価値判断の基準を決めるのは私~かすみ嬢の居場所(27)


 たぶん、私の根幹には、負けたくないって気持ちが強く強くある。
 痩せようと努力することが私の唯一の誇りだから。痩せ姫になることで周りを見返したいから。
 痩せに固執して「これが私の幸せなの」って言い張りたい。負けたくない。
「痩せなくていいよ」なんて甘言に惑わされたくないって気持ちが、強い今。

 それに、食べものをお腹に入れた時の、消化しようとする臓器の動き、それに応じてあたたまろうとするお腹。それら全てを、ぞわぞわする、気持ち悪いって感じ始めたら、その感覚を変えるのはすごく難しいと思うんだ。
 気持ち悪くても無理してお腹に入れ続けて、その感覚に慣らさせなきゃいけないから。

 そんなに多くは望まないよ。
 美しいものを愛でたい。
 できるならば美しいものを身に纏いたい。
 ここまでは普通のことでしょう。
 それに加えて、今の私は、美しいもの=痩せだと感じるだけなんだってば。

 なのに「痩せだけがプライドなんて悲しいことです」というリプライをいただいた。
 私が声を大にして言いたいことは、ただひとつです。
 私の価値判断の基準を決めるのは私であって、あなたではない。
 そして、声を小さくして付け加えると、私は痩せだけがプライドだとは、一度もお話ししたことがありません。そもそも、私は痩せようとしてはいるけれど、プライドとして確立できるほどの痩せはまだ持ってないのです。
 格言に「地獄への道は善意で舗装されている」というものがありますが、本当に善意でかけられる言葉ほど面倒なものはないと、しみじみ思います。

 そういえば、長いつきあいのある友人がいて、摂食のことも全部知ってるんだけど、いつも会うと手首にくるっと指を回して「痩せた?」とか「太ったかな」って確認するのね。
 そして、それはたいてい当たるの。ほんの僅かな変化でも。
 他の人にこんなことされたらすごく嫌だろうに、その子に対しては何も思わないの。
 なんでかなって思ってたけど、たぶん、これまで彼女が私の姿について、肯定もしなかったけど否定もしなかったからなんだろうな。「前のほうがいい、ちゃんと食べて」とか、そんなこと一切言わなかった。
 すごくそれは嬉しいことだよ。

 私の趣味は、痩せを極める努力を重ねること。
 ってくらい、意識すればするほど、痩せ姫を目指すことが生活の一部になってることを、実感します。
 ほかに何も取り柄がないんだもの。
 やればやるぶん、結果が出ることに没頭したいんだもの。
 そうしていると、安心するんだもの。


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