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レベンクロン「鏡の中の少女」

(拒食文学の定番というべき、この作品について、3年ほど前に、gooブログで書いた文章を再録してみました)

「鏡の中の少女」(S・レベンクロン 集英社文庫)。続編の「鏡の中の孤独」とともに、摂食障害を扱った小説としては、最も有名な作品といえるかもしれません。
十数年前、初めて読んだときは、ちょっと衝撃を受けました。というのも、軽い気持ちで始めたダイエットから拒食に陥り、なぜやせたいのか、自分ではわからないまま、病気に翻弄されていく主人公の姿が、過激でも難解でもない、じつに平易な文章で、まさに等身大な形で描かれていたからで、しかも、それは主人公だけにとどまりません。心配しておろおろする母や、自信を失くして怒る父、妹は優等生だったのにと驚く問題児の姉(これはもっぱら続編に出てきます)、さらには、患者の頑固さに困惑しながら治療に取り組む主治医まで、それぞれの混乱がバランスよく表現されています。
これを読んだ患者さんの多くが「まるで自分のことみたい」と感じる、ということですが、それだけのリアリティがあればこそ、なんですね。ただ、過食や嘔吐、下剤といった要素はそれほど出てこないので、そういった問題が主症状になっている人には、少し物足りなかったりするかも。以前、この作品の共訳者の一人でもある女性セラピストを取材した際、
「レベンクロンさんは、どっちかというと、拒食の女の子が好きっていうか、ご専門なんでしょうね」(好き、というのは、医者として関心が高いという意味でしょう)
と、語っていたのを思い出します。逆に、このセラピストは、摂食障害と診断されない程度の過食や肥満恐怖といったものも含めて、古典的な拒食症とはまた異なった、多種多様な病態が、現代女性の間にひろがっていることに着目していました。
ですから「鏡の中の少女」といえども、すべての患者さんの心にフィットするとは限りませんが・・・良質な作品であることは、疑いようがありません。


(※初出「痩せ姫の光と影」2010年10月 
※冒頭で言っているように、正しい意味での初出は、07年のgooブログ)


多くの人に読まれている小説だけど、なかにはシンスピレーションとしての読まれ方もある。すなわち、どんどん痩せていくヒロインに憧れ、自分のダイエットのモチベーションや参考にするというものだ。痩せることはなんといっても魅力的だし、書き手もそんな女の子のことが「好き」なので、主人公もやはり魅力的に描かれることになる。レベンクロン自身は望んでいないだろうけど、こうした読まれ方は、拒食文学あるいは痩せ姫小説ならではの独特な傾向だと思う。

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