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『逆プロポ』。画期的な官民共創オープンイノベーションの仕組み。

■ 関係にイノベーションを。

現在も数件の自治体公募を行っている「逆プロポ」に関して、以前も本noteで触れたことがありますが、どんどん事例が増えてきていますので、少し情報をアップデートしたいと思っています。

「逆プロポ」とは、地域課題に取り組みたい自治体 と 社会課題とビジネスを両立したい民間企業が出会うマッチングプラットフォームであり、官民共創により、社会や地域に新しい価値を生み出すための装置でもあります。

○地域課題に取り組みたい
○公共政策をアップデートしたい
○だけど、その財源がない

という自治体は全国1788の多くのがそう思っておられると思います。
私は元地方議員ですので、現在自治体が置かれている状況はよく理解できており、またなぜそれらがうまく解決できないのかも、公職を離れて客観的に見ることでよく理解できるようになってきました。

○そもそも予算がない

というのが、大きな課題なのですが、これに加えて、

○課題をうまく整理できていない。自分たちでも気づいていない視点がある。
○解決策が思いつかない。解決策を実現するマンパワーがない。リソースがない。

という声もよく聞きます。
これまで、地域課題を解決するために取られてきたのは「公募プロポーザル」が中心でした。この仕組みは、行政が課題も解決策の大枠も決めて、民間企業から提案を受けて、もっとも良さそうな解決策を採用するというものです。

しかし、いくつか問題があります。
○そもそも、予算がかかる
○行政が課題も解決策の大枠も決めるので、その枠外にある解決策は提案されない。
○受託事業になるので決められた通りしっかりやらねばならない。アジャイルにプロジェクトを動かせない。

こうした課題解決の仕組みを、逆転発想で解消しようとするのが「逆プロポ」です。

■ 「逆プロポ」とは?

「逆プロポ」とは、民間企業が公募主となって、自治体がエントリーする課題解決の取り組みです。

民間企業が課題解決に必要なお金の全部または一部を提供しますので、自治体の財政は傷みません。さらに、公募主の会社との間で合意が得られれば、協働で開発した事業は、半永久的にその自治体は無償で提供を受けることができます。

民間企業は近年、SDGSやESGの推進、パーパス起点による会社経営を進めており、地域課題の解決はその会社にとって社会的意義があれば自治体と一緒に取り組むようになっています。さらに、これまでソーシャルビジネスや、経済合理性の観点から参入が難しかった公共政策領域の課題についても、テクノロジーの発達によって、ビジネスとしても成立することが増えてきています。

「逆プロポ」は、公募の実施までに、事務局が公募主となる民間企業の見極めをしっかり行います。つまり、お金を出してくれる民間企業であれば、全部OKというわけではなく、あくまで事務局がOKを出した企業のみが公募をすることになります。事務局と公募企業とのディスカッションは通常1,2カ月かけて、じっくり行います。どんな「問い」であれば、自治体と一緒に社会をより良くしていけるのか、どんな領域やプロジェクトであれば、その会社にとって、損をせず、成功率が高いのか、そんなことをじっくりと話し合います。

無事に公募になったプロジェクトは約1~2カ月かけて、自治体の皆様に情報をデリバリーし、自治体からの問い合わせには、事務局がオンライン会議や、テキストで回答していきます。できる限り、自治体の方がエントリーしやすいように疑問解消に努めています。そして公募締め切り後、公募企業による自治体選定が行われます。どの自治体からのエントリーが、自社にとって意義あることなのか、ときに事務局も助言をして、1、2つの自治体を最終的に採択することになります。

採択が決まった自治体とは、事務局が調整してキックオフイベントの実施や、プロジェクトマネジメントを担い、公募した企業、エントリーして採択された自治体双方にとってメリットがあるプロジェクトになるように、運営支援に務めていくことになります。

■ これまでの事例

これまでのマッチング&プロジェクトの事例をいくつかご紹介します。

(1)【子ども食堂DX】大阪府枚方市 × 株式会社ワイヤレスゲート 

Wi-Fi大手のワイヤレスゲートが実施された公募に応募された枚方市との共創プロジェクトです。
枚方市は子ども食堂の運営をもっと効率的に効果的に進めていきたいという課題を抱えておられました。ワイヤレスゲートは通信技術を使って、自治体が抱える課題に向きあい、自治体とのディスカッションを通じて、子ども食堂のDX化に取り組まれることになりました。
現在進行中ですので、まだ公表はできませんが非常に面白い取り組みになっており、全国の自治体に対して「枚方モデル」の子ども食堂運営が展開される日も近いように感じています。
この子ども食堂DXとは別に、ワイヤレスゲートでは、子ども食堂を応援するための新ブランド「こども食堂応援Wi-Fi ~conneXion for SMILE~」を12月1日から一般向けに販売開始されることを決めました。社会課題の解決とビジネスとの両立による企業価値の向上を実現されようとしています。
枚方市としても、子ども食堂の利用者や運営者、食材提供者などがスマートにつながりあうことで、地域課題解決に大きく動き出されています。

〈関連プレスリリース〉
・ワイヤレスゲート https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000027.000063236.html
・枚方市https://www.city.hirakata.osaka.jp/cmsfiles/contents/0000035/35598/210630.pdf

(2)【交通安全の充実】神戸市&滋賀県日野町 × イーデザイン損害保険株式会社

インターネット損害保険の大手企業、イーデザイン損害保険によるプロジェクト。イーデザイン損保は、交通安全の充実に取り組むことが、顧客である損保加入者に貢献できることだけではなく、社会や行政に対してもプラスの価値を生み出せると考え、「逆プロポ」を通じて、交通安全に積極的な取り組みをしようとする自治体を応援しようと、全国の自治体に、実施したい企画を公募されました。

公募により、5自治体からエントリーがあり、イーデザイン損保の保険加入者の方々の投票により、「神戸市」と「滋賀県日野町」の2つの自治体の企画を採択し、両自治体に合計200万円の寄附を実施されました。

神戸市と滋賀県日野町の2つの自治体は、この寄付金を活用して、エントリーした事業を今年度実施されています。こちらも現在進行中の案件ですが、両自治体からプレスリリースも出ていますのでご案内いたします。

神戸市では、神戸のIT企業と高校が地域課題解決に向けて最新技術に触れるアクティブラーニングを実施され、摩耶山掬星台の混雑状況をAIサービスに学習させてSNSで情報発信されています。

〈関連ニュースページ〉
神戸市 https://www.city.kobe.lg.jp/a05822/949120967262.html

滋賀県日野町では、日野町の職員向け、児童向けに安全な自転車利用に関する講習を実施したり、町民向けにサイクリングイベントを通して、安全に楽しく自転車に乗ることに取り組まれています。

〈関連ニュースページ〉
日野町 http://www.town.shiga-hino.lg.jp/contents_detail.php?co=kak&frmId=5895

(3)【ソーシャルスコアを活用したまちづくり】株式会社電通国際情報サービス × 京都市&奈良県生駒市

電通国際情報サービス(ISID)は、本年度まで宮崎県綾町で、ソーシャルスコア「AYA SCORE」の開発と実証実験に取り組まれてきました。今回、「逆プロポ」では、このソーシャルスコアが他の自治体へ展開可能かを顕彰すべく、逆プロポを通じて全国の自治体へ、検証活動への参画を呼び掛けられました。

公募に応じたのは、京都市と奈良県の生駒市。100万人を超える政令市と、大阪近郊の人口10万人強のベッドタウンの自治体、そして緑豊かな田園地帯である宮崎県綾町の3つの特性が違う自治体の事例を、同時並行で検証していけることとなりました。

京都市は、財政難でニュースになることが多いですが、その分、市民協働の意識が強く、そうした市民のまちづくり活動への参画を何らかの形で報いることができないかと考えておられました。また、生駒市も小紫市長が「自治体3.0」を掲げ、市民とともに進めるまちづくりに取り組まれています。この2つの自治体が、電通国際情報サービスが進めようとする新規事業の検証に参画することとなり、公募会社である電通国際情報サービスにとっても非常に大きなメリットがあります。他方、参画した2つの自治体にとっても電通国際情報サービスの知見を活かし、自治体施策を検討する機会を創出されるなど、次なるまちづくり施策の検討を進めることができます。両者のwin-winの関係性の中で、現在、まさにプロジェクトが進められているところです。

〈関連プレスリリース〉
・京都市
https://www.city.kyoto.lg.jp/sogo/page/0000291127.html

■ 「逆プロポ」の今後について

「逆プロポ」の運営会社はSOCIALX.inc。
自治体に精通している地方議員経験者と、大手企業のオープンイノベーションや新規事業開発に精通している社内起業家の知見を活かして、逆プロポを運営しています。

現在、数件のプロジェクトを公募中ですが、さらに数件の公募相談を受けており、公募実施に向けたディスカッションを重ねています。

「逆プロポ」という仕組みを通じて、行政が地域課題に無償で取り組める環境を作り、同時に民間企業が新たな事業を開発して、従来は経済合理性の観点から行政が担当してきた公共サービスを、官民が共創して新たな仕組みを創り出し、持続可能な公共サービスを展開していけるように、お手伝いをしていければと思います。

ワイヤレスゲート × 枚方市の事例のように、子ども食堂DXによって、行政が抱える「不」を解消すべく新しい事業領域を生み出せたり、イーデザイン損保 × 神戸市&滋賀県日野町のように、安全な交通環境づくりに取り組む自治体の財政支援を行ったり、または電通国際情報サービス × 京都市&生駒市のように、まちづくり活動そのものをアップデートする取り組みを進められたりと、官民共創のパターンは様々ですが、取り組みは今後も続いていきます。

ここには紹介できませんでしたが、ドクターメイト株式会社と北九州市、ファミワンと全国の多数の自治体との共創プロジェクトも現在進行中です。

また折に触れ、「逆プロポ」の情報はアップデート記事を書いていきたいと思いますが、ぜひお取組みに関心を持っていただいた皆様は、「逆プロポ」のホームページをご覧いただいたり、お問い合わせを頂けましたら幸いです。

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◇藤井 哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/一般社団法人官民共創未来コンソーシアム事務局長/SOCIALX.inc ボードメンバー
1978年10月生まれ、滋賀県大津市出身の43歳。2003年に雇用労政問題に取り組むべく会社設立。職業訓練校運営、人事組織コンサルティングや官公庁の就労支援事業の受託等に取り組む。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地方の産業・労働政策の企画立案などに取り組む。東京での政策ロビイング活動や地方自治体の政策立案コンサルティングを経て、2020年に京都で第二創業。京都大学公共政策大学院修了(MPP)。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。



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