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日本文化の長所と短所(なぜ明治維新・近代化に成功したの?)

欠点の無い人は居ません。大事なのは欠点を改善しようと焦ることではなく、長所と短所を正確に認識することです。正確に、容赦なく正確に、血も涙もないほどに正確に。

1、なぜ明治維新は成功したの?

歴史や政治や経済に興味のあるひとならば、ほとんどが疑問に思うと思います。なぜ欧米諸国以外で、日本だけがいち早く近代化に成功したのか?

勤王に志士たちが賢く、世界情勢を把握した上で賢明な判断したから?
(間違いではありません)

江戸時代が悪い時代じゃなく、近代化を準備できる十分な学問が発達していたから?
(間違いではありません)

国学の発達により、日本および天皇制の意識が全国に十分浸透しており、
国民国家としての基盤を備えていたから。
(間違いではありません)

これらすべて、間違いではありません。それぞれ重要な条件です。しかしそれらを包括する条件がひとつあります。「識字率が高かった」ことです。

2、識字率は全てを内包する

政治や経済が上手くゆくと、普通どうしても、ひっぱってゆくひとが天才だったのだ、と考えてしまいます。しかし重要なのは全体の力です。国民全体の知的レベルです。幕末の日本は、幸いなことに、識字率が高く、知的レベルが高い社会だったのです。だから明治維新は成功したのです。

例えば中国では「科挙試験」という官僚登用試験が古くからあり、中国全土のお金持ちは、子弟の教育に必死になって、なんとか科挙に合格させようとしました。そのおかげで皇帝の近くには大量の秀才が集っていたのですが、近代化には失敗しました。今でも中国は民主主義国家になっていません。

つまりいくら秀才あつめても、大勢に影響はないのです。国家の発展に重要なのは知識教育が一般の庶民にどれほど浸透しているか、であって、一部エリートをいくら鍛えても、国家は良くならないのです。その意味で、明治維新の成功の原因は、当時の日本の識字率の高さにあります。

識字率が高い社会だったから、江戸時代に林子平「海国兵談」のような書物が書かれ、国防意識が浸透し、和算、それを応用した天文などが発達し、近代科学技術を十分理解できる素養があり、国学が流行して国民国家の意識が高まっていました。

明治維新の成功、近代化の成功は個人の活躍によるものではないのです。
日本全体の、識字率の高さが決め手だったのです。(教育を考えだすと、いつも「もっとエリート教育を」とか言い出す人がいるのですが、それは間違っています。科挙試験を実施していた中国が民主化していない以上、教育の努力はむしろ成績の悪い子に振り向けられるべきなのです)

中国でも、朝鮮半島でも、インドでも、イスラムでも、知的エリートは大量に居ました。それでもそれらの国が近代化に成功しませんでした。一般大衆の識字が大幅に遅れていたからです。日本の知的エリートの数は、なにしろ人口が違いますから、イスラムやインド、中国よりは少なかったはずです。でも日本は普通の大衆が識字しており、本を読み、抽象概念を操ることができました。

3、日本の識字率が高かった原因

つまり日本の長所とは、識字率の高さです。ではなぜ識字率が高かったのでしょうか?日本の識字率について調べてすぐに気がつくのは、女性の識字率の高さです。おそらく女性の識字率だけみれば、世界でもすば抜けた数値でしょう。

海東諸国紀という、李氏朝鮮の官僚が書いた書物には、「男女問なくみなその国字を習う、号してカタカンナと云う」と記されています。すくなくとも室町時代の都市では女子もカタカナを習っていたことが記されています。室町時代から女子の識字率が高かったのですね。実は戦国時代に日本に来たイエズス会伝道師も、「日本女性は計算が出来る、小銭計算などは男性より早い」と驚いています。当時はヨーロッパ世界でも女性はほとんど計算できず、ヨーロッパ以外では絶望的な状況でした。日本女性の知的能力はずば抜けていたのです。なぜ日本人男性のサラリーマンが、給料を全額奥さんに渡し、そのなかからお小遣いをもらうというシステムなのか、ご理解いただけると思います。世界的に見て日本人女性が計算能力が高かったからそうなったのです(というと、いやヨーロッパ在住だがこちらのエリート女性の能力は本当に高く、とかいわれそうですが、今ここで述べているのは社会全体の識字及び計算能力の問題で、読者の半径5メートル以内の話題ではございません)。

ではなぜ女性の識字率が高かったのか?結論から説明すれば、日本は家畜文化が薄弱で、去勢技術がなかったからです。とても奇抜な理由ですが、順を追って説明してゆきます。

4、去勢技術不在の文化

馬や牛のうち、メスはそのままで大丈夫ですが、オスを家畜として使役するには、去勢がどうしても必要です。去勢をするとオスでもメスのようにおとなしくなります。そうしてはじめて、車を引かせたり、自由に使えるようになります。しかし日本に明治まで去勢技術がありませんでした。明治はじめに来日した女性イギリス人旅行家イザベラ・バードは、日本の家畜が去勢していないこと、去勢していないオス馬にのると、荒れ狂って人間も荷物も振り落とされることを、なんども嘆いています。

家畜文化は大平原に適した文化なのですが、日本には大平原がありません。だから家畜文化がさほど発達せず、去勢技術が育ちませんでした。

去勢技術が無いと、宦官が生まれません。宦官とは、去勢した男性奴隷です。たとえば中国皇帝の後宮(ハーレム)には、宦官が大量に存在していました。ハーレムに通常の男性を雇うと、当然ですが不祥事が発生します。皇帝以外の子供が大量に生まれるようでは、そもそもハーレムを作った意味がありません。皇帝の跡継ぎをつくるための施設ですから。だから宦官が必要だったのです。

5、宦官不在と女官の活躍

しかし日本には去勢技術がありません。だから宦官が居ません。一方で宮中は存在していますから、中国では宦官がやっていた事務仕事をする人間は必要です。でも男性を入れるわけにはいきませんそこで日本では女官が発生しました。他の国では宦官がこなしていたような、知的な事務仕事全部こなすような、優秀な女官が発生したのです。代表は紫式部と清少納言です。

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11世紀に、他国では見られない女流文学が発達しました。女性も読み書きをし、恋文のやりとりをすることが、当然になりました。この時点で、日本女性の知的水準は世界最高になったのです。なにしろ世界的に女性が識字していない時代ですから。例えば江戸時代の大奥での仕事ぶりを見てみましょう。

大奥WIKIです。
火之番 ひのばん 昼夜を問わず大奥内の火の元を見回る。武芸に長けており警備員的な役割も担っていた。御使番 おつかいばん 広敷・御殿間の御錠口の開閉を管理する御右筆 ごゆうひつ 日記から書状に至る一切の公文書管理を担当。諸大名からの献上品の検査役も担っていた。

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つまり事務から警護から全般、女性だけでまかなっていたお役所が大奥なのです。日本女性の知的水準の高さが伺われます。

6、直系家族

「直系家族」という言葉があります。子供のうち一人が親元に残り同居して、最終的に家を引き継ぐという家族制度です。日本人ですと当然のことのように思いますが、実はこの家族制度を持つ民族は少数です。

日本、韓国(朝鮮)、ドイツ、ユダヤ、バスク、スコットランド、チェコ・・

直系家族は勉強が得意な民族です。直系家族は女性の知識が子供に受け継がれやすい制度ですので、一度識字率が上がりだすとどんどん上がります。

日本は鎌倉時代から直系家族になったと言われています(と書きましたが、鎌倉時代にはまだ核家族で、直系化は徐々に進行して、完了するのは江戸時代とも言われています。しかし比叡山などの僧兵が力を持ったということはつまり、平安末期から直系家族化が進行しており、あぶれた次男三男が僧兵になったという解釈が可能なわけで、ここらへん研究がまだ進んでいません)。日本は平安時代に女性文化が確立し、女性の知識体系が確立していました。その後直系社会になりましたから、識字率向上には理想的な環境だったのです。

以上要約すると

家畜文化が薄弱だった→
去勢技術がなかった→
宦官が居なかった→
女官が発生した→
女流文学、女性文化が発達した→
その後鎌倉時代から直系家族に変化していった→
識字率が向上した→
近代化に成功できる社会になった

となります。

もっとも直系家族は優秀なだけではありません。権威主義なのでどうしても自由な思考が苦手になるのです。ドイツもギリシャ問題処理できていません。イスラエルもアラブと仲がわるいままです。

「しかし直系家族の国の総理、安部さんは外交うまいでしょう」上手いと思います。しかし山口と鹿児島(長州と薩摩)は日本の中で例外的に、直系家族ではないのです、アングロサクソンと同じ、核家族なのです。核家族はペーパーテストの成績は直系家族ほどではないのですが、政治が大変上手いのです。明治維新は家族構成で見ると、直系家族メインの国を、核家族集団が上手くリードした革命だったのですね。

7、文明の基本テキスト

日本の文化、文明の基本にあるのが、女性文化であり、その元が平安女流文化であると、先に説明しました。

平安女流文学の基礎にあるのは、和歌です。平安時代の物語の始まりは、
「歌物語」です。和歌にはときどき詞書という短い文章が付けられているのですが、その短い文章がだんだん長くなって、物語になってゆきました。となると日本の文化の中心にあるのは、和歌、万葉、古今、新古今なのです。

文明には基本テキストがあります。ヨーロッパですと新約聖書、旧約聖書、ほかギリシャ・ローマ時代の著作などです。中国ですと四書五経ですね。インドですとマハーバーラタなどヒンズー経典です。イスラムは無論クルアーンです。

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日本の場合、それが和歌です。和歌が発展して平安女流文学になり、それが女性に広まり、識字率を上げ、近代化を成功させ、今日の日本を作りました。西洋社会の聖書に該当するものが、日本社会の和歌です。なんだか日本の特徴が見えてきますね。

8、日本の短所

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和歌というのは基本恋愛の歌です。花鳥風月も恋愛にからめて歌います。全て感覚的です。非常にきめ細やかです。瞬間、瞬間の喜びを大事にします。この和歌の特性はそのまま、日本の特性です。逆に言いましょう。

日本にヒンズーのような無限に広がるイメージ世界はありません。日本は基本的に現実世界を愛でながら心を遊ばせるスタンスです。

日本にイスラムのような強い行動原理はありません。日本は現実を眺め、それを感受するのが基本です。感受したあとどう行動するかは、特に決まっていません。

中国のような練り上げられた政治感覚もありません。日本は今ここにある、身近な人々との関係が全てです。だから中国人の、大義名分と面子と利益が絡まりあった複雑怪奇な政治は理解できません。

だから日本が悪いとは思いません。もともとこのような文化なのですから、
そういう特徴があるのだと、きっちり認識していれば十分だろうと思います。

9、ヨーロッパとの比較

ヨーロッパの基本的テキストはバイブルです。しかしバイブルが一般に流布したのは、宗教改革以降、16世紀です。かなり遅いのです。そういう意味では日本にくらべて文化が庶民に行き渡っているいるわけでも、練り上げられているわけでもありません。庶民文化としてはむしろ脆弱です。というより日本以上に庶民文化が充実している民族は、世界見渡してもちょっと無いですね。

しかしヨーロッパにも長所はあって、バイブルを読んで議論をしていたのですから、当然思弁的、哲学的になります。

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一方で日本は和歌を読んで感傷的になるのが基本ですから、カントのような思索的な態度はありません。ありませんがそれはそれ、もともとそういう文明なので、そういう特徴があるのだと、きっちり認識していれば十分だろうと思います。



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