風俗福祉を極めし者は、社会福祉を極めし者(夜の世界と社会をつなぐNPO理事長の月報:2024年4月号)
こんにちは、風テラス理事長の坂爪です。
最近仕事の合間に読んでいるマンガ『こころのナース夜野さん』(水谷緑・小学館)第3巻の中で、「依存症看護を極めし者は、精神看護を極めし者」という印象的なセリフが出てきました。
アルコール依存や薬物依存など、依存症の背景には、本人の生育歴や過去の虐待・性暴力などの被害体験、ストレスや不眠、障害や病気など、様々な要因が複雑に絡み合っていて、それらをときほぐすだけでも、膨大な時間と手間がかかる。
回復に至るまでの道も、一筋縄ではいかない。何度も再使用や再入院を繰り返し、そのたびに自分自身や周りの人を傷つけてしまうケースも少なくない。
精神看護の領域で得られたすべての知見、培われたすべての対人援助のスキル、そして地域の社会資源を総動員しないと支援が難しい、という意味で、「依存症看護を極めし者は、精神看護を極めし者」と言われるようになったのではないでしょうか。
そう考えると、私たちが日々行っている風俗で働く女性の支援も、実は似たようなところがあるのでは、と思いました。
ホスト依存や買い物依存だけでなく、風俗で働くこと自体に依存してしまう=風俗がないと生活やメンタルが維持できない、と訴える相談者の方も多いですが、その背景には、本人の生育歴や過去の被害体験、ストレスや不眠、障害や病気など、様々な要因が複雑に絡み合っている場合もあります。
ご本人の主訴を理解して、適切な対応をしていくためには、精神保健福祉、障害者福祉、児童福祉など、複数の分野を横断する知識と経験が求められます。
そして、複雑に絡み合った要因をときほぐしていく過程で、福祉的な課題の背景に隠れている、法的な課題にぶつかることがあります。借金・離婚・DV・ストーカーなどの困りごとを解決していくためには、弁護士との協働が欠かせません。
風俗で働く女性たちとは、ただ座って電話を待っていても、つながることはできません。SNSでの情報発信やWEB広告などのテクノロジー(デジタルアウトリーチ)を活用しないと、そもそもつながること自体が難しい。
つながった後も、対面や通話での相談スキルだけでなく、チャットのテキストベースでつながり続けるスキルも必要になります。
ソーシャルワーク×司法×テクノロジーの総力戦で当たらないと支援の入口に立てません。
一方で、ソーシャルワーカーが弁護士と一緒に動く上で必要なスキル、顔の見えない相談者とテキストベースで関係を維持し続けるスキルなどは、現行のソーシャルワーカーの養成課程では、一切教えられていない。
そのため、毎日の現場での試行錯誤を繰り返しながら、それぞれのスキルを身に着け、標準化し、社会に広めていく(ソーシャルアクション!)必要がある。
その意味では、「風俗福祉を極めし者は、社会福祉を極めし者」と言っても過言ではないのでは、と思います。
もちろん、私たち風テラスを含め、風俗で働く女性の支援を極めた個人や団体は未だ存在していません。道半ばです。伸びしろとやりがいだけは無限にある、という状況であることは、間違いありません。
風テラスでは、この春から、ソーシャルワーカーの募集を開始いたしました。チャット・通話対応などを通して、司法ソーシャルワークの最前線で、一緒に働いてくださる方を求めています。
「風俗福祉に関わることを通して、社会福祉を極めたい」と考えておられる方、ぜひご応募頂けるとありがたいです!
またインターン・プロボノ(社会人ボランティア)の募集も再開いたしました。
デジタルアウトリーチ=SNSでの発信を通して、制度の狭間で孤立している人たちとつながるためのコンテンツ作りやイベント運営、広報活動、NPOの資金調達に関心のある学生さんや、ソーシャルワークの視点に興味を持たれている専門職の方からのご応募、お待ちしております!
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