3話 わたしはおかしくなってしまった

平日の午前でも人は結構いるものだ。

でも、彩萌の表情と顔色を見た看護婦さんが、先に見てくれるように手配してくれた。

彩萌をソファに座らせると、力なく横になってしまった。


「朝のやつ、きっと飲めていなかったんだよね」

水は私をさすりながらそう聞いてきた。

「ぅ...ん」

もうほとんど声も出なくなっていた。

「…余計なことして、ごめんね」

水はえずく私にそういっていたと思う。

「僕、しらなかったんだ。あやがそこまで追いつめられていたなんて…。無理していたなんて…」

――――そういっていたんだと思う。


彩萌は気分が落ち着くまで、開いていた病室のベッドを使わせてもらっているらしい。

そしたらちゃんとした検査をするそうだ。

時計を見ると出社時間を悠に超えている。僕も彩萌も仲良く無断欠勤だ。

看護婦や医者のひそひそ話で、大分精神をやられていると聞こえてきた。

僕はどうしたらいいんだろう?


そんなことを考えていた時だ。由宇からメッセージが送られてきた。

「あやは、大丈夫そう?」


―――僕は、なんて返事をしたらいいのだろう。

スマートフォンを見つめながら、僕の時が止まっていった。

手が動かず、目も離せず、僕は茫然としていた。


水から返事が来ない…。

彩萌に何かあったのだろうか。

気になって仕方がない。

水に電話をかけてみよう。とにかく、情報がほしいんだ。


僕のスマ―トフォンが震え始めた。

電話のマーク。由宇からだ。

僕は半ば無意識でその電話を拒否した。

自分の気持ちの整理がつかない。頭の中がグシャグシャしている。

僕は逃げるようにして外に出た。外の空気を吸えば、少しは気がまぎれるかもしれない。

そんな現実逃避を思いついたからだ。


一体何分が経ったころだろうか。

僕を呼ぶ声が聞こえてきた。

「水、心配…かけたね。」

彩萌だった。ここに来た時とは打って変わって、落ち着いた雰囲気だ。

でも心なしか彩萌の表情はいつも以上に暗くなっていた。

「由宇、呼んでいいかな?」

無表情のまま、彩萌は僕に聞く。

医者の話を聞いた手前、僕は首を縦に振るしかなかった。


「水、悪いけど、由宇が来たら…私の話聞かないように、どっかいって」

私は、そう水に言い放った。私の…弱音なんて水に聞いてほしくない。

人に見られたくない。その想いでいっぱいだった。

水は首を縦に振ると、散歩してくると言ってどこかへ行ってしまった。


――――私は、震える指で由宇に電話をかけた。

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