言える部類になると、「こんなものがほしい」とお客さまが説明することはできないわけです。

お客さまが直接言語化するご要望も聞きながら、他方では同社のように、

・現場の動きを観察し、得られる範囲のデータも活用しながら、

・お客さまがどんなことを求めているのかを察知し、

・何をやり何をやらないか(やめるか)を売り手のほうで仮説立て意思決定するべき

だということを改めて認識します。

3つ目は、バランスの大切さです。

同記事では次のような説明もありました。

~~ワークマンでは全店舗の9割以上をフランチャイズチェーン(FC)が占め、その経営が安定することが成長に欠かせない。宅配はワークマン本社の売り上げになるが、店頭受け取りはFCの売り上げになる。店まで足を運んでもらえばついで買いも期待できる。「ECはFC店の利益を最大化する販促的な意味合いが強い」~~

組織として社会的に存在し続けるためには、買い手側のお客さまはもちろん、売り手の側も共存できることが必要です。自社だけではなく、自社と一緒に事業に取り組む協力者もともに利益を享受し続けられる必要があるということです。

先般、コンビニ業界でもFC側が待遇改善を求めて話題になりました。どこかにひずみがあると長期的には持たない、利益が関わる人すべてにバランスされるようにすべきだということを、この事例は感じさせます。

普段いろいろな企業様を見聞きする中で、過度な下請け叩きまがいの話を聞くこともありますが、それなどはバランスの観点からやはり相応しくないと言えます。自社や自身が取り組むことにひずみはないか。振り返ってみたいところです。

このことは、宅配というテーマについても同様です。運び手が足りない「宅配危機」が叫ばれ始めて久しく、「すべてのものを瞬時にどこへでも届ける」社会の追求が無理のあることだというのを私たちは聞いています。メルカリが数日遅い配達を選べば送料が安くなる「ゆっくり宅配」を検討するといった動きも出ています。行き過ぎは長期的に揺り戻しがある、と考えるべきなのでしょう。

「行き過ぎに対する揺り戻しのバランス」、つまりは「偏ることなく、過不足がなく、調和がとれていること」は、「中庸」とも呼ばれて、その大切さが古くから伝えられてきたことです。同記事からは「中庸」の精神も見て取ることができるのではないかと感じます。

同事例は、充実した店舗網のチェーンを持つ同社ならではのやり方であって、他社でも同じことができるというものではありませんが、その考え方は参考になると思います。

<まとめ>

お客さまの声は大切にする。ただし、お客さまの声だけに頼らない。

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