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【無償型SO】なぜM&A Exitでストック・オプションは税制適格ではなくなるのか?

皆さんこんにちは。藤原です。今日はスタートアップやその従業員、また投資家の皆さんにとって馴染みがある『無償型ストック・オプション(新株予約権)』の、特に『税制適格』について書いてみようと思います。なるべく分かりやすくしますので、しばしお付き合いください。

税制適格とは何か?

現在スタートアップなどで利用されているストック・オプション(新株予約権)は大きく分けて無償型・有償型・信託型の3つがあり、ご存じの通り『税制適格』のややこしいお話しが出てくるのはこの中の無償型の場合です。

実は信託型もなかなか面白いスキーム(正式名称を「時価発行新株予約権信託」と言い、これの開発者で弁護士の松田良成氏によって商標登録「第5851183号」されています)でして、ぜひご紹介したいのですが、話がそれるし長くなってしまうので、また別の記事で書きたいと思います。

ストック・オプション(新株予約権)は、会社に対してある特定の価額で新株式または自己株式の購入請求を行うことができる権利で、会社法上は有価証券の一種です(会社法236条〜294条)。その有価証券を従業員や役員などにタダであげちゃうから無償型新株予約権と言います。

例えば「時価20,000円の株式をたった100円で買える権利をあげます」と言われたら、かなりお得感があると感じます。もらえると普通は嬉しいものです。

会社にとっても権利を渡しているだけなので、キャッシュアウトが伴わない報酬として活用できることや、株価がまだ安いうちに発行した方が将来大化けするかもしれない夢のある有価証券になることから、設立間もないスタートアップが優秀な人材を惹きつけるための有効なツールになり得ます。

しかしながら、有価証券をタダでもらうと、たいてい何かしら課税されることが普通です。世の中、もらいっぱなしで納税しなくて良いってことはあまりないです。そして重要なのが、ストック・オプションは株式を買える権利ですので、もらった人はもらった時点あるいは権利行使して株式を購入した時点では、まだ1円のおカネも得ていません。にもかかわらず、これに対して課税されてしまうと、基本的に税金はキャッシュで支払いますので、手持ちのおカネが先に減ってしまうことになります。

従業員へのストック・オプションの付与は、税務上は「給与」と見なされますので、収入が多い人に対しては累進課税によって高い税率を課せられることがあります。将来、そのストック・オプションが大化けするかも知れないとはいえ、これではあまりメリットを感じられない人もいて、使い勝手が悪いものになってしまいます。(ちなみに会計上は「人件費」でして、計上方法は後述します)

そこで、ある一定の要件を満たせば、ストック・オプションをタダでもらったタイミングや、それを権利行使して株式を購入したタイミングでは一切課税せず、その株式を市場で売却するなどしてキャッシュを得たときに初めて、キャピタルゲイン課税(税率20%)する、という優遇制度が誕生しました。その一定の要件のことを『税制適格要件』と言います。『税制適格要件』と言います。大事なことなので2回言いました。税制適格要件を満たす課税関係を下図に示します。

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