何処までもやせたくて(64)サプライズなヌード


朝、目が覚めると、すぐに体重を測った。

27.4キロ。
最低体重より、1.5キロも重い。

それ以上につらいのは、鏡に映ったお腹。
過食直後と、ほとんど変わってないじゃない!

出かけるまでの3時間、家のまわりを歩いたり、半身浴をしてみたものの、
体重は、0.3キロ減っただけ。
お腹も、たいしてへこんでない。
鏡を見ながら、肋骨を数え、二の腕をつかんだりして、
必死に言い聞かせてみる。

私は、やせてるんだ。

ウエストを52センチに詰めたスカートをはいてみて、少しだけ安心。
ぶかぶかで、握りこぶしが余裕で入る。
私、太ってはいないよね。

予定外の運動や入浴をしてしまったせいで、ちょっとフラフラしてるけど、
自分を奮い立たせ、家を出た。

銀座までは、電車を2本乗り継いで、2時間近くかかる。
これくらいで、へこたれてちゃダメだから。

半分以上の時間、座れたおかげで、フラフラ感はかなり解消。
初めて訪れる街という、緊張感で、気持ちも上がってきた。

地下鉄の改札を抜け、地上に出ると、
そこには、新宿や渋谷とも違う、大人の華やぎが。
ギャルっぽい子は、ほとんど見かけないし、
20代後半から30代の女性が、中心という感じだ。
服やバッグも、高級そうなブランド品が目につく。

私なんて、すごく幼稚で野暮ったく見えてるんだろうな・・・
せめて、立ち居振る舞いだけでも、大人っぽくしなきゃ。

銀座の中心部から、小さな通りに入り、
5、6軒目のビルの1階に、その画廊はあった。
ドキドキしながら、中に入ると、入り口で記帳するようになっていて、
そこに、受付係っぽい女性が二人。
一人は、私を見て、ギョッとした表情だったけど、
もう一人は、なぜか、微笑みかけてくれた。

最近、ギョッとした表情には、もう慣れっこ。
今日、ここに来る途中にだって、見ず知らずの人にそういう表情をされたし、
ひそひそ声で、ひどいことも言われた。
それも、すっかり慣れたけど。

むしろ、微笑んでくれた人のことが気になる。
なぜ、私を見ても、驚かないんだろう。

それに、すごく素敵な雰囲気。
もう一人も美人だけど、ちょっとキツイ印象だから、
こっちの人の顔のほうが私好みだな。
目鼻立ち自体は穏やかなのに、頬から顎のかけてのラインがきゃしゃで、
こんな顔に生まれたかった・・・

それにしても、二人とも、モデルさんみたいにスタイルがいい。
あ、そうか、Gさんは仕事柄、そういう人たちとも交流があるんだよね。
この人たちも、本物のモデルさんなのかも。

「あの・・・Gさん、いらっしゃいますか」

ちょっと勇気を出して、聞いてみたら、
「あ、Gさんのお知り合いなのね。
今、食事に出てるけど・・・
あと10分もすれば戻ってくると思うから。
それまでゆっくり、作品、ご覧になってたらどうかしら」

その、気になる人が、見た目通りの穏やかな口調で答え、また、微笑みかけてくれた。

「はい。ゆっくり、拝見してますね」

そう言葉を返し、作品が展示してあるスペースへ。
Gさんが葉書に書いてくれてたように、風景の写真が中心で、
たしかに、若い女の子向きじゃないかもしれない。
でも、私は好きだな。
初秋の海の淋しさとか、五月の木漏れ日の優しさとか、
四季おりおりの表情が、写真から伝わってきて、心が癒される。

前に話したときも、少し、そんな気分にさせられたっけ。
こういう写真を撮れるような人だから、男性恐怖気味の私も、
あんなに話ができたのかな。
頑張って、来た甲斐があった。
Gさんが戻って来たら、お礼言わなきゃ。

ところが・・・

一番、奥まったところに展示されていた写真を見た瞬間、
頭の中が真っ白になり、全身が硬直した。

そこには、風景ではなく、女性のヌード写真が。
いや、その程度のことでここまで驚いたりはしない。

その女性はガリガリにやせて、骨と皮しかなかった。
顔が写ってないから、年齢はよくわからないけど、
50代、あるいは、それ以上だろうか。

他の作品同様、タイトルが付けられていて、
その写真には「悲鳴」とある。
本当だ。
悲鳴が聞こえるみたい。

そのとき、
「もしかして、○○さん?」
後ろから声がして、振り向くと・・・Gさんだ。
私を見ての反応は、ギョッとでもなく、微笑むでもなく、少し困ってるような雰囲気。

でも、それよりも、この女性のことが気になって、
「この女の人、大丈夫なんですか?
こんなにやせて・・・病気かと思うほど」

お久しぶりです、と言うのも忘れ、いきなり質問していた。

「大丈夫だよ。
っていうか、これ、4、5年前の写真だから。
このときはたしかに病気だったけど、今は元気だからさ」

「よかった・・・
じゃあ、生きてらっしゃるんですね」
「生きてるも何も、さっき会って、話もしたでしょ。
ほら、あそこにいるから」

えっ!?
どういうこと?

Gさんは、受付のほうを指差した。


#小説 #痩せ姫 #拒食 #ダイエット



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