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安斎勇樹・塩瀬隆之「問いのデザイン」(2020年)PARTⅠ&Ⅱ

4月から芸大院(京都芸術大学大学院)に通い始め、現在しごとでも関わる社会課題を解決するための考え方をブラッシュアップしています。

大学の先生が実施したゲストスピーカーを招いたセミナーで、登壇されたのが著者のひとり、安斎勇樹氏でした。お話内容も興味深く、セミナーの中でも頻繁に取り上げておられた「問いのデザイン」。

実は安斎さんの御本は、この本が初めてではなく、「リサーチ・ドリブン・イノベーションー 「問い」を起点にアイデアを探究するー」を以前読んでいたものの、あまり頭には入っていませんでした。きっと、当時はまだ読むべきタイミングではなかったんでしょうね。本って読むべきタイミングっっていうのがあると思うんですよ、個々人にとって。私にとっての読むべきタイミングっていうのが、今なのかもしれません。

「問いのデザイン」はPART1~4で構成されており、ⅠとⅡは、「問いのデザインの全体像」と「課題のデザイン」について述べられている部分です。ⅢとⅣは、「プロセスのデザイン」と「事例」です。
今回、私がいま欲しい知識は、課題のデザインの部分、問いのデザインに該当するであろう個所でしたので、前半のみ読むことにしました。

以下、気になった個所と、読後感です。

▮気になった個所

●問う側が常に正解を知らないといけない、というのはある種、大人や学校の先生が持つ強迫観念のようなもので、問う側の理解度は実は、問われる側の思考や感情を刺激するのに必ずしも直結しません。
(p25)
 
●対話の参加者の思考と感情が揺さぶられながら、対話に参加する以前には保持していなかった共通認識が新たに「創発」する対話のことを指し示しています。本書では、このようにコミュニケーションから新たな意味やアイデアが創発する対話のことを、「創造的対話」と呼ぶことにします。
(p33)
 
●社会構成主義では、私たちが「現実だ」と思っていることは、客観的に測定できるものではなく、関係者のコミュニケーションによって意味づけられ、合意されたものだけが現実である、と考えます。
(p36)
 
●対話が深まるプロセスは、「具体的なモノやコト」と「抽象的な意味の解釈」の絶えざる往復によってもたらされます。具体性がないまま抽象的な解釈ばかり話し合っていても、地に足のつかない空中戦となり、何に対してどのような意味づけをしているかが共有されず、お互いの「溝」は埋まりません。
(p37)
 
●商品に込める新たな意味を見いだすためには、作り手同士が、ときに生活者を巻き込みながら、対話を繰り返すしかありません。現代の商品開発現場において、ワークショップが重宝されている理由には、こうした背景もあるのです。
(p38)
 
●本書では、関係者の間で「解決すべきだ」と前向きに合意された問題のことを「課題」と呼ぶことにします。
(p57)
 
●天邪鬼思考は、素朴思考と並んで、課題の定義に向けて問題状況を問い直すための基本的な思考モードです。この二つはバランスがとても重要です。目の前の問題状況を素朴に問うていく素朴思考だけでは、好奇心に従って問題を掘り下げていくことはある程度できても、当事者たちにとっての盲点を突いたり、多角的な視点から吟味を重ねたりすることには向いておらず、“優等生”的な課題設定に陥ってしまうリスクがあるからです。
(p68)
 
●筆者らは、この「本質観取」こそが、哲学的思考の神髄であり、企業、学校、地域における問題の本質を捉え、課題を適切に定義するための思考の要だと考えています。
(p76)
 
●もし問題解決がうまく設定できていなかったことが問題解決を阻む要因の本質だった場合は、ここまでに整理した成果目標やプロセス目標が、そのまま「解くべき課題」として設定できるケースもあるでしょう。しかしそうでない場合は、何らかの理由で目標が容易には実現できないために、現状が「問題」として認識されているわけです。
阻害要因を検討する理由は二つあります。
一つには、理想的な目標と現状との間にあるハードルこそが「解くべき課題」である可能性があるためです。(中略)
阻害要因を丁寧に検討すべきもう一つの理由は、阻害要因を検討しているうちに、目標の一部が修正されたり、より良い目標設定が見つかったりする可能性があるからです。(後略)
(p91-92)
 
●アイデアや発想が求められる問題状況において、目標に名詞型のキーワードがある場合、それを動詞型に言い換えて目標を再定義すると、視点が変わります。単純に名詞を動詞に変換するだけでなく、「哲学的思考」を活用して、動詞のあり方を探るような目標に変換すると、魅力的な目標に転換される場合があります。
(p101)
 
●「良い課題とは何か?」という問い自体、非常に難しい問いで、実際に取り組んでみなければ、定義した課題が本当に良い課題だったかどうかは、本質的に評価することはできません。
(p105)
 
●良い課題の判断基準
①効果性
②社会的意義
③内発的動機
(p105-106)
 
●デューイの理論において特筆すべき点は、人間の行為の源泉を個人の内側から湧き上がる「衝動(impulse)」に置いていたという点です。
(p107)
 

▮読後感

特に参考になったのは、どういった観点から課題に取り組むべきかという点です。素朴思考、天邪鬼思考、哲学的思考などが挙げられています。

この本でも引用されている「意味のイノベーション」でも、批判的思考は重要だということが述べられていますが、本書でも天邪鬼思考というのは重要である一方、素朴に「そもそも・・」という観点からも起点になり得ること。そして哲学的な思考がなにより重要だということが述べられており、おおよそ私がこれまで実施してきたことと同じだったことを確認できました。

解くべき課題はどこにあるのか。目標そのものが課題になり得ることもある一方で、ほとんどのケースでは阻害要因を解消することが課題なり得ること。当たり前といえば当たり前なのですが、そうしたことを再確認できる内容になっているかなと思っています。

自治体や地域の課題に向き合うことが多くなっており、課題の構造化にも取り組むことがあります。そうした取り組みにも有効でしょうし、何を基準に課題を選定すればいいかという点からも、本書では3つのポイントを挙げています。これらも参考になると考えています。

本書の後半部分については、ワークショップを通じて、課題解決のためのデザインをどのように進めるのかに誌面が割かれています。いまの私にはそこを読むことよりも、次の本で、さらに課題のデザイン、問いのデザインの仕方について学ぶ方がいいと考え、次の文献に移りました。とはいえ、ワークショップを通じた課題解決策のデザインについても意義あることが多く書かれているように感じています。折を見てあらためて読みなおしたいと考えています。

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◇プロフィール
藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/SOCIALX.inc 共同創業者
1978年10月生まれ、滋賀県出身の43歳。2003年に若年者就業支援に取り組む会社を設立。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地域課題・社会課題に取り組む。3期目は立候補せず2020年に京都で第二創業。2021年からSOCIALXの事業に共同創業者として参画。現在、社会課題解決のために官民共創の橋渡しをしています。
京都大学公共政策大学院修了(MPP)。京都芸術大学大学院学際デザイン領域に在籍中。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。著書いくつか。
 

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