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東大新卒ゲストハウス経営記 後編

※このnoteは120スキを達成した「東大経営学科卒が新卒でゲストハウスでプチ経営してみた話」の続編です。

※Beds24の導入相談受け付けてます。

※すき、サポート、シェア 励みになります。長い(12500字)ので、「いいね」と思ったタイミングで「すき」をお願いします!

早いもので、7月31日をもって僕の縁側書生生活(古民家ゲストハウス鎌倉楽庵での住み込みスタッフ)が終わりました。

利益が150%になりました。ゲストハウスでの経営期を書き残したいと思います。記事を読んでくださったみなさんにも、役に立てば幸いです。

鎌倉楽庵経営の目標

ゲストハウス鎌倉楽庵でスタッフをやっていたのは、目標がありました。

①事業全体に関わることで、経営の感覚をつかむ

②企画・プロモーションを行い、鎌倉楽庵をただの宿泊所以上のコンテンツを持った差別的存在にする。

5月からのポイントをロジックツリーにしてみました。

①顧客満足度の向上
②値上げをする
③集客する
④宿泊事業以外での収益確保(企画)
⑤労働投入量削減(できるだけスタッフの仕事を楽にする)
⑥金銭投入量削減(単純にコストを下げる)

楽庵でやったことは最終的に上の6つに帰着します。

写真の切り替え**

江ノ島シネマのロケハン(企画で後述)の時に、お願いして楽庵の写真をカメラマンの福井さんに撮っていただきました。普段は映像を撮っていらっしゃって、全くのジャンル違いなのですが、快く了承してくださり、本当にありがたかったです。

ビフォーはこちらです。

全然雰囲気が違いますね

Airbnb, Booking.com, HPの写真を福井さんに撮っていただいた写真に入れ替えたら、予約がめちゃくちゃ増えました。変える前と後では体感で2倍くらい予約の入るスピードが違いました。

はっきり言って、利益が伸びた理由のほとんどは写真の効果だと思います。写真の効果を確信してから、大学の写真が上手な後輩を呼んで、鎌倉の写真を撮ってもらったり、ゲストが撮ったいい感じの写真をもらうようにし、いいものがあれば随時使っていきました。

HP作成

縁側書生生活の後半はHP作成に労力を割きました。かなり時間はかかりましたが、自力で納得のいくものができて嬉しいです。

HPの主な役割として3つ設定しました。

1.鎌倉楽庵として魅力的な情報を伝えブランディングの基礎とする

2.宿泊以外の企画を伝える場所

3. 予約サイトの手数料削減

実際のホームページも是非のぞいてみてください

HP制作の目的

Wixで作っていた以前のHPには問題がありました。

①予約がとりにくい

Booking.comなどの予約サイトにホテルが払ってる手数料って、いくらか知ってますか?実は、予約金額の12%も払ってます(Booking.comの場合)。めちゃ高いので、出来るだけ自社で直接予約を取ることが利益を増やすために必要です。

以前のHPでは、下の写真みたいな感じで、Google calender に空き部屋を入れて(めんどくさくて更新が滞りがち)、問い合わせフォームに入力してもらっていました。お客さんとしては、すぐに予約できない&空いているかどうかわからないので、UXとしてはかなり悪い部類です。

Wixで予約システムを組み込むこと(Wix booking)を最初は検討していましたが、ゲストハウスのドミトリー運用に対応していないため、断念しました。外部のサービスを組み込むことも考えたのですが、高いうえにWixの接続性が悪いので断念しました。サイトコントローラーとして使っているBeds 24は無料で予約機能も付いているので(Wordpressのプラグイン)、Beds 24を使うことを前提として、WordPressでHPを構築することにします。

②スマホに対応していない(レスポンシブ対応できていない)

元のブログのスマホ表示はこんな感じでした。今の時代、ネットはスマホでみるものです。鎌倉楽庵のサイト訪問者も8割はスマホ経由であることからも、スマホ対応デザインが重要であることがわかります。

③そもそものデザイン・コンテンツが悪い

Wixの旅館用テンプレにオーナーが情報を埋めていって作っただけのサイトなので、デザインがあんまり良くないです。そもそもゲストハウスや鎌倉楽庵の魅力が伝わっていない。春夏秋冬、いる?文章の位置もズレてますね。

やはりテンプレに情報を埋めるだけではなくて、テンプレをベースに自分たちの魅力を発信できるようにカスタマイズするのが大事です。

鎌倉楽庵の価値の再構築**

「ホームページ、作ろう!」となったのですが、まずどんなHPにするかを考えないといけません。鎌倉楽庵の価値を伝えられるHPにするために、「鎌倉楽庵の価値ってなんだっけ?」というところから始まりました。

1.安価で清潔な古民家であること

ゲストハウスって綺麗なところも汚いところもあって、結構当たり外れが激しいんですよね。楽庵は古民家のテイストをがっつり残した日本家屋なのに、リノベから5年しか経ってなくて綺麗です。しかも値段はひとり一泊3500円から(値上げのところでもっと踏み込んで書きます)。コスパ抜群です。

2.観光地に近いこと

鎌倉楽庵は江ノ電の長谷駅にあって、鎌倉の観光スポットへのアクセスが抜群です。

海が近くにあるっていいですよね。写真は七里ガ浜から江ノ島方面を撮ったものです。楽庵からは由比ヶ浜も徒歩3分なので、僕もよく泳ぎに行ったり、ぼーっと海を眺めて黄昏たりしてました。中国人の超人気の鎌倉高校前(スラムダンクのオープニングで有名)も江ノ電ですぐです。

紫陽花が有名な長谷寺は徒歩3分です。鎌倉大仏も近いです。

3.スタッフ・ゲストとの交流

ゲストハウスの醍醐味と言えるのが、ゲストとスタッフとの交流。この辺はスタッフの個人の力量だったり、その日の気分で大きく左右されます。

(台湾からのゲスト。一緒にサーフィンに行った。)

ゲストハウスでの体験の質はスタッフによる部分がかなりあります。仲良くなったお客さんもいれば、普通に泊まって帰るだけだったお客さんもいましたが、自分は結構いいスタッフだったんじゃないかと思ってます。

(中国のゲストと日本人のグループで一緒に飲み会)

HPを作ろう!(実装編)

どんなことを伝えたいか決めたところで、いざ、ホームページを実装しよう!段階に入ります。

まず考えることは、どのサービスでHPを作るか、と言うこと。

選定の基準は以下の2つです

⒈Beds24の予約システムが連携できること
⒉維持管理が簡単で、安価であること

Beds 24は、鎌倉楽庵で5月から導入した宿泊施設用の在庫管理のシステムです。(参照Beds 24はタダでWordpressに予約システムを埋め込めます。

ちなみに、鎌倉楽庵がBeds24に払ってるのは月たった2400円です。Beds24はチャネルマネージャーの中でも圧倒的コスパがいいですね。(導入コンサル始めました。興味あったらhipponn1@gmail.comまで連絡ください。)

ということで、Wordpressでサイトを作ることに決めました。

サーバーはネットでオススメされていたxserver (月1000円)、ドメインはxserverのキャンペーンで無料でした。

HPを作るのは初めてで、デザイン面でも実行可能性でも不安があったので、有料テーマ(bellevue)(6000円くらい)を使うことにしました。

bellevueはelementorでの編集が基本です。elementorはブロックでHPを直感的に作成できます。(とは言っても慣れるまでは???という感じでした。)実際の編集画面はこちら。

また、google analyticsやsearch consoleに登録してSEOの基盤を作りました。実際にSEOまでできなかったのは残念です。

また、google mybusinessのホームページ(google mapに出るウェブサイトの欄)を変更し、元々のwixのサイトを閉鎖しました。実はここにトラップが有りました。

通常ホームページを引っ越しするときには、前のHPの検索順位を引き継ぐために301リダイレクトという設定をするのですが、wixの無料プランでサイトを作っていると、新しいサイトをwix以外で作ったときに301リダイレクトを設定できません。そのため、新しいサイトは0からSEO順位を上げていかないといけませんでした。

値上げ

1人一律3000円だった宿泊料を値上げしました。ゲストの数を減らすことなく客単価が10%以上伸び、利益の伸びに貢献した施策です。

【6畳の部屋】
個室利用  2人:8000円 3人:11000円 
男性ドミトリー 3500円〜

【12畳の部屋】
個室利用:2人で9000円、以降1人追加ごとに+3000円
女性ドミトリー:3500円

適正な価格とはいくらなのか

値上げに対して否定的な考えを持っている人も多いと思いのではないでしょうか。確かに、値段を上げるとお客さんの立場からすると単純に損なように思えます。しかし、僕は値上げをすることは長期的に鎌倉楽庵が生き残るために必要な施策だと考えました。

上の図は価値価格マップと呼ばれるものに、楽庵をポジショニングしたものです。縦軸が価値、横軸が価格を表しており、斜めの線は適正な価値と価格のバランスを示しています。斜め線を下回ると「質の割に高い」と感じ、斜め線を上回ると安いのにいい」と感じます。

値上げ前の楽庵は図の①の状態でした。お客さんが感じる価値の割に値段が安すぎたのです。利益を増やすために、僕は②の状態に移行することを目指して値上げをしました。

しかし、値上げをすると実際には③の状態になっていることに気づきます。

お客さんが前よりも多くのお金を払っている、つまりそれだけ期待値が高くなっていると意識するので、僕が「もっとゲストに満足してもらおう」と様々な施策を行うからです。また、値上げで設備投資に回せるお金が増え、ティファールや本棚などにお金を心置きなく使うことができます。

つまり、値上げに応じた改善策を行い続ける限り、ゲストの満足度を下げることなく(口コミ評価を下げずに)利益を伸ばすことができるのです。

スクリーニング

値上げにはもう1つ重要な側面があります。それがゲストのスクリーニングです。
つまり、値上げによって鎌倉楽庵のコンセプトを理解してくれるゲストに絞って集客することができます。

値上げ以前は鎌倉楽庵はエリアで最も安いゲストハウスでした。そうすると、ただ「安いから」という理由で選ばれることになります。鎌倉楽庵の魅力は安さだけでなく、古民家のコンセプトやスタッフとの交流も魅力です。古民家や交流が満足度につながらない人が「安い」鎌倉楽庵を選ぶと、鎌倉楽庵の価値を感じられず、いい口コミをもらうことができません。

だから、「最安値」ではなく、あえて他のゲストハウスと横並びにすることが、ゲストにとっても楽庵にとってもハッピーな状態だと考えます。

企画・ブランディングへの挑戦

鎌倉楽庵でチャレンジしたかったことが企画・ブランディングです。取り組みたかった理由は3つあります。

1.他のゲストハウスと差別化し、価格競争に飲まれないようにするため
「〇〇があるから楽庵に泊まりたい」と思ってくれるお客さんがいると、価格を下げなくても良くなります。
2.収益の柱を増やし、外的要因からの影響を分散させるため
例えば、宿泊事業は鎌倉でレッドオーシャン化しつつあります。もし楽庵が値下げに踏み切らないといけなくなったとしても、例えば飲食事業で稼げていれば、一定の収益をあげ続けることができます。
3.収益の限界を突破するため
宿泊事業はハコの大きさと単価で利益の上限が見えやすい事業です。例えば一泊3000円で10人泊まれるところだと、月の売り上げは3000*10*30=90万円が上限です。僕の運営していた最後の方は、予約がいっぱいで空室がない状態で、それ以上利益をあげるのが難しい状態でした。やることがなくなって、他の事業やって見たくなった、ということです。

いろんなことを試して見ましたが、なかなか実になるものって少ないですね。

鎌倉ゆかりの貸本屋(断念)

以前noteに書きました。著作権の問題で断念しました。

飲食店営業(断念)

実は鎌倉(特に長谷周辺)の飲食店って、閉まるのめちゃくちゃ早いんですよ。だいたい8時にラストオーダー、9時閉店のところが多くて、夜飲めるところがそんなにないんです。お客さんでも食べるところがなくて困る人が多かったので、夜10時まで食べて飲める飲食店を楽庵でやれば需要があるのでは?と考えました。

新潟県燕三条のゲストハウストライアングルさんがバーレストラン併設型で、宿泊のお客さんと地元の方が楽しく飲んで交流する場になっていて、これはすごいぞ、と思って鎌倉楽庵でもやりたいと思いました。楽庵はいいキッチンとリビングがあるのですが、個室の利用が増えていくのにとも伴って、お客さんの交流の場所として活かしきれていない部分があります。経営的にも、飲食店は特にお酒の利益率が高く、うまくいけば美味しい事業です。

(楽庵のキッチン)

オーナーに相談して、やってみようということになったので、早速楽庵の図面を持って保健所に許可を取りに行きました。建物の構造的には大丈夫そうだ、ということで本申請。確か16000円かかりました。また、食品衛生責任者の資格も必要だということで、オーナーの奥さんと二人で受講しに行きました。が、とうとうあとは保健所の実地調査で許可を取るだけ、というところで問題が見つかりました。

壁と天井に漆喰の部分があり、「清掃しやすい壁であること」という条件に引っかかってしまったのです。

板材などを貼れば許可を出してくれる、ということでしたが、他にも「キッチン内に調理者以外が入れなくなる」「冷蔵庫にお客さんや自分の私物を入れられなくなる」等の問題があり、今の楽庵の運営方法と競合してしまうことがわかりました。そもそも、飲食店営業をするとスタッフの自由な時間が大幅に減ってしまうこと(時間対効果が低い)、後任のスタッフが料理できるとは限らないこと、などなど、事業としての旨味もそんないにな、と思い始め、結果として、飲食店営業許可申請を取り消すことになりました。申請にかかった1万6千円はもったかったですが、オーナーも怒ることなく、本当にいい人に巡り会えてよかった。

(中国のゲストにご飯を作ったとき。お返しに中華料理を作ってくれた。)

サムライ体験イベント(実施、継続)

!?!?

急にテイストが変わりましたが、毎週水曜日にサムライ体験イベントをやることになりました。(airbnbページはこちら)

なぜサムライ???と不思議に思う方もいらっしゃると思いますが、これには深いいきさつと偶然の出会いがあり。

ある日、ご近所のゲストハウスIZA鎌倉のうどんイベントに飛び込み参加したら、その方々はいました。

「サムライ」です。和服姿の集団が、打ち粉で和服に雪化粧がつくのも厭わず、テンポよくうどんを打っているではありませんか。

「これは只者ではない」と思い、サムライ達とFacebookを交換。詳しく話を聞いてみると、サムライは武道教室の先生らしく、外国人に日本文化を伝える仕事をしている、と。古民家の楽庵で是非サムライ体験イベントをやりたい、ということでとんとん拍子に話が進み、開催する運びとなりました。

(両脇がサムライ。)

経営的な観点で言うと、サムライイベントはもちろんプラスになっています。
楽庵は場所を貸しているかたちで、運営は全てサムライがやってくれるので、手間をかけずに賃料をいただくことができます。チェックイン前の時間に開催するので、楽庵としては有効に場所を使ってもらえます。
体験の質もいいので、楽庵のお客さんに参加してもらっても、満足度が上がることが考えられます。あとはサムライ体験から楽庵宿泊への導線ができれば完璧です。

水曜日以外は空いているので、お昼の時間帯に楽庵でイベントをやりたい方は、rakuan.japan@gmail.comまでご連絡ください。

映画「たからもの」撮影**

ご縁があって、江ノ島シネマ(https://maluaproject.com)の「たからもの」という作品のロケ地に選んでいただきました。

江ノ島シネマは、江ノ電の各駅で物語を作るというプロジェクトで、縁側のある古民家をロケ地に探しており、鎌倉楽庵に白羽の矢が立ちました。

セミプロの映画と聞いていたのすが、めちゃくちゃ本格的な撮影でした...!

15分の短い映像でしたが、作るのにこんなに時間と労力がかかるんだ、と驚きましたし、何より監督をはじめとして役者さん・スタッフさんの熱量がハンパなくて、とにかくスゲエ...!としか言えませんでした。

(夜までかかった撮影の後片付け。)

特にいながわ亜美監督のマネジメント能力には脱帽しました。短い期間でロケハンをし、役者やスタッフに連絡、荷物や小道具の搬入やら何から何まで全部の都合をつける。まさにプロの仕事っぷりでした。役者さんとも休憩時間中にお話しさせていただきましたが、演技の時間になると雰囲気が一変、「役者」のモードへの切り替えは感動しました。

(たからものの皆さんと。皆さんお疲れ様でした!)

設備の充実とUXの快適化

お客さんの満足度を高めるために、設備を充実させました。

シーツ・布団の買い替え

楽庵の評価を下げていた大きな理由は「布団」でした。ポイントは2つ。

1.布団が汚い

5年目になってくると、布団はペシャンコになり、どうしても汚れてきます。とりあえず布団を全て買い換えました。

2.シーツをつけるのが大変

楽庵ではシーツのセルフサービスをお願いしているのですが、敷き布団も掛け布団もシーツの中に入れるものを採用していました。
そうすると、柔らかい掛け布団はまだしも、硬さのある敷布団はシーツの中に入れるのが重労働で、海外のお客さんのレビューに「シーツを受けるのが大変」とよく書かれていました。シーツを1枚布の折り込みタイプに買い換えると、布団の悪いレビューはなくなりました。

名簿の作り直し

ホテルとか泊まるときって住所とか職業とか書かされますよね。あれは保健所に提出するために書いてもらわないといけないんですが、書くの面倒くさいですよね。そこで、項目を極限まで減らしました。

before

after

入力項目を減らすこと以外にこだわったのが、予約サイト・オプション・料金を書く欄を作ったこと。

実は、鎌倉楽庵では現金でもらった宿泊費をオーナーに渡すときに、この名簿の紙と同時に渡すことで確認していました。いちいちBeds24の帳票と照合しながらお金を確認するのですが、中国人だと本名が「金」でも予約名が「Jin」となっていたり、あとで帳票と照合する時に「あれ、この人誰?」となることが多く、照合に時間がかかっていました。料金の欄を作ることで、「あ、この人は〇〇円ね」と一目でわかり、会計処理が楽になりました。

本当はクレジット決済を導入するのが、売上管理の観点からも顧客サービスの観点からもベストだと思うのですが(海外でいっぱい現金持ち歩くのって不安ですよね)、オーナーが手数料3.6%をケチって渋ったのでできませんでした。Beds 24は決済システムStripeとの連携に強いらしいので、もしBeds24を使っている方がいればオススメします。

noteの反響から採用まで

おかげさまで「東大経営学科卒が新卒でゲストハウスでプチ経営してみた話」


はnote編集部のおすすめ記事に入り、たくさんの方にシェアしていただき、大きな反響がありました。最もnoteのありがたみを感じたのは「採用」です。

小さいビジネスだと、採用は苦労することが多いです。もし採用できなければ楽庵は土曜日だけの営業になってしまい、そもそもの運用効率が7分の1に劇落ちします。また、少ない応募の中からたとえ採用できたとしても、その人がきちんと運営できるか、楽庵の雰囲気に馴染めるか、というのは、たまたま1人応募した人を採用するのだとなかなか担保できないものです。(僕はめちゃ馴染みましたが)

実は僕が入る前は1年ほど楽庵にはスタッフがおらず、倍率1倍で採用されました。それまでは育休を取っていたオーナーの奥さんが休み休み運営していました。
ほとんど申し込みもなかったのですが、noteを書いてから幸いにも4人の方から住み込みスタッフの応募をいただきました。倍率が4倍に跳ね上がりました。

オーナーがメインで面接して、僕も少し面接に同席し、最終的に1人の方に引き継いでもらうことになりました。面接に来てくださった方々、興味を持ってくださりありがとうございました。

住み込みではありませんが、ボランティアで時々楽庵の運営を手伝ってくれるスタッフは引き続き募集している(はず)なので、もし興味のある方がいらっしゃったら楽庵のホームページからお問い合わせください。

運営システムの変更と効率化

鍵の設置

キーボックスを買いました!

革命です。キーボックスがないと、いつお客さんがチェックインするのかわからないので、スタッフはずっとゲストハウスにいないといけません。また、連泊のお客さんがいらっしゃると、お客さんの予定を聞いて、いちいちそれに合わせて帰ってこないといけませんでした。

キーボックスを導入したことで、連泊のお客さんがいても番号さえ共有しておけばスタッフは業務時間外は気兼ねなく外出できるようになりました。また、事前に番号を教えておくと、スタッフ不在でも早めに荷物だけ中に入れてもらうことができるようになります。荷物を安全に預けられるようになったのは、大きな進歩です。


チェックイン時間の変更

チェックインの開始時刻を15時から17時に2時間遅くしました。

スタッフとしては労働環境が一番改善されたポイントです。
10時チェックアウト15時チェックインだと、スタッフがゲストハウスを空けられるのは5時間しかありません。その間に掃除をして洗濯をして次のチェックイン準備をして、昼ごはんを作って食べると13時とかになることが多く、2時間しか遊べませんでした。しかも15時から空けてもゲストがいつくるかわからず、もし事前にメッセージをくれていても普通に遅れます。

17時チェックインにすると、時間と心の余裕が生まれました。4時間あったら、スタバでnoteを書いたり(鎌倉のスタバは横山雄一亭を改装した超オサレスポット)、鎌倉のちょっと離れた観光地にも行けるし、東京で友達とお茶することだってできます。ストレスフリーに働けると、接客もニコニコできます。

チェックイン時間を遅らせると、お客さんにとって不便じゃない?とオーナーにも指摘されました。
実際に接客していて思うのが、15時〜17時にくるお客さんは大体荷物を置いてすぐ観光に行きます。キーボックスを設置して勝手に入ってもらい、荷物だけ安全な場所に入れてもらえば、チェックインは別に遅くなっても問題ないのです。
1泊3500円なので、ホテルみたいなフルサービスを提供する必要はなくて、楽できることは楽するのが大事です。

メッセージの自動送信
Booking.comのメッセージ送信を自動化しました。デフォルトの機能でついているので、なぜ使っていなかったのかわかりませんが、個人事業主レベルだとそういうのも多い気がします。自動送信にすることで、スタッフの作業は減り、お客さんに道順案内を送り忘れたりすることもありません。

beds24の設定の細かい修正

宿泊事業で困るのは、空室が出ることです。宿泊事業はお客さんが泊まりに来たとしても、一人当たりのコストはほとんどかかっていないので、ある程度安売りをしてでも空室にしないことが利益を出すために大事です。飛行機とかと同じですね。
鎌倉楽庵では、2階の個室(12畳)が空室になることが頻繁にありました。というのも、2階の個室の運用方法は4人以上のグループor女性ドミトリー で、1階の2人or3人の個室に比べ客層が薄いからです。家族でゲストハウスに泊まるのはあまり選択肢には入ってこないし、そもそも家族連れの旅行者は、ペアの旅行者に比べて少ないです。

そのため、「4人以上の個室」としての運用を変更し、通常時は「3人以上の個室」、1週間前までに部屋が空いていたら「2人以上の個室」として値引きすることにしました。

4人の場合だと「両親と子供二人」か「グループ旅行」しか泊まれませんでしたが、3人だと「両親と子供ひとり」とか「仲良い3人の女子旅」とか、ターゲット層が厚くなります。1週間前に空いていれば、利益は少なくなりますが、鎌倉で一番需要が大きいカップルも安く泊まれます。家族とかグループは前々から予約する傾向があるので、1週間前だと3人以上は入りにくいので、2人個室運用もできるようにしています。この運用にしてから、2階の部屋の稼働率が上がりました。

ギターを置く

鎌倉での新しい趣味として、ギターとサーフィンを始めたのですが、思いがけずゲストとの交流のきっかけになりました。

ギターに限らず、音楽があると人が集まる場所は一気に楽しくなります。noteに動画を載せれないのと、ギターを弾く人がシャイなことが多くてそんなに載せませんが、ゲストとギターを弾き、歌を歌ったことは本当に心地よくいつまでも忘れない時間です。

故郷トルコの民謡を弾いてくれたドイツからのゲスト

結果としての利益150%

利益はおよそ150%になりました。月の利益はこんな感じで伸びていきました。

4月は中旬から営業を始めたのと、僕が入ってから予約を取り始めたので少なめです。右肩上がりに利益が伸びていきました。

僕が入る前の2年前の5月の利用者数が105人、今年の5月が146人であることを考えても、僕が利益を1.5倍にしたと言ってもいいでしょう。(5月はGWがあり一昨年も今年も満員なので、比較的差が出にくい月です。)値上げで客単価も10%以上上がっています。

Airbnbスーパーホストを獲得しました

これは前のnoteでやった「部屋プランごとにリスティングページを作成する」のおかげです。以前は問い合わせた際の満室率が高かったのでスーパーホスト要件を満たせませんでしたが、Beds24を使った連携で部屋の空き状況をリアルタイムで反映できるようになり、問い合わせを全て受け入れることができるようになりました。

Booking.com の評価が8.6から8.9へ

僕のいる期間で8.9まで上がりました。ゲストとコミュニケーションをとって満足度を上げることで、ゲストハウスの評価は上がります。利益が伸びるのも嬉しいですが、こうやってゲストからいい評価をいただくのも本当に嬉しいです。ちなみに写真では9.0まで伸びていますが、これは後任のスタッフが頑張っているから。9.0を取るのはとても大変で、ゲスト全員に対していいコミュニケーションを取らないといけません。すごい。

課題とこれからの方向性

近隣住民との交流

お店をやるときには近隣住民の理解が不可欠です。特に鎌倉楽庵は民家に囲まれているので、ご迷惑にならないようにコミュニーケーションを取ることが大事です。

ある日、たまたまご近所さんに会ってご挨拶をしたところ、「縁側でギターを弾いているのが響く」「中国の方の深夜の話し声がうるさい」などのご意見をいただきました。すぐに対応したのですが、ご近所さんに迷惑がかかっていることを認識させられ凹みました。

普段からコミュニケーションを取っておくと、もっと早い段階で対処できたと思います。また、今後他の企画をやるときも、ご近所さんに体験してもらうなど、理解を深めるべきだと思いました。ご近所さんみんなが楽庵を応援してくれる状態だと、新しい挑戦もしやすくなると思います。例えば、庭で七輪で秋刀魚を焼く、という企画をするにも、匂いやゲストの音の問題があります。ご近所さんも一緒に楽しめると、秋刀魚の匂いも美味しく感じられると思います。

多言語対応

最近は中国の中高年の方が泊まりに来られることも多く、英語が話せない方もいます。表示や案内、ウェブサイト、スタッフの言語も英語・中国語まで対応できるべきだと思います。特にホームページはまだ英語対応すらしていないので、早めに対処できるといいと思います。

近くのゲストハウスとの連携

鎌倉にはゲストハウスがたくさんありますが、それぞれがバラバラに活動している状態です。直接競争に関係ないシステム周りのノウハウを共有したり、受け入れられなかったゲストや応募者を斡旋したり、と協力できる部分は協力するべきだと考えます。ゲストハウス横断型のイベントを行って新しい価値を創造したり、地域ゲストハウスデーを作って地域住民の認知度と理解度を高めたりもできると思います。

企画の充実

楽庵の収益の柱はまだ盤石とは言えません。チェックインまでの空いている時間をいかに有効活用するか、営業時間中にシナジーのある事業を行うか、を将来的な生き残りのために考える必要があります。

データ経営

Beds24やGoogle Search console など、データの基盤は整えましたが、まだデータを経営に活かせていません。なんとなく、の勘の経営からデータで判断する経営にシフトして行くべきだと思います。もちろん、勘や感覚の部分は大事にするべきですが、データを使って判断の基準を明確化できると考えています。

あとがき

楽庵に来てくださった全てのゲストと、お世話になった皆様、そして家族のように接してくれたオーナー夫婦に感謝します。

面接のとき、長谷観音に「楽庵での仕事がうまくいきますように」とお願いしたことが昨日のように感じられますが、みなさんと過ごした時間もまた、ほんの昨日のことのように思い出されます。

掃除をして、読書をして、海を眺め、ギターを弾き、ゲストを迎え、ご飯を作り、オーナー家族と飯を食い、ときにはゲストと飲み食い笑う。

鎌倉でものごとはゆったりと調和し、僕のすべてを満たしました。

はっきりと言えることは、僕は鎌倉楽庵で働けて幸せだった、ということです。

どこかマラソンの道を走るように生き急いでましたが、鎌倉と楽庵での時間は、思うままに生きていいのだ、と気づかせてくれました。

8月からは会社員としての仕事が始まり、どうしても思うままに生きられないこともあると思います。

そんなとき、楽庵に帰って、由比ヶ浜で波を眺めると、何もかもを思い出せると思うのです。

ゲストの皆さんが旅をして楽庵に来てくださるように、僕も旅をしてゆきます。

みなさんの旅の思い出のカケラになれていますように。


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