10年以上愛される「唯一無二のゲーム」はいかにして生まれたのか
ゲームをプレイする環境は、時代とともに変化してきました。その一方で、Fuji Culture X(前フジゲームス)が提供するタイトルは、リリースから10年以上経った今も愛され続けています。ユーザーを惹きつけるゲームはどのようにして生まれたのか。『ゲゲゲの鬼太郎 妖怪横丁』『テルマエ・ロマエ ガチャ』を手がけたゲーム事業部シニアプロデューサー・赤井誠一と、シニアマネジャー・田平正雪に、その舞台裏とこだわりを聞きました。
古代ローマではなく、あえて日本の銭湯を舞台にする
――『ゲゲゲの鬼太郎 妖怪横丁』(以下、妖怪横丁)と、『テルマエ・ロマエ ガチャ』(以下、テルマエ)について、どんなゲームなのか教えてください。
田平 『妖怪横丁』は、鬼太郎たちと協力してお店を繁盛させ、オリジナルの「横丁」を作る育成ソーシャルゲームです。ねこ娘や一反もめんなどお馴染みのキャラクターをはじめ、妖怪たちがたくさん登場します。
『テルマエ』は日本一のお風呂屋を目指して、自分の銭湯にお客さんを呼んだり、「風呂トモ(フレンド)」のお風呂に浸かったりする、癒やし系ソーシャルゲームですね。漫画『テルマエ・ロマエ』の主人公「ルシウス」もワープしてきたりするんですよ。
――お二人は、これらのゲームに開発当時から携わっていると伺いました。
赤井 そうですね。『テルマエ』が2012年、『妖怪横丁』が2013年のリリースでした。Fuji Culture Xの前身であるフジゲームスがフジテレビから分社化したのが2016年なので、それより前に開発したタイトルです。当時、私たちはフジテレビのゲーム事業部に所属していました。
――お二人はどのような経緯で、ゲーム開発に携わるようになったのでしょうか?
田平 もともと趣味でゲーム開発をしていて、Windows95が出た当時からネット対戦ゲームを作ったりしていたんです。それもあって、はじめはフジテレビの関連会社に就職し、のちにフジテレビの広報局に出向しました。
フジテレビで最初にゲームを作ったのは、2001年の「インターネット博覧会」のためにフジテレビが制作したWebサイト「お台場どっと混む!」に携わったときですね。集客のために『ネットでガチャガチャ』というブラウザゲームを企画して、実際にサイト内に置いてみると、「お台場どっと混む!」のアクセス数が30倍近く伸びたんです。そこからフジテレビの公式サイトにもゲームを置くようになり、成果が出るとともにゲームの部門がどんどん大きくなっていきました。
赤井 私はフジテレビに入社後、放送システムのメンテナンスをする部署に配属されました。7年ほどいたのですが、放送よりもインターネットに興味が移ってきて、デジタル系の部署に異動させてもらったんですね。異動後はNTTドコモの携帯電話向けサービス「iモード」のコンテンツ運用などに関わり、ソーシャルゲームが伸びてきたタイミングから、ずっとゲームに携わっています。
――『妖怪横丁』と『テルマエ』は、どのような経緯で開発されたのでしょうか。
田平 『テルマエ』は、2012年に映画『テルマエ・ロマエ』の公開が決まり、そのプロモーションを兼ねたゲームを作ろう、というところから始まっています。
当時はディレクターとしてどうやったら『テルマエ・ロマエ』の世界をゲームにできるのかという点に非常に悩みました。『テルマエ・ロマエ』はローマ時代の浴場技師「ルシウス」が現代にタイムスリップし、日本の入浴文化に衝撃を受け、ローマ時代にその文化を持ち込み様々な問題を解決するストーリーになっています。『テルマエ・ロマエ』をゲームにしたら、普通は古代ローマを舞台にルシウスが浴場を作るゲームにすると思うんです。そこをあえて「日本の銭湯」を舞台にして、ユーザーがルシウスを驚かせるような銭湯を作る、というテーマにしました。この逆転の発想があったことで、ゲームの内容に大きく幅を持たせることができ、これだけ長続きするゲームを作ることができたと思っています。
――『妖怪横丁』も同じような流れだったのでしょうか?
田平 私自身、もともと鬼太郎が大好きだったので、『テルマエ』のあとの新作ゲームとして企画したのが『妖怪横丁』でした。本作のチャレンジとしては、鬼太郎や妖怪たちを可愛らしくディフォルメを行った点です。ブラウザゲームは女性ユーザーが多く、男性向けのイメージがあるこれまでの鬼太郎ファン以外にもお客様の層を拡げたいと考えました。水木プロ様にも許可をいただき、「かわいい姿の妖怪たちがお店屋さんごっこをする」という内容にしました。結果、ユーザー比率は男女比がほぼ半々となり、大きくお客様の層を広げることができたと考えています。
「スピンオフ」がIPの可能性をもっと広げる
――ゲーム開発において、Fuji Culture Xならではの特徴やこだわりについて教えてください。
田平 そのIPの「スピンオフ」を考えるのが、ひとつの特徴だと思います。原作を壊してしまうようなことをしてはならないし、原作がある意味がありません。一方、ユーザーに楽しく遊んでもらうためには、ある程度の自由度を担保する必要があり、原作の中のどの部分を膨らませてゲームの企画の中心に設定するかがとても重要になります。『妖怪横丁』も『テルマエ』も単純に原作通りの世界観にしているわけではないんです。世界観の一部を膨らませた「スピンオフ」を考えることで、原作の世界を活かしながらユーザーに多様な遊びを提供することができます。また、原作の特徴ある部分を押し出すことで、IPを知らない方にもその魅力が伝わりやすくなり、新たなユーザーとして呼び込めるものになると考えています。
赤井 スピンオフを生み出すことで『テルマエ』なら各都道府県名産とコラボしたり、『妖怪横丁』なら各地に伝わる妖怪を取り上げたりして、ユーザーのみなさんを飽きさせないようにしているんです。そのゲームが今後も10年以上続くことを想定して、最初からある程度の自由度を持たせるようにしています。
――とはいえ、IPの使用には監修が入りますし、どこまでも自由なわけではありません。
赤井 もちろん、それぞれのIPの使用にはガイドラインがあり、「ここまで許容できる」という範囲が決まっています。「許諾が得られないのでリリースを延期する」というのも、業界的にはよくある話です。だからこそ、IPホルダーと良い関係を築くことはとても大事だと思っています。
たとえば『妖怪横丁』の場合は、フジテレビで長らくテレビアニメを放送していることもあり、水木プロ様とは当初からお付き合いがありました。お話ししていると、水木プロ様から「こういうのはどうか」とアイデアをいただくこともあるんです。監修をしていただきつつ、原作とオリジナルの融合についても一緒に進められているので、とてもありがたいですね。
――Fuji Culture Xでは、ゲームの企画やアイデアはどのように生み出しているのでしょうか。
赤井 チームによってやり方は異なりますが、『妖怪横丁』では「全員で考える」ということをしていますね。やはり10年も続いていると、アイデアも尽きてきますから(笑)。プランナーだけが企画を練るのではなく、エンジニアやデザイナーなどもミーティングに参加して、ブレストをしながらアイデアを固めています。その延長線上で、エンジニアからディレクターになった人もいるくらいです。
PCからスマホへ、ブラウザからアプリへ
――『妖怪横丁』『テルマエ』のユーザーは、どういった年齢層が中心なのでしょうか。
田平 30代~50代女性が多いですね。市場では10~20代男性向けのゲームが多くを占めるなか、「女性向けのかわいいキャラクター」「バトル要素無し」「ブラウザゲーム」といったゲームはやはり珍しいんです。当時は競合が少なかったこともあり、30代~50代女性という “ブルーオーシャン”をターゲットにしたのは正解だったと思っています。
――『妖怪横丁』『テルマエ』がリリースされた当時、ブラウザゲームは主にFlashで開発されていたと思います。Flashは2020年12月にサポートが終了していますが、Fuji Culture Xではプラットフォームの変化にどのように対応してきたのでしょうか。
赤井 Flashのサポート終了を受けて、HTML5へのコンバート作業を行いました。とはいえ、すべてのゲームが対象ではありません。HTML5へのコンバートはほぼ作り直しに近い作業ですし、コストが非常にかかるものだったので、採算が厳しいゲームはこのタイミングでサービス終了とするものもありました。
HTML5にコンバートが完了したゲームでも、しばらくは不具合が起きたり、動作が重くなったり、不安定な時期が続きましたね。その都度対策を施して、安定して動いてきたあたりで、スマホアプリへの展開も進めていきました。
Fuji Culture Xならではの「チャレンジ」を忘れたくない
――Fuji Culture Xで働くことで感じるやりがいや、得られる経験について教えてください。
赤井 「このIPはこう作らなきゃ」ではなく、「このIPはこうするともっと広がるんじゃないか」と、自由度高くゲームを作れるところにやりがいを感じます。もちろんマネタイズなど大事なポイントもありますが、面白さを追求するために試行錯誤を繰り返して、唯一無二のゲームを作ってきた……、という自負はありますね。
田平 黙々と開発をするだけでなく、リアルとの接点も多いところでしょうか。『テルマエ』では銭湯を借り切ってオフ会をするなど、リアルイベントもかなりやりましたし、以前『ネットでマングローブ』というゲームを作ったときは、「ゲームの中でマングローブを育てると沖縄に植林できる」というものだったので、実際に沖縄へ見学にも行きました。こうした刺激が新しいアイデアにもつながるので、今後も続けていきたいですね。
――最後に、Fuji Culture Xとしての展望についてお聞かせください。
田平 たぶんこれからも、型にはまらないゲームを作っていくんだろうなと思います(笑)。小さな子どもがおもちゃ箱をひっくり返して「今日はどれで遊ぼうかな」と選ぶように、たくさんのゲームを“おもちゃ箱”に用意して、みなさんに遊んでもらえたら。そして、10年経っても「このおもちゃ、だいぶ古いけど捨てられないんだよね」という存在になれたら嬉しいですね。
赤井 今後は、グローバルの展開も視野に入れることになると思います。もっとIPを使ったコラボも強化したいですし、コアとなるゲームを増やしていきたい。ただその一方で、Fuji Culture Xならではのチャレンジも忘れたくないんです。テレビ業界・ゲーム業界の閉塞感に風穴を開けるような、新しい挑戦ができる土壌がFuji Culture Xにはあると思っています。新規採用を含め、それらを支えるチーム作りや組織作りに、引き続き取り組んでいきたいです。
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