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瀬戸口航『「越境企業」のはじめ方』(2022年)を読んで。

人の育成や就労問題は、私の興味分野であり専門分野で、ここ数年は「越境学習」「越境経験」に着目しています。京大大学院の時に研究したのもこの分野でした。

本書は、現在メインで携わっている事業にも関連する内容で、かなり面白いものでした。地域課題を解決することと、HR事業とをつなぐヒントが書かれているように思います。

「越境経験」は、越境する本人のキャリアアップや能力開発の効果はもちろん、多くの企業にとっても社員を外の空気に触れさせる機会、社会課題解決に取り組む経験は、自社の成長にとっても大変意義あることだと思います。

石山恒貴氏の「越境学習入門」と合わせて読めば、理解がいっそう深まると思います。


◇気になったところ(付箋を貼った個所)

越境による一番の効果は、自分の前提を見直すことです。いつもと違う場所、違う人たちと違う課題に取り組む中で、それまで自分が当たり前だと思っていた前提や価値観が通じない。そこで恥ずかしさや苦い思いをすることで『混乱するジレンマ』を味わい、社会のためという大義に向き合い内省することで、リフレーミングが起きます。それによって、課題認識の見直しや自分のやりたかったこと、得意なことが再認識できるという効果があります。
※経済産業省『越境学習によるVUCA時代の企業人材育成』

(p82-83)

「今、越境する意義」について、経済産業省による「未来の教室」実証事業で2020年12月に開催されたリカレント教育ワーキンググループオンラインセミナーでのディスカッションで、経済産業省の浅野大介サービス政策課長・教育産業室長が興味深い発言をしています。

リモートワークに移行する中で、自分から求めていく人と取り残される人の二極化が起こっています。その溝が広がらないためにも、全体をボトムアップする仕掛けが必要な時期になっていると感じます。誰もが難とか答えを出さなければいけないという状況に連続して遭遇するこの混乱した状況下は、まさに能力開発の機会です。
石山教授のお話にあった『混乱するジレンマ』は本当に重要だと思います。多様性や曖昧さの中で『混乱するジレンマ』に向き合い、乗り越える機会を組織として認めて推進できなければ、弱い組織になってしまいます。混乱からしかイノベーションは生まれませんから、混乱の中に入っていく越境学習は必要だと思います。

(p98)

2018年、経済産業省が実施する「未来の教室」事業の中で、さまざまな業種・団体から専門家が集い行った実証プロジェクトが立ち上がりました。そこで、越境学習の効果に着目し、「社会課題に取り組む地方の地場企業やNPOの現場に赴き、現実の社会課題解決に取り組むことで人材が育成される」という仮説のもと、「越境学習によるVUCA事業の企業人材育成」をテーマに3年間にわたってリカレント教育プログラムの開発・実証を行いました。

(p117)

越境学習の成果を得るためには、四日間の濃密な場を設けることが当時は最も適した方法だったのです。なぜなら、南相馬や陸前高田に何度も足を運ぶことは、時間的にもコスト的にも多くの企業にとって非現実的だったからです。

(p140)

地域への越境学習が「地域と都市の垣根を越え、階級を越えた学びの場」という大枠の定義から、オンライン導入によって「空間や時間軸を越えた学びの場」へ。期せずしてしてコロナ禍が、TEXに好転的な進路をもたらしたというわけです。
特に出張コストが省かれ、日程に制限がなくなったということは大きなアドバンテージでした。「TEXオンライン」では、従来からの「人生を変える四日間」に充当するパートを前半(約1か月)で行い、グループで提案したプランをリアルに実現していく“実行フェーズ”を後半(3~4カ月)にプラス。短期間の凝縮型から、4~5カ月かけて地域課題とじっくり向き合う継続型のプログラムへとアップグレードしたことで、参加者は成果を得るまできちんと関わることができ、より深い経験ができるようになりました。
プログラムの再構築にあたり、見過ごしてきた課題も浮上しました。それは、この取り組みがライト過ぎてもヘビー過ぎてもダメだということです。
たとえば、プロボノ(公共善のため)的に都市圏から地方に関わるような取り組みがあります。こうした取り組みは素晴らしいものが多いと感じているのですが、中には現地やプロジェクトメンバーの顔が見えにくく、結果的に的を外してしまうケースも見聞きします。また、ワークショップで細かい作業を分担させられているだけと感じてしまうなど、いずれも参加者が取り組みに対して関わりがライト過ぎると、苦労がある割になかなか上手くいきません。
一方で、長期間出向しなければいけなかったり、プロジェクトのスタートとエンドが決まっていない半永久的な取り組みは参加者にとってヘビーであり、早大過ぎて価値ある関わりができないまま無為に過ごして終わってしまうことも中にはあるようです。あるいは最初の1,2年のうちは会社の人事部主導で回すものの、運営する側としても疲れてしまい、次第に続けることに意義が見出せなくなり、「一旦、プロジェクトはここまでにしましょうか」となってしまうのも、よくあるケースです。

(p140-143)

結局のところ、越境学習は期間の長さではなく価値観が揺さぶられる瞬間にあり、その体験はあらゆる対象に可能なのかもしれません。(東京海上日動火災保険株式会社 菊池謙太郎さん)

(p164)

特定分野の専門家として長くやられている政治家の中には、私たちでは到底太刀打ちできない方々もたくさんいます。しかし一般的には、政治家は選挙区で起こる森羅万象すべての情報が入ってくるところが最大の特徴じゃないでしょうか。「全部を見る」ため浅くはなることもあるかもしないですが、全部を見ている分、官の政策のいろいろな穴も見えるわけです。
だからこそ、官の側から仕事をつくる上でも、政の持つ情報や視点を知りたい。かたや政も不足を補うため、官の専門性を必要とする。互いに補い合うことが結果、社会課題の解決につながるわけですから、政と官も越境が不可欠なんです。(経済産業省 浅野大介さん)

(p188-189)

未来の経済的価値は、社内ではなく社外にあります。もしかしたら、それが社会課題の現場にあるのかもしれません。大企業ならば、利益を生むのは2、3年後でもいいと思うんです。「数年後に大きなリターンを得るために、社員が社外に出てさまざまな現場の人々と話し、仕事を組み立てていますか」。企業のリーダーには、そんな問いを投げたいと思います。(一般社団法人RCF 藤沢烈さん)

(p199)

目次

第1章 時代とともに、変わりゆく「人材育成」
第2章 固定観念を排除しなければ変化は起こせない
第3章 若手にこそ、刺激あふれる越境体験を
第4章 リーダーシップ・エクスペリエンスをデザインする
第5章 越境したビジネスパーソンがもたらす新たな価値

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◇プロフィール

藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/株式会社ソーシャル・エックス 共同創業者

1978年10月生まれ。京都大学公共政策大学院修了(MPP)
2003年に人材ビジネス会社を創業。2011年にルールメイキングの必要性を感じて政治家へ転身(2019年まで)。2020年に第二創業。官民協働による価値創造に取り組む。現在、経済産業省事業のプロジェクト統括も兼務。
議会マニフェスト大賞グランプリ、グッドデザイン賞受賞。著書いくつか。
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