何処までもやせたくて(87)ひと口ずつ、一歩ずつ
何ヶ月ぶりかの、普通の朝食。
伯父と伯母が、食べ始めるのを見届けてから、箸をとる。
自分が食べるのを、なるべく見られたくないから。
最初に口に運んだのは、煮物のこんにゃく。
噛んだ瞬間、意外なほどおいしくて、
「おいしい・・・」
と、口に出してしまった。
「そうだろ、ちいたんは、そういう煮物がちっちゃい頃から大好きで、
うちに泊まりに来るたび、おいしいって言いながら食べてたんだから。
あと、その玉子焼き。
それも、お気に入りだったよね」
伯父の言葉で、子供の頃の記憶がよみがえる。
たしかに私、伯母の手料理が大好きで、
ここに泊まりにくるの、すごく楽しみだったっけ。
なんだか、張り詰めてた空気がふっとゆるんだみたいで、心が軽くなる。
ちいたん、と呼ばれてた頃の自分が戻ってきたみたい。
恐怖感が少しやわらいだおかげか、玉子焼きはもちろん、アジの開きも食べることができた。
取り皿分、どうにか完食。味噌汁も、クリア。
でも、これ以上は無理。
だけど「ごちそうさま」を言ったときの二人の反応が怖くて、空になった取り皿を、ぼーっと見ていたら、
「昨日までは、朝、何を食べてたの?」
と、伯父。
「食べてた・・・っていうか、野菜ジュースを飲む程度かな。ダイエットとか関係なく、朝はお腹すかないから」
「だったら、今朝はすごく頑張ったんだ。もう、お腹いっぱいって感じかな」
「はい。もう、これ以上は」
「昨日も言ったけど、無理しなくていいからね。ひと口ずつ、一歩ずつ、ちいたんのペースでやっていけばいいんだから」
伯母のほうに視線を移したら、軽く微笑んでくれてる。
よかった、二人とも怒ってないんだ。
すると、突然、
「そうだ、今日の午後、ホットケーキ、作らない?」
と、伯母。
「昔、一緒に作ったりしたでしょ。伯母さん、あなたが上京したら、また作れると思って楽しみにしてたのに、なかなか、遊びに来てくれなくて。せっかくだから、作りましょうよ」
えっ、ホットケーキを作るってことは、それを食べるってことでもあるわけだよね?
作るのはいいけど、食べるのは・・・
一緒に作りたい気持ちはあるけど、それ以上に、食べるのが怖い。
それでも・・・
「もし、食べたくなかったら、ひと口、味見するだけでもいいんじゃないかな」
伯父のひとことで、なんとか覚悟ができた。
「じゃあ、作りましょ。一度こうして約束したんだから、絶対よ」
なんとなく、二人にうまく誘導されてる気がしないでもない。
でも、それはそれでいいか、って気もする。
自分であれこれ考えるのは、もう疲れちゃった。
それより、誰かの言うことに従ってたほうが楽かもしれないから。
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