何処までもやせたくて(84)強制連行!?
「あのね・・・」
座るよりも早いくらいの性急さで、伯母は口を開いた。
「これから、伯母さんの家に来てほしいの。
あなたのお母さんとも相談したんだけど、このまま、
一人暮らしさせてるわけにはいかないんじゃないか、って。
今日だって、家庭教師、休んじゃったんでしょ。
彩華ちゃんのお母さんから、連絡がとれない、って電話がきて、
わたし、まさか・・・って、最悪な状態、想像しちゃった。
お願いだから、目の届くところにいて。
何かあってからでは遅すぎるし、私、あなたのお母さんに顔向けできないから」
「・・・・・・あ、ごめんなさい。
今日は、仮眠しようとしたら、寝過ごしちゃって。
でも、元気だから。
心配しないでも、大丈夫だよ」
「どこが大丈夫なのよ!
顔なんて、全然生気がないし、それに・・・
また、やせたでしょ!!」
どうしよう、なんとかして、話をそらさなきゃ。
「うっかりしてた。
お茶、いれるね。
彩華ちゃんは、ジュースのほうがいいかな?」
立ち上がろうとした瞬間、体のバランスが崩れ・・・
「大丈夫?」
「先生!」
伯母と彩華ちゃんが、同時に声をあげた。
「どうしたの?
足に力が入らないんじゃない?
それとも、めまいでもしたの?」
「ううん、ちょっとバランス崩しただけ」
「お茶なんて、どうでもいいから、話、聞いてちょうだい。
あなた、今の体調で、絶対大丈夫だって言い切れるの?」
大丈夫だよ・・・
とは、言えない気がするから、その言葉は呑みこむしかない。
「私も、先生は少し休んだほうがいいと思うよ。
部屋のなかで、何でもないところで転ぶなんて、おかしいよ」
彩華ちゃんの言う通りかも。
そうだよね、私、大丈夫どころか、おかしいんだよね。
「とにかく、家に来てちょうだい。
無理に、食べさせたりはしないから」
「それ、本当? 無理に、食べなくていい?」
「日曜日に、あなたのお母さんがまた上京するでしょ。
それまでに、何かあっちゃいけないから。
今日だって、連絡とれないって聞いたときは、
心臓が停まるかと思ったわよ」
みんな、大げさだな。
でも・・・無理に食べなくていいなら、それでもいいや。
体力が落ちてるのは、事実だし。
それに・・・
母親が来て、私を実家に連れ戻そうとしたり、入院させようとしたりしたとき、
もしかしたら、伯母は味方してくれるかもしれない。
東京の大学に進むことだって、反対する母親を伯母が説得してくれたんだもの。
「じゃあ、お世話になります。
あ、着替えとか用意するから、10分くらい待ってもらえる?」
着替えに加えて、ノートパソコンや体重計まで入れたら、けっこう重くなってしまった。
持つことはできたけど、うまく歩けない。
どうしよう、階段とか、ちゃんと降りられるかな・・・
「それ、私、持とうか?
彩華ちゃん、階段降りるとき、支えてあげてね」
情けない、まるで病人だね。
・・・と思って、ハッとした。
そうか、私、まわりから見たら、病人なんだ。
しかも、自分では元気だと思ってる、おかしなヤツなんだよね。
だから、こうして、強制連行されていくんだ。
「彩華ちゃん、きつくない?
私の体重、全部かかっちゃってるでしょ」
「全然、だよ。
先生の体重なんて、小学生並みでしょ。
たぶん、おんぶだってできるんじゃないかな」
自分がやせてることを、少し実感できた嬉しさ。
でも、このままじゃダメなんだ、きっと。
そろそろなんとかしなきゃ、今度は実家か病院に強制連行されてしまう・・・
伯母の家に行ったら、少し頑張って食べてみよう。
「私、もうちょっと太ったほうがいいのかな?」
独り言っぽく、彩華ちゃんに問いかけてみた。
「もちろん、だよ。
だって、初めて会ったときだって、モデルみたいにやせてたじゃない」
「じゃあ、伯母さんの家に行ったら、頑張って食べてみる。
今日みたいに、カテキョ、休むようなことになっちゃ、まずいもんね」
彩華ちゃんに宣言したのは、自分にプレッシャーをかけるため。
伯母の家で、もしかしたら、変われるかもしれない。
いや、変わろう。
これは、強制連行じゃないんだ。
自分の体調をよくするために、私が望んで、伯母の家に行くんだから。
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