見出し画像

『映像研には手を出すな!』で考えたこと_001

 アニメ版『映像研には手を出すな!』を見て原作を読み、実写版に違和感を覚えた私は、その違和感を備忘録として残すこととした。ここでは、どこかで誰かがすでに述べていることかもしれないが、原作、アニメ版、実写版の人物描写や台詞、演出、構成などで、私が気になったことを備忘録の助けとして見直していく。【ネタバレ】全開ですが、お付き合い頂ければ幸いです。

映像研表紙

用語のおさらい

 まずは、用語の事前説明をしよう。《生活》《妄想》《作品》だが、これらはこの作品で描かれる世界を示している。《生活》は、彼女達の普段の高校《生活》のことだ。《妄想》は、彼女たちの妄想で描かれる「最強の世界」のことである。《作品》は彼女たちが作り出す「最強の世界」、アニメーション作品そのものだ。
 次に、アニメーションの違いとして、セルアニメの流れを汲むアニメーションは〈*アニメ〉、ストップモーション・アニメーション、3DCGI、VFXは〈@アニメ〉とする。では、話を進めよう。

第一話より スケッチブック

 世の中にはスケッチブックと呼ばれる製品が数多く売られている。実写版では、浅草氏も水崎氏も同じマルマンのクロッキーブック(CROQUIS)だったが、アニメ版浅草氏はSKETCH BOOK(マルマンクロッキーブック風)で、水崎氏はハードカバー(くるみ表紙風)のスケッチブックであった。スケッチブックの表紙が違えば価格も異なる。当然、ハードカバーの方が高価だ。わずかな差額とはいえ、高校生が自身で購入するには、お小遣い事情が影響してくる。

スケッチブック実写

 アニメ版水崎氏は、下町のアパートが人間の住居であることを知らなかったり、コインランドリーで現金口にクレジットカードを差し込もうとしたりと、ある意味浮世離れしている。これらの描写だけで十分、水崎氏がお嬢様であることが伺える。だが、水崎氏と浅草氏との生活環境(金銭感覚)が明らかに違うことを教えてくれるのは、スケッチブックという些細なプロップである。ハードカバーのスケッチブックが財閥令嬢水崎氏のリアリティを支えるのだ。

スケッチブックアニメ

 実写版では同じスケッチブックを使っていた。もちろん、財閥令嬢であろうと庶民であろうと、クロッキー帳が同じであることに不自然さはない。ただ、彼女が財閥令嬢であるという明確な描写はなかった。コインランドリーのシーンでは、彼女の制服はすでに乾燥機で回っていたし、唯一、浮世離れしている描写といえば、使用人に追いかけ回されていたことだけだ。浅草氏らと水崎氏の生活環境の違いを知る手立ては台詞だけだ。立ち居振る舞いがお嬢様感を誇張しているわけでもないので、台詞だけでは、財閥令嬢アピールの印象は薄かろう。

 原作では、浅草氏がクロッキー帳を使っていることはわかる。だが、水崎氏が何を使っていたかは不明である。原作通り描くと、アニメ版も実写版も水崎氏のスケッチブックを見せる必要はない。だが、原作に描かれていないということは、アニメ版も実写版も新たな演出が可能だということである。

 たかがスケッチブック、されどスケッチブック。誰も気にもしないかもしれないけれど、アニメ版のプロップに対する細やかな描写は、財閥令嬢水崎ツバメがその世界で生きているという信憑性を私に与えてくれている。


実写版『映像研には手を出すな!』公式サイトはこちら
アニメ版『映像研には手を出すな!』公式サイトはこちら
漫画『映像研には手を出すな!』の情報はこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?